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[無料]遭難ってなんだ?

登山に遭難はつきものですが、遭難ってなんでしょう?山で失敗しても遭難になるケースとならないケースがあります。前者と後者の違いは?

考えてみましょう。

遭難ってなんだ?

統計的には、山でトラブルが起きて自力では解決できず警察や消防に通報されたものが遭難として認知されます。

警察庁の山岳遭難統計では2019年(令和元年)には2531件の山岳遭難が発生したとされています。これらは何らかの手段で警察や消防に通報されたものと思われます。

↑そういうえばこの統計、『概況』となってるけど山岳遭難の定義とか集計方法について書いてないですね…。

事故が起きても通報も捜索依頼もなく、自力で解決されれば、統計的には遭難にはなりません。『ちょっとトラブルがあったけど自力で解決した登山』です。

そういうトラブルは統計上の遭難件数の何倍も起きているはずです。私は一度だけ道に迷ったことがあります。10分程度で解決しましたが、下山後にわざわざ警察署に行って「道に迷ってました」なんて申告はしていません。

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例えば道迷いとか

登山でもハイキングでもなんでもいいのですが、道を間違えたり、どこにいるのかよく分からなくなったりすることがよくあります。

普通であれば、行動中には何度も現在地を確認します。今ならスマホのGPSアプリなどで容易に調べられます。確認して正しいと分かったのなら進むし、間違ったと分かったなら正しい道まで戻れば済むことです。

ちょっと間違えたからと言って即「遭難した!」と騒ぐ人はいませんし、即「通報しなきゃ!」ともならないはずです。

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怪我をしても自力で降りれば遭難統計には出ない

たしょう手を怪我しても歩けるなら、仲間のサポートなどで下山できるでしょう(無理そうなら救助要請しましょう)。

私も山で仲間が怪我をしたことが何度かありますが、救助要請をしたこともあれば、応急処置をして背負搬送したこともありますし、自分で歩いて下山した人もいます。

救助要請をしていない怪我による遭難は公的には知られていないわけですから、遭難統計には載りません。道に迷った人が誰にも知られず二日間山中を彷徨ったとしても、救助要請をしていなければ遭難統計には出ません。

統計に出ている遭難の裏に、多くの知られていない遭難があると思われます。

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なら、どこからが遭難?

通報に関わらず、『自力で状況を制御できなくなったら』遭難です。

例えばこんなケースでしょうか。

・自分や仲間が怪我や急病で動けなくなった。自分たちでは搬送出来ない。

・吹雪に阻まれて雪洞や避難小屋から動けなくなった。

・暴風雨で動けなくなった。

・道迷いの末に滝の上や崖に出てしまい動けなくなった。

・歩いているうちに日が落ちて真っ暗になってしまい、ヘッドランプを持っていない。

この様な状況で、手持ちの装備で耐えられそうにないなら救助要請をするしかありません。

生きていて携帯電話が繋がれば自分で通報するでしょうし、何日も帰ってこなければ家族などが通報をすることになります。

「もう無理!」となったら迷わず救助要請をしてください(というのが現代はスタンダードなようです)。

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状況を制御できてるうちになんとかしましょう

迷わず救助要請と言っても、普通はまず自力で解決できないか考えると思います。特に小さなトラブルならそうしているはず。

・道に迷ったら分かる場所まで戻る。戻れないならGPSや地図を見て登山道に復帰できる道を探す。

・仲間が怪我をしても動けるならサポートして安全地帯に退避する。下山後病院に行く。

・天候が崩れそうなら先に進まず小屋などに留まる、下山する。

・行動が遅れてその日のゴール(日帰りなら下山口、宿泊なら泊地)に遅れそうなら明るいうちにビバークする場所を探して早めにビバーク体勢に入る。このくらいの遅れになると家族が捜索依頼をするかもしれませんし、状況次第では自分で救助要請してください。

・動けないならその場での緊急ビバークになります。こうなったら『状況をコントロール出来ている』とは言い難いので救助要請しましょう。

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ツエルト、ファーストエイドキット、ヘッデンは必須装備

『ビバーク』という言葉が出てきましたが、トラブル時のビバークは安全のためのビバーク(明るいうちに場所を選ぶ余裕がある)と、緊急ビバーク(場所を選ぶ余裕はなくその場で行う)の2種類があります(※)。

※…クライミングや沢登りなどで予定通りにビバークする場合は、計画的ビバークと言います。簡易的な装備での『宿泊』ですね。

ツエルト(簡易テント)

いずれの場合でも、ツエルトを持っていると生存に有利です。救助要請をしても5分で来てくれるわけではなく、天候次第では数日掛かる可能性もあります。

ツエルトは簡易テントです。ペラペラな1枚の布でしかありませんが、きちんと張ればテントに近い居住性が得られますし、被るだけでも風雨を凌げます。雪山で雪洞を作る時にも使います。

現代の登山ではツエルトは個人装備として一人ずつ持つことを推奨されています。ちなみにツエルト(Zelt)はドイツ語で『テント』という意味です。

アライテントのビバークツエルトやファイントラックのピコシェルターの様な、被るだけ、中で座るだけの小さなものもありますが、仲間とも使うことや簡易テントとして使うことも考えるならもう少し大きな物がよいでしょう。

ファイントラックのツエルトは少し高めですが、防水透湿素材が使われているので結露が少ないとされています。ただし、ツエルトはテントほどの気密性がなく湿気がこもりにくいため透湿性はあまり気にしなくてもいいと思います(と書きつつ、私が使っているのはファイントラックですが)。

ドーム型テントと比べれば居住性は落ちますが、きちんと張れば簡易テントしても使えます。

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↑これはファイントラックのツエルト1です。

ファーストエイドキット

ファーストエイドキットもパーティーに一つは持ってください。セットになっているものを買ってもいいですし、自分で買い揃えてポーチに入れても構いません。

テーピング、三角巾、絆創膏、包帯、小さいハサミなどが入っていればよいでしょう。ポイズンリムーバーもあると虫刺されの予後が良くなります(上のセットに入ってるみたいですね)。

ヘッデン(ヘッドランプ)

ヘッデンも必須です。山中で日が暮れると本当に真っ暗になります。歩くことはもちろん、ザックに入った食べ物を探すこともできなくなってしまいます。どんな低山に登るときでも必須です。

電池や充電のチェックもしてください。

書くまでもないと思いましたが一応書いておくと、雨具や防寒具も必須です。真夏でも天気が良い春のハイキングでも必ず持ってください。

遭難してしまうとその日のうちに帰れないかも知れません。今日は晴れていても明日は台風が来るかも知れないし、冬なら太平洋南岸低気圧で大雪になるかも知れません。

『今日帰れなくなっても死なない様に備える』のが登山の装備です。

同じ状況でも死ぬ人と余裕で助かる人がいます

雪山で悪天候になった場合、雪洞を掘って中で風雪をしのげれば助かる可能性が上がります。夏山の雨でも、雨具を持っていなければ濡れて風に吹かれれば低体温症になる場合があります。雨具やツエルトを持っていて安全にビバークできれば、ただの下山遅れで済みます。

もちろん、そうならないように悪天候の山には登らない判断が最善です(と言ってもどうしてもその日、というのもありますが)。

装備の有無や技術の有無、判断の早さで生存確率は大きく変わります。トラブルに対して自分たちの装備や技術(総合力)が上回っていれば遭難にはなりません。トラブルに負ければ遭難になります。

この様なパーティーの総合力を、山岳共済のjROでは『自救力』と名付けています。

自救力は技術が高い仲間が揃っていれば大きくなります。リーダーだけ強くても弱いメンバーが多ければ総合的な自救力は低くなります。単独では自分だけなので、自救力が低いと小さなトラブルでも詰みます。

パーティーの自救力が高ければ、低いパーティーよりも遭難状態になりにくいのです。装備を整え、知識や技術を持った仲間を増やしてパーティーの自救力を上げてください。自救力アップ講習というのもあるので会員は積極的に受けましょう(私も稀に講師をします)。

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道迷いくらいは自分で対処できるようにしましょう

道迷い遭難なんて迷ってすぐには怪我もしていないし普通に歩けるわけですから、正しい道に戻れればその日のうちに普通に帰れます。

登山者が地図、コンパス、GPS(スマホ)を持っていて正しく読図できればあり得ないのが道迷い遭難です。それら装備を持っていなくても、道が分からなくなったら戻るという基本が出来ていれば普通にリカバリ出来ます。

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読図やリカバリの能力は登山者として最低限のものかと思いますが、それでも年間1200人が道迷い遭難をして救助要請をしています。そういう人は、もう少し真剣に登山と向き合い、勉強するといいんじゃないかと思います。

無知の登山は非常に危険です。地形図が読めない方は、登山者としてヤバいという自覚を持ってください。

↑この号の山と渓谷は読図、ロープワーク、気象について特集しています。どれも大事な内容ですからよく読んでください。

道迷い遭難は非常に多い遭難態様ですが、『最もしょーもない遭難』だと思っています。でも、そんなしょーもない遭難で亡くなる人も多くいます。スマホでGPSを使える時代に、道迷い遭難なんてしないでください。2021年ですよ?スマホにGPSが入ってるんですよ?

読図の本だって、今すぐ買って読めるんですから。

無理なら通報しましょう

知識はあっても体力の限界を超えそうだったり、行動不能になった仲間が複数で、自分たちの力ではどうにもならないのなら迷わずに救助要請をしてください。

その場で携帯電話が通じるのなら110番をしましょう。家族や友人を経由するのではなく、自分で110番をしてください。上手く行けば位置情報が送られます。他人を経由すると救助が遅れます。

携帯電話が通じなくて、谷や山陰にいるのなら稜線やピークに上がってみてください。もしかしたら通じるかも知れません。動ける仲間がいるのなら、近くの山小屋に行ったり下山したりして救助を呼んでもらいます。近くに別の登山者がいたら救助要請をお願いするという手もあります。紙に氏名や電話番号、状況を書いて渡しましょう。

警察や消防と繋がったら、あとは指示に従ってください。

通報後にその場で待つ場合も、ツエルトがあると風雨や雪を凌げます。ツエルトは個人装備です。ファーストエイドキットと同じ様に持ってください。

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救助要請をした場合、登山計画書が提出されているとスムーズに進みます。必ず登山計画書を作って提出してください。皆さん、毎回ちゃんと出してますよね?

ココヘリに入りましょう

ココヘリは発信機から出る固有のIDを10km以上離れたヘリからキャッチして遭難者の位置を特定するサービスです。登山計画が残っていて、本人や家族からの通報があれば探しに来てくれます。

特に、単独で山に登る機会がある人は全員入ってください。ココヘリ無しで単独登山なんてあり得ません。入ってないなら今すぐ入ってください。

なお、私はココヘリ関係者とは会話したことも無い、全く無関係のユーザーです。回し者ではありません。

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動かなかったのが良かったって?

よく、遭難救助のニュースで生存者が動かずにいたことを「動かずに待ったことで体力が温存されて助かった」と伝えるシーンがあります。それによって「遭難したら動かずに待っているのが正解」と思い込む方がいるようなので一応書いておきますが、正解は状況次第で変わります。

気づくと崖に出てしまって動けなくなり、進むも戻るも出来ないのならその場にいるしかありません。下手に動いたら落ちて死んでしまうのなら選択の余地はありません。詰んでます。出来ればそうならないように地形や地図をよく見て行動してください。

その山に登っていることを誰も知らないのに、まだ歩けるような場所で動かず待っていても誰も助けには来ません。日本全国を使ったかくれんぼみたいなもんです。見つけてもらえたら奇跡。普通は待った挙げ句餓死して野生動物や虫の餌になります。非常に低い確率で、たまたまそこを歩いた物好きに見つけてもらえるかも知れませんが、遅ければ骨を見つけることになるでしょう。

道に迷った場合、GPSや地形図で現在地が分かっているのならとっととリカバリしてください。大抵の登山者は自力で解決しているはずです。

「待っていたから助かった」というのは、救助要請をして位置が特定されているときの話です。救助要請を受けて現場に行ったらいなかった、というのは助ける側がとても困ります。だから「その場で待て」と言うのでしょうが、救助要請をしていない(出来なかった)のであれば、まずは自力での脱出を目指すのが普通です。

状況がコントロール出来なくなる前に自分でリカバリ出来れば遭難にはならないわけですから。まずは冷静になって、自分で解決する道を探しましょう。

簡単な道迷いなら戻ればいいわけですから、違和感があったらすぐ現在地を確認してください(まぁ、迷う人は違和感に気づかず突き進むのかも知れませんね…)。

まとめ

・自分たちで状況をコントロール出来なくなったら遭難です。

・自力でトラブルを解決できた遭難は遭難統計には出てきません。

・おそらく統計に出てこない遭難が統計上の遭難の何倍もあります。

・コントロール出来るかどうかのしきい値はパーティーの力量で変わります。装備を整え、知識と技術を身に付けましょう。

・ツエルト、ファーストエイドキット、ヘッデン、雨具、防寒具はどんな山でも必須です。

・2021年ですよ?道迷い遭難なんてしないでください。

・とはいえ、遭難したら無理せず救助要請をしてください。

・その場で待つのは進退窮まったか、救助要請をしてから。まずは自力で道を探しましょう。

・ココヘリはいいぞ。

わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。