見出し画像

[無料]改めて、他人の遭難から学ぶ


ネットでは『伝説の遭難者』として有名なyucon氏の遭難記録があります。

本人のブログ版

ヤマレコ版

なお、yucon氏はこの後、御在所で遭難して亡くなっています。ご冥福をお祈りします。

人類は失敗から学んで進化してきた生き物です。せっかく残してくれた遭難記録です。私達が役立て、今後の遭難を減らしていく糧とさせていただければと思います。

とても失敗の多い遭難ですが、ちょっとした事で遭難せずに済んだのかも知れません。同じ程度にダメな登山をしても遭難しなかった人は多くいるでしょう。逆に、もうちょっと運が悪ければ死んでいたかも知れません。

後から見ている僕らには自明でも、その時には間違いに気づけないものです。本人は冷静に正しい判断をしていると思っていたはず。運の要素もありますし、誰にでも起こりうる事です。

これを特殊な人の特殊なケースとは思わず、いつ誰が同じことをしてもおかしくないと意識してください。

準備段階でミスが多すぎる

本人は6日間と書いてますが、7/16~22までの遭難なので7日間の記録です(途中に5日目が2回あります)。その7日間にたくさんの間違いを犯していまして、まず登山口に立つまでにもたくさんの間違いがあります。

・出発が遅れる
→出発時間は厳守です。出発の遅れを取り戻すのは難しいしリスクが上がります。朝の予定を遅らせてはいけません。スタートが遅れたなら最終的な到着時刻も後ろにズレると思って下さい。それが日没を過ぎてしまうようなら中止が無難です。多少遅れても問題がない余裕のある計画ならリカバリ出来る可能性が上がりますが、道中を急ぐと事故のリスクが高くなります。ベストは当然、朝の時間を遅らせない事です。

・遅れたので当日の朝に計画を変える
→計画を小手先で変えるのはよくありません。余裕を考慮しても無理なくらい遅れたのなら、山のレベルを大幅に落として、歩き慣れたハイキングレベルの山に変えるべきです。例えば奥多摩に行く予定で遅れたのなら、高尾山に変えるとか。または、中止にしましょう。

・奥さんに残したメモに「山には登らない」と嘘を書いたために捨てられてしまう
→家族には文字で正確な情報を残しましょう。メールやLINEなどで山名とコース、予定時間を残しましょう。出来れば「この時間を過ぎたら捜索を頼むリミット」も残しましょう。

・林道が崩れていて時間ロス
→事前にコース状況を調べておきましょう。例えば奥多摩なら奥多摩ビジターセンターのWebサイトに載っています。
https://www.ces-net.jp/okutamavc/info/52

行程を把握していない
→『T字尾根経由で下るのにどれくらいの時間がかかるのか分からず』と書いていますが、そんなのあり得ません。

・というか、ほとんど無計画?
→行程を把握していない、いきなり予定を変える、行動中に地図もコンパスも使っていない様子からすると、行動時間の計算や事前の読図をしていないように読み取れます。それなら出発遅れやいきなりの計画変更、コースタイムや行程が分かっていないのも納得できます。登山をするのなら計画書は必ず作りましょう。

計画を作るならヤマレコのヤマプラが便利です。

山は街と違ってミスれば死ぬ、命がけのエリアです。死にたくなかったら事前によく計画してください。そして計画書はメールやLINEで家族にも送っておきましょう。

忘れ物が多すぎるし、改善案も装備も疑問が残る
→自らの総括で必要だった装備として『ツェルト、シュラフ、発煙筒、ジェットホイッスル、GPS、ドライフード、予備の携帯バッテリー、小型ラジオ、多機能リストウオッチ』を挙げています。ヘッドランプも雨具も忘れたそうです。

このうち、日帰り登山でも持ったほうがいいものは、『ツエルト、GPS(スマホでOK)、予備食、モバイルバッテリー』くらいです。ビバークの寒さが不安ならシュラフカバーやエマージェンシーヴィヴィがおすすめです。日帰り登山でシュラフを持っていくのは重量的にどうかと思います。

ヘッドランプや雨具は当然、どんな山に入るときでも必須装備です。

単独ならガスコンロも軽いのを持ったほうがいいです。火でお湯を沸かせるかどうかは生き残れる確率が変わります(水を煮沸できる、温かいものを飲んで体を温められるなど)。

ガスコンロを持ちつつ装備を軽くしたいなら、チタンのシングルマグをコッヘル代わりに持てば軽くなります。ダブルウォールだとお湯を沸かせないので、必ずシングルマグを選んでください。

非常用としてならガス缶は110g缶でよいでしょう。ガスの残量は缶全体の重さを計って110g缶なら90gくらいを引けばガスの重さになります。230g缶なら空き缶の重さは150gくらいです。出発前に残量を量っておきましょう。

yucon氏は『バーナーを点火させて 自分がここにいること、夜明け後に活動再開すると返事する。バーナーの火を見てR氏も安心されたようだ』と、合図に使ったりしていますが、無駄なのでそういう使い方はしないほうがいいと思います。ガスの火は暗いし。挙げ句、締め忘れでガスを失っています。

軽量コンパクトを追求するなら固形燃料やアルコールストーブという手もあります。

扱いはガスが一番簡単で便利です。100g程度を削りたい場合のみ固形燃料やアルコールストーブも検討してみてください(個人的には、持ってるけど使ってない装備です)。

・ファーストエイドキットも適度に持ちましょう

傷を手当していない様子からすると、ファーストエイドキットも持っていなかったのではないかと思われます(テーピングだけは持っていたっぽい)。持ち過ぎも重くなるのでよくありませんが、テーピング、三角巾、ガーゼや包帯、飲水とは別にキレイな水200ml程度(別途穴あきペットボトルキャップもあるとベター)、消毒液、絆創膏、小さなハサミやピンセット、使い捨て手袋程度は持ちましょう。

最初は救急セットを1個買ってしまうと細かいものが全部揃うので楽です。

私は更に、フリーサイズで切って使えるハイドロコロイド絆創膏と防水フィルムも持っていっています。

キズパワーパッドより割安で大きなキズも覆えるのでいいかなと思います。傷をキレイな水でよく洗い、異物を取り除いてからハイドロコロイド絆創膏を貼った上に防水フィルムを貼ります。

・ココヘリも良いので、出来ればみんな入って
→登山者が小さな発信機(会員証でもある)を持っていれば、遭難時にヘリから位置を探してくれる『ココヘリ』というサービスがあります。

最長16km離れていても補足できるそうなので、正しく使えたなら行方不明はほぼ防げるでしょう。ただし、家族が登山計画書をもらっていて、探すエリアが分かっていないと探せませんし、誰かが「この人が遭難したっぽいので探してください」とココヘリに連絡を取らないと探せません。なので、計画書とココヘリの会員番号を家族に残しておく必要があります。少なくともエリアと、”ココヘリに入っている”という情報は家族が知っていなければいけません。

単独で登山をする人(特に中高年ベテラン男性)は絶対にココヘリに加入してください。なお、ココヘリの発信機はUSB充電式です。山行前に充電しておきましょう(3ヶ月保ちますが山行ごとに充電しておけば安心です)。持っていくのを忘れたというケースもあるそうです。忘れないように注意しましょう。

準備段階で遭難予備軍です

本人は『山岳トラブルは残り4分の1の行程での発生率が極めて高いと言うが今回も同じことが当てはまった。』と書いていますが、登山口に立つまでにこれだけのミスをしています。よくこれで生きて帰れたものだと感心してしまうくらいの多さです。

遭難後の行動もミスだらけ

地図もコンパスもほとんど使っていない
→5日目になってようやくコンパスを使い、沢の方角から自分がいる場所が想定と違っている事に気づきます。1日目、普通に歩いている時点では地図もコンパスも使っている様子がありません。

ここで遭難時の地図を見てみましょう。私は歩いたことありませんが、青線部分が予定のコースで、平らな部分(テーブルランド)から南西に降りる尾根がT字尾根です。

画像2

記録や『伝説の遭難者yucon氏の体験について(1)』を読むと、赤い部分を彷徨っていた様です。

5日目にコンパスで沢の方位を見るまで、自分がいるのは尾根の反対、南側の小又谷だったと思いこんでいました。4日も彷徨っていれば太陽の方角からも分かりそうなもんですが…。

GPSがないのなら、道に迷ってから地図やコンパスを見たって手遅れです。道の上を歩いていても、常に現在地を確認しましょう。現在地が分かっている状態で使うのが紙の地図やコンパスです。ロストしてから役立てるのは技術が必要で、それが出来る人はそもそもロストしません。ロストしたらGPSを使ってください。そもそもロストしないように地図、コンパス、GPSを活用してください。

・沢を下る
→有名な『遭難したときにやっちゃダメな行動』です。沢には必ず滝があり、行き詰まってしまいます。無理に飛び込めば死にます。沢は携帯電話も繋がりにくく、GPSの測位精度も下がります。登山道が付いているなど例外を除けば、沢を下ってはいけません。

どうしても水が欲しいのなら地形をよく見て源頭部まで降りて水を汲んで、速やかに稜線に戻ってください。稜線なら電波も繋がりやすくGPSもピンポイントで測位します。

・判断をR氏に委ねてしまう
→『自分より経験があるリーダーが間違ったことをしているときでも、なんとなく任せてしまう問題』と通じるものがあり、我々も注意しなくてはいけません。不安や恐怖を感じたのなら遠慮なくリーダーに言ってください。リーダーも、メンバーの意見を聞き、間違っていたら素直に修正しましょう。

なお、R氏がどこまで存在したのか、実は幻覚だったのではないかという説もありますが、真相は闇の中です。

・遭難はR氏のせいだと考えている
→基本的に、この遭難記録を書いている時点でも、遭難したのはR氏のせいだと考えているように読めます。

『R氏はここまで大変なことにしてしまった責任を感じてか私の意見に反対されない』『昨日の事もあり反論できないR氏』という記述からも読み取れます。違います。遭難したのは自分のせいです。他責にしがちな人は成長できないので、同じ間違いを何度もします。

他人に命を預けすぎてはいけません。まして、その日に会った他人になんてあり得ません。助けを求めた人の技術や知識、判断がいい加減だったら、逆にピンチになる可能性もあります。でも、自分に知識や技術が無いと見極めは難しいでしょう。

ガイド資格やレスキューの資格を持っていたり、山岳救助隊や遭対協の人などなら信頼できますが、一般登山者は様々です。クライミングの格好をしていても熟練者もいれば初心者もいます。

基本は信頼できる仲間、あるいは自分の判断です。他人に頼っていいのかどうか、時間を掛けてよく考えて下さい。他人にオールを任せるというのは、そういうことです。

特に、ソロ登山をする人は登山中の行動や判断を『たまたま会った他人』に頼ってはいけません。他人に頼らないと続行できないのであれば力量が足らないということです。他人にくっついて登るのではなく速やかに下山して(※)、ソロ登山はやめてください。あるいは、猛勉強してください。

※…もし一人で下山できないのなら自分で110に電話して救助要請をしてください。無理に動くと遭難して、余計なリスクや手間を救助隊に負わせることになります。電話が通じないなら自分でなんとかしましょう。ソロ登山をするならこういう覚悟をしてください。

・幻覚見すぎ
→人は疲れてくると認知機能が低下して幻覚や幻聴をよく体験します。私も沢の音が人の話し声に聞こえたことがあります(具体的な文言までは分からないけど会話に聞こえた)。もうすぐ山小屋があるってときに、紅葉が赤い屋根に見えたこともあるでしょう。人はけっこう簡単に幻覚を見てしまうものです。自分にとって都合がいいものが見えてしまう。夢の中で夢と気づけないのと同じ様に、認知の時点でバグっていると気づくのは困難です。

そうならないように、気持ちを落ち着かせることが大事です。非常食や水、お茶を備えておきましょう。

・むやみに動きすぎだし帰り道の判断を間違えるし
→2日目に登山道に復帰していますが、その後にまた、前日道を間違えたT字尾根に入って間違えています。

おとなしく登山道で待っていればだれか通りかかったかも知れません。少なくとも、下降に掛かる時間も把握していないT字尾根ではなく、登りで使った登山道で降りた方がよいでしょう。一度歩いているのですから。なのに、またT字尾根に突っ込んで再度間違えています。もしかすると、遭難しているという自覚がなかったのかも知れません。

T字尾根の地形図を見ると、下る際に間違えやすそうな何箇所か場所があります。間違って下りそうな部分に赤矢印を付けました。

※…尾根は下りで分岐するため、登山において道迷い遭難の多くは下りで発生します。

例えば918のピークからは南に下る正規のコースと、北西の889ピークに向かう尾根が分岐しています。もう少し南の『君ヶ畑町』と書かれている部分も尾根の分岐が多く、等高線もなだらかなので迷いやすいかも知れません。

画像2

右上、T字尾根を下ってすぐの部分も等高線がなだらかで尾根が分岐しており、沢登りの詰めで登ってきそうな感じもあるので踏み跡があるかも知れません。その南西の967ピークもうっかり北に下ってしまう人もいるかも知れません。

しかしいずれも、現在地の把握と自分が進むべき方向感覚(コンパスも使う)を持っていれば間違えないし、間違いにもすぐ気づけます。地図、コンパス、GPSを正しく使いましょう。漫然と山を歩いてはいけません。

目の前の道もよく見てください。人が歩いているなら必ずしっかりした踏み跡がありますし、地面の固さも違います。登山道から外れると地面がフカフカに柔らかくなります。足裏感覚にも注意しましょう。

・2日目の途中からはカオス
→2日目の途中、幻覚がいよいよ濃くなって以降はカオスとしか言いようがありません。サイコホラーを見ているような感覚です。書かれている内容も本人の主観的な記憶でしかないので、どこまでが真実なのかは分かりようもありません。

2日目にしてこの状態になってしまったのが特殊なケースなのか、多くの人もそうなってしまうのかは分かりません。認知からしてバグってしまえば正しい判断など出来るはずがありません。

こうなってしまわないように、気持ちを落ち着かせる、焦らない、『どうにかなるさ』と適度に楽観視するのも大事かなと思います。そのためには十分な装備、食べ物、技術と経験に裏付けされた自信が必要です。

予定されていたテント泊でパニックになる人はいません。装備と気持ちに余裕があるなら山で夜を過ごしても人は狂いません。余裕が無くなるからおかしくなってしまうのです。

典型的な道迷い遭難

簡単に行ってしまえば、これは典型的な道迷い遭難です。

・コースの下調べ、事前読図が甘い。
・準備がいい加減すぎる。
・必須装備を忘れすぎ。
・初めて会った他人の意見に頼りすぎ、そして人のせいにしすぎ。
・地図もコンパスもろくに使えていない。
・迷って沢に下るのは最悪。
・無駄に動きすぎ、行きあたりばったりすぎ。

亡くなってしまった人についてあれこれ言うのもなんですが、ひどすぎます。これだけやらかしてよく生きて戻ってきたな!という感じで、逆に驚きます。奇跡としか言いようがありません。

どうしたら道迷いを防げたのか?

・計画と読図
計画段階で地形図を読んで、自分が歩くコースの情報を頭に入れておく。登山は準備が8割と言われます。よく準備してください。

・方向感覚を意識する
例えば、山頂からの下りが南なのに、下り始めたら太陽が背中にあって自分の影が前に長く伸びていたら間違っていると気づけます。山頂から下山方向を間違えるのはよくあるミスです。

時間は14時、西に下っているはずなのに薄暗い場合は東に下っている可能性があります。常に、自分がどちらに行くべきで、その時は太陽の方向や地形がどうなるかを想定してください。

常に、自分が目指す地点の方角を意識してください。コンパスはポケットに入れてすぐに出せるようにしましょう。

・登山道を歩く
道から外れないように地形をよく見る。下ばかり見て歩いたらいけません。前を見て、周りをよく見て歩きましょう。ピストンコースの場合は分岐ごとに振り返って後ろも見ましょう。

・地面の固さに注意
地面が柔らかくなったら登山道から外れた可能性が高いので警戒する。足裏感覚も磨きましょう。登山道は普通固く締まっています。

・現在地を常に把握する
地図、コンパス、GPS(スマホでOK)を活用して現在地を常に正しく把握してください。特に紙の地図やコンパスは現在地をロストしたらほとんど役に立ちません(特に低山では)。

・道のサインをよく見る
登山道には間違えやすい場所に通せんぼの棒が置いてあったり、ロープが張られていたりします。その様なサインをよく見ましょう。

・ピンクテープを過信しない
登山道を示すっぽいピンクテープもありますが、沢から上がってくる道にも付いていたりして、必ずしも一般登山道を示すものではありません。ピンクテープを見つけたら何も考えずにそちらに一直線に向かうというのはやめましょう。方角や地形が正しいかよく考えて歩いてください。

道に迷ってしまったらどうしたら良かったのか?

では、こういう遭難をしてしまったらどうしたら良かったのでしょうか?

・落ち着け
まず迷ったと気づいたら落ち着いてください。座れるなら座って、なにか飲んで行動食を食べて深呼吸しましょう。慌てて行動すると間違えます。

・現在地確認
持っているならGPSを使って現在地を確認してください。今どきはスマホで登山用のGPSアプリが無料で使えます。現在地が分からなくなった時は特に有効です。

・分かる場所まで戻る
分かる場所まで戻ってください。尾根を歩き続けなくてはいけないのに谷に降りていると気づいた時点で登り返してください。戻ったら、一番簡単に歩けそうな道で下山してください。遭難してるのに難しい道を選んではいけません。

・戻れないなら別のコースを探す
もし戻れない場所に来てしまったのなら、地形図を見て戻れそうなコースを探します。R氏とyucon氏はそのまま谷に降りてしまい、挙げ句反対側の尾根を登ってボタンブチに上がっていますが論外です。

簡単に読図しても、ボタンブチに上がる部分は等高線が詰まっていてほぼ崖だと分かります。よく登れたものだと感心する斜度です。その点に関しては、本当にすごい。

一方、T字尾根に戻る斜面は降りてこられたくらいの斜面ですから登り返すことも可能でしょう。戻るならどう考えてもT字尾根です。読図を全くしていなかったとしか思えません。

画像3

・救助要請をする
もし別のコースで戻るのも無理で携帯電話が繋がるなら、警察か消防に直接自分で電話を掛けて救助要請をしてください。家族や友人経由での救助要請は回りくどいし携帯電話の電池が無駄になります。直接掛ければ位置情報が自動で送られます。

携帯電話の電波も、沢より尾根やピークのほうが繋がりやすいです。GPSも沢より尾根など空が開けた場所のほうが正確に測位します。そういう意味でも沢に降りてはいけません。

・最後は運と本人次第
もし動けない、救助要請も出来ない、どうしようも無いとなったら、正解はその時の状況次第となります。運次第。運良く沢登りの人が上がってくるかも知れないし、頑張って斜面を登り返したら登山道に復帰して登山者が通りかかるかも知れない。

動かずに待っていたら餓死してしまうかも知れないし、食べずに雨の日が続けば低山でも低体温症になって死にます。動いたら滑落して死ぬかも知れない。

逆に、命がけでも動いたことによって正しい道に出られて無事下山できたというパターンもあり得ます。ただ、それは状況と運次第になります。だから出来ればそういう『自分ではコントロール出来ない状況』になる前にどうにかしてください。

動けない状況に自分で自分を追い込まないでください。

自分のこととして考えよう

でも、これを愚かな他人の愚行と切り捨ててしまってはいけません。大抵の遭難はこういう、本人が気づかないような些細なミスの積み重ねの結果として起こっているのでしょう。

2019年の10月に富士山で滑落した方も、判断ミスを積み上げた結果として滑落して亡くなりました。それも、山に登る人なら一目瞭然のミスの積み重ねです。でも本人は気付かない。だから怖いんです。

大抵の遭難は一つの原因では起きません。遭難はミスを何個も積み上げた結果であって、登山をする前からミスを積み重ねています。

また、聞いた話ですが、道に迷って行方不明になって5日後に発見された遭難者はGPSアプリ(ジオグラフィカではないアプリですが)を使っていても迷い、なんと遭難前日は一本道の林道でも道に迷ったのだそうです。GPSアプリを使っていても迷う人は迷います。そういう人は一人で山に入ってはいけません。山に入ること自体がミスです。

想像を絶する人がいて、そういう人も山に入ってる事実があり、本人はそれを自覚できていません。

ただ、これは私達『自分を普通の人だと思っている人』にも起こりうる事です。常に自分や仲間が間違ったこと、危ない判断をしていないかチェックし、問題があったら指摘する。指摘されたら傷ついたり怒ったりせず、指摘が正しいか判断した上で、正しければ『指摘されたことについて』改善していきましょう。

なぜ助かったか?

ここまでミスってなぜ助かったかですが、

・滝に飛び込むのはギリギリでやめた。瀬戸際で冷静になれた。
・骨折など致命的な怪我はしなかった。
・夏だった。
・雨が降ったのが1日だけだった。
・食料をそこそこ持っていた。
・2日目までは動きすぎだったが、最終的には動かない判断をした。
・生き残ることを諦めなかった。

などが大きな理由かと思います。運と、生き残りたいという気持ちでしょうか。ギリギリ踏み止まって、そこに救助隊が運良く現れたという感じです。気持ちと運の勝利です。でも、基本的には運否天賦で登山をしてはいけません。いつか死にます。

動かなかったから助かったのか?

ちなみにyucon氏は最終的に動かなかった事で助かりましたが、この方の場合は『無闇に動くよりは動かなかった方がマシだった』という事です。すべての遭難者も動かない方が良いとは言えません。

動かない場合は、救助隊や第三者に見つけてもらえなければ助かりません。手がかりが少なければ運頼みとなります。捜索に時間がかかり、悪天候が続けば低体温症や増水で死ぬかも知れませんし食べ物が無ければ餓死します。

動けるうちに動いて正しい行動を取れれば自力下山出来るかも知れません。自力下山した場合は遭難とはならず統計にもニュースにも出てきません。必然的にニュースや統計では『留まったから助かった』というケースが目立ってしまいます。

実際は『自分で動いたから自力下山できたケース』が統計の裏に隠れています。基本は、自分で正しい道に戻っての自力下山です。
(※ただし技術的にも体力的にも難しい思ったら、無理はせず安全な場所で救助要請をし、以降は警察や消防の指示に従ってください)

動いたから亡くなった方の多くは沢を下って滝に落ちています。絶対に沢を降りないでください。沢登りをする人でも下降にはロープを使います(※)。素人がロープ無しで生きて下るのは不可能です。

yucon氏が沢に降りても助かったのは、本当に運が良かったからです。ほぼ運です。

※…もしロープがあっても、緊急用に持つであろう8mmの30mロープで懸垂下降できるのは、回収を考えれば半分の15mまでです。高さが分からない滝や崖を降りるのは不安な長さですね。慣れてないと宙吊りになって詰みます。そうなった時の登り返しは出来ますか?出来ないなら安易な懸垂下降はやめましょう。

まとめ

・登山の準備はしっかりと。コースの把握、天気、装備、体調など万全にして望みましょう。いい加減な気持ちで命がけの遊びをしてはいけません。

・登山は自己責任です。自分で正しい判断が出来ないのなら山に入るべきではありません。

・山では『道』を歩きましょう。道から外れたら引き返しましょう。

・道に迷ったら分かる場所まで戻り、落ち着いてから慎重に行動しましょう。道なき沢を下ったら必ず滝で落ちます。

・他人の遭難事例から学びましょう。

ドキュメント遭難シリーズがおすすめです。

https://www.amazon.co.jp/s?k=%E3%83%89%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88+%E9%81%AD%E9%9B%A3&__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&ref=nb_sb_noss

山で遭難してはいけません。もし遭難したら、必ず生きて帰りましょう。遭難したら迷惑という話ではなく、単純に誰かが悲しみます。悲しませないようにしてください。

わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。