【映画】『オッペンハイマー』を観た。IMAXで。ちょいネタバレあり。
約半年楽しみにしていて、やっと公開された映画『オッペンハイマー』を観た。IMAXで。感想を書こうと思う。
公式サイト↓
■感想まとめ
素晴らしい映画でした!
今後何度も観たい映画です。
この映画は作られた意味があるし、メッセージは痛いほど伝わりました。
メッセージを伝えることに意味のある映画でしたし、
日本人こそこのメッセージは受け取るべきだと思います。
ロバート・オッペンハイマーという人物から観る核爆弾と物理学は、恐ろしいほど熱気と狂気と政治が絡んでおり、今後の人類が学ばなければならない点が無数にあったように思う。
クリストファー・ノーラン監督の素晴らしいキャリアを汚すなんてことは全くなく、また一つ偉業を成し遂げた感覚があります。
キリアン・マーフィーはじめ俳優の演技も素晴らしかった。
難解であることは否めませんが、これを繰り返し見たり、オッペンハイマーや原爆についてさらに知ればもっと深く広く楽しめる予感がします。
(オッペンハイマーに関する良書と思ったものをこちらで紹介しています。1冊しか読んでないですが、、)
難しい題材をストレートに、かつ最大限の工夫で世に産み落としたことに意味を感じました。
その結果として観客にある程度の負荷をかけるものであることは事実と思います。
さらに初体験のIMAX!
ノーラン監督こだわりの音!映像!すべてが底上げされていて、これはコストをかける価値があると思いました。IMAXという技術に対して素直に感動した。
まあ本作の主軸がそこまでIMAXの恩恵を受けるものだったかというと疑問なので、無理してIMAX観ろ!とは言わないかな。
席がもう一列か二列うしろだったら良かったかもっていうのはこちらの問題なので次回の教訓にしときます。
・・・ただ、周りの評価が高すぎるのが違和感あって、その辺の違和感の正体というか、減点箇所もあったかなというのは整理しておきたいので書きます。
(頭を整理するつもりで色々書いたら、批判的な文章が支配的になってしまったけど、僕はこの映画好きだからね!それは誤解しないでね!)
■観るうえでの注意点
減点ポイント上げる前に、
本作を観るうえでは観客側の努力も必要と感じました。
個人的にはこれは減点ポイントではないので、切り離して考えます。
割としっかりめに予習したほうがいいかもです。
あまり世界史の授業覚えてない人は特に。
キーワードは
第二次大戦、冷戦、ドイツ、ロシア、日本、アメリカ、その他西欧諸国、ユダヤ人、共産主義、社会主義とか。
あとはアインシュタインのこの時代の立ち位置、登場人物の予習(公式サイトで可)などなど。
ノーラン作品への耐性もあったほうがいいですね。
『メメント』観とくといいかも!いまならアマプラで見放題!
■違和感ある感想など
ほんとにこれは個人の感想なので、攻撃したいとかは全くなくて意見表明だけですが。
幾つか感想や意見をSNSなどで見ましたが、ちょっと誇大に言いすぎてないかなって言葉が発信されてて違和感あるんです。
そのへんを言語化してみます。
・「キャリアの集大成」
わからなくもないのは、
お得意の時間操作の手法を今回も最大限使った作品であること。
特にメメントのような時間軸をいろいろに切り取って入れ替えるような手法を採用した作品であること。
インターステラーのような科学を扱った作品であること。
ダンケルクのような伝記映画であること。
以上のような点で、いろんな作品の要素があるといえばあるのだけど、言ったもん勝ち感があって
それらが効果的に組み合わさって化学反応を起こしているかと言えばそうでないと感じた。
・「最高の没入体験」
IMAXで見たが、一部トリニティ実験などのシーン以外は大半が動きのない、BGMも控えめな会話劇になっているので、あまり恩恵が受けられていないと思った。
加えて、非常に難解な時系列シャッフルとモノクロ/カラーの往復で切り替えが起こるたびに「没入」が途切れる感覚があって、むしろ阻害要因であったと思う。
本作とIMAXの相性は良くない印象。
・「ノーラン作品の最高傑作」
うん、これこそ、いろんな人の意見があってしかるべきだけど、僕の中で一番にはならなかったかな、っていうだけ。
じゃあなんで一番にならなかったかを以下で考えてみる。
■過去作品と本作との差
どうしても比較論になってしまうのだけど、エンタメ性として過去作品とは劣る気がする。
繰り返すけどエンタメ性の観点で。
・対『インターステラー』
現在ノーラン作品の中で一番好きな『インターステラー』と比較してみる。本作は、『インターステラー』で描いた宇宙スペクタクルのような壮大な映像は題材からして望めないし、無理しても不自然であるので仕方がない。
史実に基づくことで、エンタメ性の高いドラマチックな展開を期待するのも少し違う。
序盤で出てきた量子世界を概念的に描いたようなものがもっとちりばめられてくるかと思いきやそうでもなかったのは残念だった。
あれで魅せてくれるのかと期待感あっただけに。
ちなみに、少しだけ予習した立場から言うと、本作は史実に忠実なほうで脚色は最低限度に収まっている。なんならもっとやれよ!と思うくらい。
(史実系で言うと『イミテーション・ゲーム』はかなり好きな部類に入るけど、結構脚色しているらしい。)
・対『ダンケルク』
史実に基づくもので言うと『ダンケルク』がある。
これはノーラン作品のなかで興行収入や評価は比較的低い。これも時間の切り取り方が独特なため少し難解で、展開が弱め。
だけど、ラストのもっていきかたはわかりやすいし、オチた感覚があって、視聴体験としては満足度が高いものとなっている。
本作は『ダンケルク』よりも時間軸がわかりにくく、オッペンハイマーの視点とストローズの視点が絡み合って、さらに難解になっている。
アインシュタインとの会話を冒頭で謎にしていおいて、最後に回収するという形のオチを付けるけど、複雑な時間軸の演出で観客に負荷をかけながら、ここまで引っ張った割には少し弱いオチと感じた。
メッセージ性のわかりやすさは断然『オッペンハイマー』に軍配が上がる。
『ダンケルク』は史実を手段としていたが、
『オッペンハイマー』は史実が目的になっている違いがあると思う。
やはりメッセージ性の高さを優先したのだと思うが、そうなると時系列シャッフルは悪手なのではないか?と思ったり。
・対『テネット』
時間表現の難解さで群を抜くのは『テネット』
興行収入や評価は近年のノーラン作品の中では最低レベルだけど個人的には上位で好き。多分5回は観てる。
はじめ観たときには正直おいてかれてポカンとしたけど、
それでも「なにやらいい映画」を観たという感触がガツンときて、満足感が高かった。
理解できずともラストのオチた感や、アクションシーンの見ごたえなどがよかったのだと思う。
本作は、やはり題材の性質上アクションシーンはなく、会話劇で描かれている。
だから動きが少ないのは当然なんだけど、それにしても、止まったまま会話しているシーンが多かったように思う。画面の動きも少ないような。
前述のようにオチも少し弱い。
・対『メメント』
本作で行った時系列シャッフルと酷似しているのが『メメント』
モノクロ/カラーの往復も同じ。
こちらも一見しただけでは、物語の構造に気づいたとしても全容把握は難しい。
ただ、
現在から過去へ向かう時間軸をカラーで、過去から現在へ向かう時間軸をモノクロ、というところはまだ直観と合ってて負荷が少ない。
本作では逆で、比較的後年の時系列をモノクロ、前年の時系列をカラーで見せている。
序盤でそれは明示されたけど、直観と合わないので不安になりながら見た。
(『メメント』に引っ張られたとしたら観てないほうが負荷がすくない?)
本当は時系列の対比ではなく、関係性の対比を表したかったのかと思うが
ストローズが陰(モノクロ)で、オッペンハイマーが陽(カラー)であるという対立構造は物語の終盤くらいまで明示的ではない。(たしか)
あと世間の一般イメージは
オッペンハイマーは悪
アイアンマン(RDJ)は正義、なのでその辺もややこしい。
■擁護的意見を言いたい
なんか批判みたいな文章で埋め尽くされてきたけど、僕はノーランファンなので、ノーランを擁護する立場をどうしても取りたくなる。
そういう意見もできるだけ書いてみる。
・題材がかなり難しい
事前に予習したのでわかるが、オッペンハイマーは題材としてかなり難しいと思う。
大河ドラマぐらいの時間をかけないと伝わるものも伝わらない気がする。
(ドラマ撮るノーランも観てみたいな。)
オッペンハイマーの多面性や繊細な思考は、誰しも持つものがゆえに丁寧にその足跡を追いかけないといけない(創作に適した「一貫した行動原理を持つ人」のほうが少ない)し、
複雑な時代的背景や人間関係も十分に理解させたうえで生きてくるので、3時間でも圧倒的に足りない。
それでも悪戦苦闘して工夫したのは透けて見える。
オッペンハイマーは決して頭のねじが外れたマッドサイエンティストではなく、
強いところと弱いところがあり、時代や周りとの関係で紆余曲折する非常に人間的な人物である、ということを伝えたい思いが、
強い演出を抑え、なるべくすべてをそのまま詰め込む形にもつながったのかもしれない。
渋いお茶は渋いお茶として、そのままの味で出したかったというか、そんなイメージ。
・エンタメ性よりメッセージ性重視
NHKのインタビューでノーラン監督は息子と会話したときの思いを語っている。
これが作品制作の出発点ではなかったとしても、若い世代へメッセージを強く意識して制作していたのではないかと推測します。
であれば、とにかく本作はエンタメ性よりもメッセージ性を重視したものではないかと思ったりします。
そのうえで自身の持つネームバリューも、得意の時間操作の手法も、音と映像で魅せる技術も俳優陣でさえ、すべてその手段として採用されたものではないか、というところまで考えたりもしてしまいます。
■笑ってしまったシーン+α
完全に余談だけど
聴聞を受けるオッペンハイマーが裸になる演出は笑ってしまった。
やりたいことはわかるけど、真顔で全裸て。
周りも含めて神妙な顔しているのが妙にツボに入ってしまった。
あとこのシーン含め、
ジーン・タトロック役のフローレンス・ピューがヌードになるシーンがいくつかあるのだけど、ヌードの必要性なくヌードになっている気がして、そこは残念だったかも。
■最後に
オッペンハイマーの伝記映画として非常に高いクオリティのもであると思うし、
ノーラン作品の中で決して見劣りするものではないけど、
世間の評価ほど僕は評価してないな、って話です。
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