競争戦略で分析する会社の選び方。

新卒でも転職でも、どんな会社を選ぶかというのは、かなり大きな問題になっています。そんな大きな問題が存在するにもかかわらず、将来を見据えてしっかりと判断が出来る人は少ないのではないでしょうか。

本稿では、経営戦略の観点からキャリア選択の軸になりうる要素を分析します。この要素がみなさまの会社選びを実りのあるものに出来たらならば、筆者はとても幸せに思います。

本稿の前提

本題に入る前に、キャリア選択によって目指すものを仮定する必要があります。ここがないと、分析とは呼べないただの意見になってしまいます。

本稿では、経済学的知見から「収入」をキャリア軸の最も重要な指標として置きます。逆に、「収入」以外の軸(例えば海外に行けるとか)が最も重要になる場合には、本稿を読む価値がなくなってしまいますので、ここで離脱してしまっても構いません。

収入を議論のベースに置いたのは、一般的にはキャリア選択で最も重要視されるのが収入だと考えたからです。労働に対する対価として最も基本的なものが、収入ですからね。これは経済学的に見ても、合理的な人間は収入を最大化する(という前提がある)ので、一応は正しいと言えそうです。

しかし、これは本当でしょうか?収入が増えれば、本当に人は幸せになれるのでしょうか?

大多数の人は、意識せずとも企業における世間的評価や働ける地域の広大さ、労働者の属性(人種や組織文化)といった要因を考慮しています。すなわち、収入以外にもキャリア選択の軸となり得る要素は無限に存在します。

重要なのは、これらのキャリア選択の軸によって生まれる幸福度は、人によって様々に異なることです。本稿で議論する収入はもちろんのこと、上記に挙げた要素も幸福度を増加させる要因になる可能性があります。

このような「幸福度」という指標のことを、経済学的には「効用」と呼びます。効用は収入によって変動する側面はあるものの、その定義は人によって異なります。したがって、「効用」がどのように決まるかを定義しないと、キャリア選択の軸は一生決めることが出来ません。

そこで、本稿では一般的に重要な指標である「収入」を用いて、議論を開始しようとしたわけです。このような背景から、以降では収入に関する議論をベースに分析を行いたいと思います。

結論

さて、キャリア面談では結論ファーストが大事だと教わった記憶があります。ですので、本稿でも結論から行きましょう。

以降の議論では、「誰もが必要としている一方で、競合が少ない分野に参入する企業を選ぶべき」という主張を展開します。特に、キャリア経験のない新卒にはこの視点が重要となります。ある程度経験を積んでしまうと、他の分野にシフトする際に失敗のリスクが伴うからです。レール社会である日本では、このような失敗を挽回するのは難しいことです。

つまり本稿では、市場トレンドに見合っていて、かつ競合となり得る人材が少ない分野に参入することで、自分自身の市場価値を限界まで高められると主張しています。最近の例でいえば、いわゆるデータサイエンティストがこれに該当すると考えられます。ただし、データサイエンティストを名乗る人が続出したせいで、一時的にその価値は下落していますが。

強気なタイトルにしては、かなり一般的な主張に落ち着いていますね……。多くのWebサイトでこのような表現を見かけます。しかし、それらのWebサイトが著者の経験的観測に基づいているのに対し、本稿では競争戦略というツールを用いた分析を展開しています。経験に頼らない客観的結論として、その信頼度を担保しようということです。

競争戦略の概念

競争戦略とは

一度本稿の結論をお伝えしましたので、以降は丁寧に結論を分解していきます。まずは、経営戦略の概念である、競争戦略が何かということをお伝えしましょう。

競争戦略は事業戦略とも言い換えられます。これは、企業のある事業において目標を達成するために行う、一連の企業行動のことを指します。例えば、「売上を増加させる」という目標に対して、人員を増やしたり設備投資を増やしたりすることが、この競争戦略に当たります。

ちなみに、よく言われる経営戦略というのは、競争戦略に加えて全社戦略と機能戦略の3つを包含した表現です。本稿でいう競争戦略はあくまでも1つの事業における戦略の話ですので、経営戦略とは少し意味が違う点に注意してください。これらに対し、単純に戦略という場合には、目標を達成するために必要な一連の行動を指すことになります。

単純な戦略は有効ではない

さて、競争戦略を練る上で重要な要素は何か、という話にシフトしていきましょう。すなわち、企業が事業を成功させるために必要な要素とは何でしょうか。そもそも、事業の成功とは何を意味しているのでしょうか。

本稿では事業における成功の定義を、「利益額の増加」としてみます。もちろん、企業ごとにこの指標は異なりますから、ある企業では売上にもなりますし、他方では利益率等に変化することもあるでしょう。ここでも、一般的に考えられる仮定を置いたまでです。

利益額の数式を簡単に示してみると、(利益額=売上ー費用)となります。この式から考えると、利益額を増加させるには、売上を増加させて費用を低減させればよいことになります。しかし、物事はそう単純ではありません。実際には、(利益額=(客単価×客数)ー(固定費用+変動費用))という式で利益額は表されます。

例えば、客単価を上げたらどうでしょうか。ふつう、価格が上がれば客数は減少するので、単純に価格を上げるだけでは売上を増加させることは出来ません。費用を減らしたとしても、価格がそれ以上に低下してしまえば、結局利益額を増加させることは難しいです。

したがって、競争戦略を成功させる上では、売上を増加させて費用を低減させるという単純な戦略は、必ずしも有効とは限りません。それよりも重要なのは、事業の優位性を決定づける根本的な要因を見出し、その獲得へ向けて全力を出し切ることなのです。

競争優位性を決める根本的要因

競争戦略の優位性を決める要因とは、「必要性」と「代替性」の2つです。

必要性とは、どの程度その商品が欲しいかということであり、代替性とは、その取引をどれだけ容易に他社と行えるかということを指しています。

一般に、必要性が高く、代替性が低い商品であれば、その商品を扱う企業の収益性は高まります。簡単に言えば、誰もが欲しいけど自分以外が売っていない商品を売ればよい、ということです。

以上の2つが、競争戦略において収益性を決定づける要因です。以降では、これをキャリア選択の議論に応用してみます。

会社選択の方法

競争戦略に基づけば、必要性が高く、代替性が低い人材の価値が高まることになります。すなわち、社会でいま求められているスキルを有していて、かつ他者があまり持っていないスキルを有していれば、その人材は高収益を得られるということです。

それでは、以上のような希少人材を輩出する企業とはどんな存在なのか。本稿では、これらの企業もまた、必要性が高いと共に代替性が低い事業を有する企業だと考えています。世間がやっていない事業を行っていれば、将来その市場が繁栄した場合に、当該企業で働いていた人材は自ずと希少な人材になっていくのです。

例えば、AIエンジニアはその代表例でしょう。近年はAIを活用した事業が主流となっており、AIを扱うことの出来るエンジニアは重宝され、その年収も高い状況です。

しかし、AIエンジニアは元々給料が高かったわけではありません。社会がAIを求め、さらにAIを扱える人材が少ないからこそ、エンジニアの給与が高まるのです。つまり、このブームに乗って年収を上げるためには、以前からAIエンジニアとしての経験を積む必要がありました。

もちろん、AIが流行る以前には、AIエンジニアになろうとする人は少なかったでしょう。そこまでの給料が期待できないからです。しかし、給与水準が上がった今となっては、AI分野に参入したい人が増えています。ただ、今から市場へ参入しても、先行者ほどの利益は得られないでしょう。

このように、本稿は業界のパイオニアになることを提唱しています。現在は注目されていない企業でも、将来的には新しい市場を扱い、業界のトッププレイヤーになる可能性があります。このとき、高い年収を期待できるのは、以前からその企業で働いていた人材です。

当該分野が盛り上がると、人材の参入が増えて代替性が高まり、自分の仕事を奪われやすくなるということですね。これを防いで自分の給与水準を上げるには、将来的な必要性の高まりを予測して、業界に先行参入する必要があります。

以上から、本稿では「必要性が高く、代替性の低い事業を扱う企業」をキャリア選択における望ましい企業として定義します。それに加えて、先行者利益を獲得したい場合には、「現在は必要性が低くとも、将来的には強大な必要性が生まれる市場に参入している企業」でのキャリアが有効です。代替性が高まっても、その頃には自分が業界のパイオニアになっているので、仕事を奪われる危険が低下するからです。

思いついたことをふらっと書き留めていきます。