[無料]夏山を歩くための基礎知識3『雷雨編』
夏の悪天候対策
夏の典型的な天候リスクと言えば突然の雷雨です。
夏の天候の注意点
・晴れていても午後は崩れやすい。
・早出早着を心がける(天候にもよるけど)。
・どんなに晴れていても雨具(レインウェア)は必ず持つ。
・積乱雲が近くにあると非常に危険。
・空が暗くなり、冷たい風が吹いてきたら注意。
・雷鳴が聞こえる範囲ではいつ雷が落ちてきても不思議ではない。
雨なら多少当たっても死にませんが、雷は当たると7割くらいの人が死にますし、生き残っても大怪我になります。後遺症が残ることも多いので、出来れば当たりたくないものです。
夏の雷について知りましょう。
雷の種類と発生しやすい条件
熱雷
内陸や盆地で日中地面が暖められると上空と気温差が生じて積乱雲が発生する。盆地近くなどの低山で起こる。昼前から夕方までで起こります。
界雷
寒冷前線などの前線で発生。前線を伴うので予想しやすい。
渦雷
台風などの低気圧による上昇気流で発生するが、落雷の事故事例はほとんどない。普通、台風が来てたら山に行かないから。
熱界雷
熱雷と界雷の両方の性質を持ち、広範囲に長時間発生、どの時間帯でも発生する。山の事故では熱界雷が多い。
雷鳴が近づいてきたら
雷鳴が近づいてきたらどこに落ちてもおかしくありません。速やかに退避行動を取ってください。
低いところに避難する
山頂や稜線は危険です。雷鳴が聞こえたら第一に下山を考えましょう。出来れば斜面を降りるようなコースがよいです。
稜線、特に木が生えていなような稜線を降りると直撃雷を受けるリスクがあります。それでも山頂よりはマシだと思うので、他にルートが無ければ降りるしかないんでしょうけど(またはどこか、山頂や稜線から降りた斜面でしゃがむ?)。
しっかりした建物があるなら避難する
しっかりした山小屋や避難小屋があるなら逃げ込んでください(東屋や小さな小屋は却って危険です)。ただし、壁からは離れましょう。壁の近くにいると屋根に落ちた雷の側撃雷を受けることが考えられます。
落ちた雷が直接当たるのが直撃雷、木や建物に雷が落ちた時に近くにいたために通電してしまうことを側撃雷と言います。割と死にます。
木の真下に避難するのは危険
雨が降っていると木の下に逃げがちですが、木に落ちた雷による側撃雷を受ける危険性があります。最低4m離れて、枝や葉からも距離を取ってください。
• 木などからは4m以上離れる。枝葉からも距離を取る。
• 先端を見上げて45°以上で4m離れている部分が安全地帯。
• 木を避雷針と見立てた場合、最低5mの高さが要る。
街の公園などでも、ゲリラ豪雨が来た時に東屋や木の下に避難すると側撃雷を受けるリスクがあります。雨宿りはしっかりした建物の下でしましょう。
テントの中も危険
テントの金属製ポールに雷が落ちて、中にいた人が側撃雷で死亡した事故があります。壁から距離を取れないような小さな小屋や東屋も同様に危険です。特に、近くに高い木など避雷針的なものがない場合は非常に危険です。
下のツイートは無人のテントに落ちて荷物や食料が破損したという内容です。人が入っていたら死んでたんじゃないでしょうか。
傘やストックは収納する
傘やストックなどを立てるのは危険です。雷は突起物に落ちてきます。ザックの横に挿すのではなく収納しましょう。
仲間とも距離を取る
万が一仲間に落ちた場合、すぐ近くにいると巻き添えを食います。間隔を空けて歩きましょう(具体的なm数などは不明ですが木の例からすると4mとか?)。
下山も出来ないならしゃがんでください
両足を揃えてしゃがむと少し落雷のリスクを減らせます。寝転がったり足を開いて立つのは危険です。足が開いていると、地面を通った電気が右足から入って体を通って左足に抜けたりします。体の中を焼かれます。
実録、ある日の奥多摩で雷雨がヤバかった話
これは私が実際に体験した雷雨の話。2017年7月12日のことです。
奥多摩駅からバスに乗り、川乗橋の登山口に立ったのが10時半でした。この時点でやや遅いですが、結果的には遅かったために助かったのかも。
川乗橋から50分ほどの林道歩きになります。天気は晴れ、太陽が照りつけて気温が高く、汗がだくだく出てきます。百尋の滝までは暑いながらも順調でした。
滝を過ぎた辺りで薄暗くなり冷たい風が吹いてきました。『ひと雨来るかなぁ』なんて思いつつ歩を進めました。
山頂手前、足毛岩の分岐から山頂北西尾根に乗るルートを3分ほど登ったところで北西から雷鳴が聞こえました。更に5分ほど経つとまた雷鳴が聞こえて音も大きくなりました。明らかに雷雲が近づいています。
ここで帰ることにしました。
この時点で13時。山頂まで標高差300m。山頂は諦めるとして、すぐ近くの稜線を越えて本来のゴールである鳩ノ巣駅に降りるか、スタートの川乗橋に降りるかを考えました。
行程としては戻るほうが短く、稜線に登れば標高が上がり落雷のリスクが高まります。メリットしかないため戻る方を選択しました。雷が鳴っているのに稜線や山頂を目指すのは危険です。
もうほとんど真上から雷鳴が聞こえてきます。ビリビリと響くような爆音でした。
戻る途中、中高年男女ペアと若い女性ペアが前から来ました。「雷が鳴ってるから帰ります。この雷鳴であと300m登る勇気はありません」と伝えました。が、4人は山頂を目指したようです。その後どうなったかはわかりませんが、落雷や遭難のニュースは無かったので雷には当たらなかったのでしょう。
まだこの時点では雨は降ってなくて、むしろ青空だったので山頂に行っちゃうのも仕方ないのかも知れませんし、こちらも無理には止められません。
更に、『この人軽装すぎるなぁ…』ってバス停から気になってた女性が前から来ました。「雷雨が来ますよ」と言ったけど、多分その人も山頂へ行きました。やはり無理には止められません。
5人とすれ違って滝の方へ戻ってると、空は青空になり『ありゃ、失敗したかな、でもいいや、今日は帰ろう』なんて心のなかで呟いてると…。
左後方からザーッ!っという音が聞こえました。
あれ?沢の音?と思って木の隙間から山頂方向を見ると見えない。山頂が水煙で見えなくなってました。あんな降り方初めて見ました。血の気が引きました。
これは13:35時点の雨雲レーダー画像を下山後にスクショしたもの。赤が濃くてヤバいですね。
雷はほぼ真上でドッカンドッカン。
やべぇ!こっちに来る!と思いつつも、滝方面への下降路は転落死多発地帯で、特に下りでの事故が多い。慎重に下りました。急斜面が終わった辺りで豪雨になりました。
本当にバケツを引っくり返したような猛烈な雨でした。
スマホで写真を撮ったら、あまりの暗さにフラッシュがついてしまいました。
カッパを着ててもほぼ無意味。ザックはザックカバーを付けてもビショビショ。靴もアプローチシューズだったので浸水してガッポガッポ。
全身ずぶ濡れで、沢登りをしてる様でした。普通の登山でここまで濡れたのは初めて。登山道はほとんど沢。滝のようになっている場所もあったくらいです。
沢はみるみるうちに増水して、いつもは穏やかな流れが轟々という濁流になりました。判断が遅ければ下山も困難だったかも。
林道に出たのが14時。その時点の雨雲レーダーを見ると、川苔山周辺が真っ赤です。あの中にいたらと思うとゾッとします(少なくとも数名はいたと思いますが)。
川乗橋に14時45分。林道まで出られました。
通信が繋がったので雨かしら?(自作の雨雲レーダーアプリ)の画面を見ると、これからまた豪雨が来るようでした。
しばらくバスが来ないので、少し先のバス停まで歩いて、自販機で買ったコーラを飲みながら雨宿りをし、駅でズボン、シャツ、靴下を替えてビニール袋を履いた上に濡れた靴を履いて帰りました。
元々の予定通り1時間早く登ってたら、おそらく山頂近くか鳩の巣駅への下りで雷雨に捕まり、ひたすら長い樹林帯を大雨の中歩くことになったと思います。落雷を受けていた可能性もゼロではありません。それくらい短時間で急に来ました。
今回に限って言えば遅刻してラッキー。雷鳴が聞こえた時点で引き返して正解でした。
雨の中のハイペースに注意
大雨や雷に襲われると、つい焦って歩行ペースが上がってしまいます。雨から逃げるために無理に速く歩いて転倒しては、まさに本末転倒。そういう時こそ焦らず、確実に歩いて下さい。
雨で濡れば岩も砂利道も滑りやすくなります。地図の確認もおろそかになりますし、フードで視界は狭くなります。雲で暗くなれば、いつもなら見落とさない分岐や道標を見落としてしまうかもしれない。
そういう時こそ、焦らず一歩一歩確実に歩きましょう。特に、先頭を歩くリーダーはペースが速すぎないか注意して下さい。メンバーも、早いなと思ったら遠慮せず「早い!」と言ってください。
夏の雷雨には気をつけましょう
皆様におかれましても、山の天気を甘く見ず、適切に安全な判断をしていただければと思います。
↓ヤマレコにも載せてあります。
雷探知機もあります
雷雲が発する電磁波を受信してビープ音で教えてくれる雷探知機なんてのもあります。
ラジオにノイズが入ったら雷が来るぞ、って話と同じです。小型の専用機として『雷探くん』という商品になっています。少々高価なのがネックですね。
夏山に行くときは持っていくことがあります。
まとめ
・夏山は雷雨に気をつけましょう。
・雷は知識と撤退する判断力があれば避けられます。
・雷が鳴ってる時は木の下に避難してはいけません。
・雷が聞こえたら下山を考えましょう。思ったより短時間で近づいてきます。
その4『虫さされ編』はコチラ
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