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『Le Fils 息子』を夫と観た話

『La Mère 母』を観た日からおよそ1ヶ月、待ちに待った『Le Fils 息子』を鑑賞する日がやってきました。

その間、私は変わりなく忙しない日常を送っていたのだけれど、俳優のみなさんは、あの、重く苦しく激しく切ないある家族の日常を熱く演じていたのかと思うと、言葉では表せない感情が湧いてきます。

さて、前回は『La Mère 母』でしたので、ある程度自分ごととして観劇に臨んだのですが、今回は『Le Fils 息子』、とりわけ、父と息子の関係をテーマにしていると予告で学んでいたので、そういった意味では、客観視できる舞台だとたかを括っていました。

今夜は岡本親子の渾身のぶつかり合いを心ゆくまで堪能させていただこうと劇場へ向かう私の隣で、息子でもあり、父でもある夫が、些か緊張した面持ちで次第に口数も少なくなっていくことにも、お互い、当然の状況だと認識し合っていました。


シアターウエストの方が、舞台の間口を広くとっているのでしょうか?
前回の座席よりも前の方だったこともあってか、ずいぶんと空間が大きく感じられました。

舞台に何も置かれていなかったことが、その印象をさらに強めていたのだと思います。

『La Mère 母』の舞台は、確か、開演前からリビングの誂えが整っていて、今にも誰かが帰ってきそうなワクワク感を持ちながら、暗転を待っていたのではなかったかと記憶しています。

部屋作らずに上演するの??

そんな疑問はすぐに打ち消されました。

上手から、下手から、シンプルながら、場面ごとに変化を見せる舞台は、前回同様、感情移入を妨げることなく、演者さんたちと見事にな調和を見せていました。


『La Mère 母』とは、同じ家庭なのか、違う家庭なのか。
息子ニコラと父ピエール、母アンヌは、役名も役者も同じであったけれど、時系列で関係性をみると、おそらく別の家庭の物語なのだと気づくことができます。

決定的に違ったのは、前回には登場しなかったピエールの再婚相手ソフィアの存在でした。

あらすじは知っていたはずなのに。

どうして私は傍観者だと勘違いしてしまったのでしょう。


ソフィアは私そのものでした。
物語が進むにつれ揺れ動くソフィアの気持ちが、痛いほどわかるのです。

父親の再婚相手。

夫の実子。

自然とニコラにツムギが重なりました。


軽視していなかっただろうか?
ニコラでさえ、操れない心という魔物を、ツムギは自分の中に押し込めているのだろうか?

ソフィアの、自分にはどうすることもできないやるせなさに深く共感していく傍ら、得体の知れない不安がふつふつと湧き上がってきました。

いや、初めて感じた不安ではない。
ニコラと同じ危うさをツムギの中に、何度も何度も感じてきていたではないか。


ソフィアと私は、それでもまだ、自分の負の感情がどこからやってくるのか自覚があり、できればコントロールしたいと思えるのだけれど、彼らにはその感情の姿さえ見えていないのかも知れません。

実親に捨てられたと感じる心。
どこにも居場所がないと不安になる気持ち。
それが思春期の、自分が何者なのかさえわからなくなっているそのタイミングと相まって、昂る感情。

大人が見過ごしてしまっているこどもの内面を、圭人くんが目の前に突きつけてくるのです。


苦しい。


一緒に観ていた夫は、2作を通して、「男親は何も見ていないんだな」というような感想を話していました。

現に、父親役の健一氏は、苦しむ息子ニコラに向かって、「自分にも人生があるんだ!」と叫んでしまうのです。


昨今、日本でも、離婚は珍しくないと言われるようになりました。
まるで、多様性を認めようという波に乗るように、家族の形も様々だと謳われています。

ステップファミリーの当事者としても、自分がステップファミリーのこども側であった35年程前と比べて、その数は著しく増加していると感じます。

それに加え、親と子は別の人格であり、別の人生がある。大人もこどもも平等である。というような風潮が、真意とは別の方向に広がっているような気もします。


これは警鐘である。


こどもに、大人の事情を押し付けてきた、大人の人生を認めさせてきた、大人の過ちを誤魔化してきた、その代償の大きさに、大人が気づかなくてはいけない。


日々、こどもと向き合っていると、つい、思春期の難しさに、まるで親が振り回されて困っているかのような錯覚に陥ってしまいがちだけれど、そんなこどもを見て、大人は思い出さなくてはいけないと思いました。

目の前のこどもと同じように、繊細で不安定で、強かったり、弱かったり、わけのわからない日々を過ごした思春期が自分にもあったことを。

本当に困っているのは、こどもの方であるということに、大人は本気で向き合わなくてはいけないのです。



公演は6月30日の豊橋での千秋楽まで、まだ上演されるそうです。(嗚呼、もう一度観たい!)


『Le Fils 息子』を原作とした映画は、なんと、ヒュー・ジャックマンが父親役を演じているそうです。(これは近々、必ず観ます!)


岡本健一氏が必見だと言っていたこと、本当だと思いました。

本公演は難しいかもしれないけれど、映画はみんな観た方がいいと、映画を観ていない私ですが、オススメしておきます。

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