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[無料]観音峰という山で遭難があったそうなので読図してみた

観音峰という奈良の山で山岳遭難が起こりました。

遭難した方は翌日発見されたそうで、とてもよかったです。

どこをどう登って、どこでどの様な遭難をしたのかなど、情報はまだぜんぜんありません。が、SNSを見ていると『観音峰は遭難するような山じゃない』という反応が散見されたので、本当にそうなのか読図しながら気になる点を書きだしてきます。

想定コース

観音峰という山は登ったことも登ろうと思ったこともありませんが、馴染みがある奥多摩辺りで言えば大岳山や川苔山に規模が似ています。

メジャーっぽい登山口から近くの温泉に公共交通機関を使って登るとして、ちょっと長めのコースも想定するとこんな感じになりました。

スクリーンショット_-_7月26日_午後3_30-復元

以下、地図は国土地理院の地形図に、筆者が青と赤で注釈を追加しています。青は想定コース、赤は注意点、オレンジはヤマレコの『みんなの足跡』を元に書いたバリエーションルートです。

単に観音峰だけ登るのではなく、少し先にある稲村ヶ岳まで足を伸ばすパターンもあるようなので、そのコースで読図してみました。ただ、これで距離などを計算すると15.8kmあり、累計標高も1500m近くになります。68歳の方が真夏に日帰りで行くにはタフすぎるコースかと思います。8~10時間程度掛かると思います。稲村ヶ岳に行かなければ5~6時間程度でしょうか。

単に観音峰の登山だけでも、遭難しそうなポイントはいくつもありますし、おそらく稲村ヶ岳までは行ってないと思います。が、読図をするなら範囲が広いほうが良いと思うので想定コースはこれでいってしまいます。

実はバリエーションルートが多い観音峰

まずは想定スタート地点周辺から。スタート地点の標高は780m。しばらくはトラバース道を進んで1160m程度で1285標高点の尾根に乗ります。

スクリーンショット_-_7月26日_午後3_15

トラバース道では沢を横切る際や急角度で登山道が曲がる地点で道迷いが発生します。横切るべき沢に入り込んで沢筋を登ってしまったり、足元しか見ずに歩いてカーブを見逃して真っ直ぐ進んでしまったりしがちです。

観音峰の山頂付近には西へ伸びる尾根にバリエーションルートがあります。遭難者が始めからバリエーションルートを歩いていたのか、一般ルートを歩いていてバリエーションルートに導かれてしまったのかなどは分かりませんが、バリエーションルートを示すピンクテープなどに誘われてしまうパターンの道迷いもよくあります。

写真 2021-05-29 9 54 03

バリエーションルートの入口以外でも稜線は尾根が派生しており、道迷いしそうなポイントはいくつも見つかります。漫然と歩いていると危険です。

急斜面にあるトラバース道は落ちたら死ぬ

観音峰の山頂稜線から先、稲村ヶ岳に向かったのかは分かりませんし、個人的には行ってないと思うのですが、往復で通るトラバース道は谷側が切れ落ちていそうな等高線です。

スクリーンショット_-_7月26日_午後2_38

こういう場所は登山道にとても多く、多くの登山者は緊張感なく歩いていると思います。崖でも木が生えていると下のほうが見えないので、高度感を覚えにくいんですよね。落ちたら100mは落ちるような場所で手すりもないわけですから、それなりに緊張感を持ったほうがいいと思います。

例えば奥多摩なら、雲取山に向かう小袖のトラバース道。あそこで滑落を怖がる人はほとんどいないと思いますが、実際には滑落事故がよく起きており亡くなった方もいます。『緊張感が無いけど落ちたら死ぬ場所』は要注意です。

稲村ヶ岳周辺は崖マーク

稲村ヶ岳周辺は崖マークが多々あり、道を間違えて変なところに入ってしまうと大変に危険です。

スクリーンショット_-_7月26日_午後2_37

天気がいい昼間なら道が明瞭に見えても、悪天候や日没前、夕方以降は視野が狭くなります。ヘッドライトや懐中電灯で照らせる範囲はとても狭いので、目の前の道標も見逃しかねません。

遭難して気持ちが焦ってしまうと正しい判断が出来ず、いつもなら見逃さない登山道さえ見えなくなります。

登山は常に条件がいいとは限りません。天候、時間、疲労、装備の不調、精神状態などによっていくらでも条件が悪くなります。

単独では特に、ほんの小さなミスや怪我でも命を落とすリスクがあります。準備は入念に、判断は熟考して、慎重に行動してください。

視界が悪いなら無理に行動することを避け、疲労で体や頭が動かないのなら行動食を食べて休憩して下さい。フラフラになっても無理に歩く(または歩かせる)のはとても危険です。

また、ココヘリやGPSアプリも活用して下さい。

ココヘリなしで単独登山など、現代の日本においてはあり得ません。

下山中の遭難に注意

山岳遭難の多くは午後、下山中に起きやすいと言われています。道迷いは尾根が分岐していく下山中に起きやすく、疲労で身体能力も判断力も落ちます。面倒くさくなって「まぁいいか」と済ませたことが、実はよくなかったという事も多々あります。

登山中の「まぁいいか」は禁句です。心の中で『まぁいいか』と呟いてしまったら、本当にいいのかよく考えて下さい(本当にまぁいいかって事もたまにはあるので)。

夏は熱中症にも注意

夏の低山はとにかく暑い。標高が1300mあれば下界より8℃ほど気温が低くなりますが、下界が32℃あれば山頂でも24℃ほどです。晴れの太陽に照らされればなかなかの暑さになるでしょう。無風だとキツイ。

持っていく水の量が少なければ脱水症状にもなりますし、汗でミネラルが失われれば筋肉が痙攣して動けなくなることもあります。熱中症にも注意が必要です。

逆に、気温24℃でも強風が吹いて雨が降っていれば体感温度が10℃近くになります。食事を十分に取っていなければ真夏でも低体温症になる事があります。

登山の装備は『その日に帰れないかも知れない』ことを想定しています。晴れていても雨具や防寒具(長袖のシャツや薄手のフリースなど)、出来ればツエルトなどを装備に入れて下さい。

遭難リスクが無い山なんてありません

『あそこは遭難するような山じゃない』って気軽に言う人もいますが、ちょっとした遊歩道でも暑ければ熱中症で倒れる事もありますし、転倒することだってあります。

たった5mだって、落ちて打ちどころが悪ければ死ぬ可能性もあります。高尾山だって落ちたら簡単に骨折くらいする箇所は山程あります。

読図した感じでは、観音峰は尾根の派生やバリエーションルートの存在などから、普通に山岳遭難は起こるだろうなと思いました。とても『あそこは遭難するような山じゃない』なんて言えません。十分、遭難のリスクがある山です。

公園のように整備されている山でも遭難のリスクはありますし、一般的な登山道ならなおさらです。どんな山でも遭難のリスクはあります。

山ってそういう場所なんです。『あそこは遭難するような山じゃない』って思った方、書いた方は忘れないでいただければ幸いです。

今回は助かって、本当によかったです。

追記 2021/07/27 16:00

書いたあとの報道で、『観音峰山頂から東に1.3km、登山道から800m離れた地点で警察犬が発見、沢の水を飲んでいた』とされていました。

この情報から推測すると、主稜線から南東に分岐する支尾根に入り込んでしまったのではないかと思われます。

(以下、この推測を元に対策などを書きます。合ってるかは分からないけど、他の尾根や沢から降りたら死んでる気がします。おそらく支尾根下部の急斜面を降りられず、沢に導かれてしまったのではないかと思います)

スクリーンショット_-_7月27日_午前10_25

観音峯の山頂を越えて北東に向かい、ゆるく北にカーブすべきところを南東向きの尾根に乗ってしまったのではないかと思われます。尾根がカーブしている部分の支尾根は道迷いの定番です。

地形図を見れば、標高差20mを下ったらコルの底に着いて登り返しになるとわかるので、それ以上くだっているのならおかしいと気づくべきでした。

違う尾根に乗ってしまったのなら太陽の方向も本来と違う方向になります。『自分はこれからどういう地形を歩くはずで、どっちに向かっていて、合っていれば地形や太陽の方角はこうなっている』ということを常に意識して歩く必要があります。違和感を覚えたらGPSや紙の地図、コンパスで確認をしましょう。違和感を覚えなくてもたまにはチェックしてください。

間違いに気づいて登り返せれば遭難せず、ただのヒヤリハットで済みます。

間違いに気づくためには、GPSの使い方も大事ですが基本的な読図の勉強も重要です。今はアプリと組み合わせて勉強する読図の本もあります。是非読んで下さい。

道に迷わなければ、お風呂に入ってご飯を食べて柔らかい布団で眠りにつけるはずが、迷ったがために山中で夜を明かし、悪くすれば死んでしまいます。

登山をするなら読図は大事ですよ。

わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。