Jリーグ感染症対策ガイドラインに思う

Jリーグの「新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン」が発表された。リーグにおいては困難な状況の中、ガイドラインを取りまとめたことに敬意を払いたい。しかし、その内容についはいささか疑問を感じざるを得ない。本稿ではガイドラインの全体構造を示すとともに、筆者が感じた疑問について記載していく。

ガイドラインの構造

「新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン」の全体構造について
ガイドラインでは下記3点の「目的」を柱に、時期・場面を詳細に想定した各プロトコルで「目的」に対する具体的な施策も方向性を示した。

【目的】
1.感染を最大限防ぎながら、Jリーグを再開する
・ 国民や地域の活力に貢献する
・クラブ、リーグの事業継続を実現する
2. その際、感染リスクを下げるために関係者が遵守すべき基準を示す
3. 感染が生じてしまった場合の適切な処置について示す

【具体的施策・方向性】
プロトコル 1:感染予防と、感染への対処
プロトコル 2:情報開示
プロトコル 3:Jクラブの活動段階と、統一検査
プロトコル 4:サッカーのトレーニング
プロトコル 5:チームの移動、宿泊
プロトコル 6:無観客での試合開催
プロトコル 7:制限付きの試合開催

このうちサポーターに係る部分はプロトコル6、7について。同項ではサポーターに許される応援と許されない応援が記載されており、具体的には下記のようになる。

サポーターには何が求められるのか

プロトコル6:無観客試合
(1)無観客試合は、新型コロナウイルスに対する社会全体の警戒度合いを、段階的に解除していく過程で採用される試合方式です
(2)この段階では、無観客であればJリーグ試合を安全に開催できることを、社会に向けて実証することが重要です
(3) 無観客試合の際、ファン・サポーターの皆さまが三つの密をつくってしまうおそれがないことを示していただくことで、すみやかに次のステップに進むことが出来ます
(4) 上記の観点より無観客試合においては、ファン・サポーターの皆様が自的に作成された横断幕のスタジアム内外への掲出は、禁止とさせていただきます
(5) どうぞご協力をお願いします
• スタジアムまたはその周辺に来場しない
• できるだけ家にとどまって、モバイル機器、テレビを通じて応援する
• 友人と一緒にテレビ観戦する場合も、対面にならず、会話を減らし、マスクをして、社会的距離を確保する
(6) 上記(4)(5)が遵守されない場合、試合延期措置等を検討することも考えられます
無観客試合では、パブリックビューイングは禁止される

無観客は実証になり得るか

無観客に代表される「新型コロナ対策」というものは、クラスターの発生を限りなく低くし、もって1日も早い新型ウイルスの終息に寄与する為に取られる手段と考えていたのだが、(2)によると「無観客であれぱ安全に開催出来ることを社会に向けて実証」することが重要であると記載している。これだけハードルを下げて「実証」と言うのはまず無理があるし、「この手法であれば安全に従前の応援・観戦スタイルに近づける」ことを示すことこそが実証に他ならない。

厚生労働省が示した「新しい生活様式」は、「そこにウイルスがある」(新型コロナウイルスを想定)という前提に立ち、出来得る限り罹患しないような生活様式を求めている。これは「しばらくの間、ウイルスと共存しなければならならない」と同義であり、共存しつつ経済活動を実施していくという部分こそが本質だ。その観点から言えば、Jリーグのガイドラインに「共存」という認識はあるのか。単に危険因子を排除するだけ排除すること、これがJリーグが示す、観戦にあたっての「新しい様式」なのか。

その疑問は、観客を入れての試合・プロトコル7を読んで更に強まり、暗たんたる気持ちになる。

観客を入れた―という実績

プロトコル7:超厳戒態勢時(厳戒態勢時も同一)
応援スタイルについて新型コロナウイルス感染拡大防止のため、
ファン・サポーターの皆さまのご理解とご協力が必要となります。
(1) 容認される行為は以下の通りです
• 横断幕掲出 ※掲出の際、密にならないよう十分配慮してください
(2) 禁止される行為は以下の通りです
• 応援を扇動する
• 歌を歌うなど声を出しての応援、指笛
• 手拍子
• タオルマフラー、大旗含むフラッグなどを"振る"もしく"回す"
• トラメガを含むメガホンの使用
• 太鼓等の鳴り物
• ハイタッチ、肩組み
• ビッグフラッグ ※ただし、お客様がいない席に掲出する場合は容認される

プロトコル6で「密になるから」と否定していた横断幕の設置をあっさり認める一方で、ウイルス罹患の心配があるとはとうてい思えない大旗を禁止する。結局、ウイルス対策になるかならないかを別に、規制しやすい部分をしっかり盛り込んで「これだけ対策を行った」という予防線を張りつつ「やる」という実績を作りたいだけではないのか。

私権への踏み込みとならないか

そして最も腹立たしいのは、プロトコル6に掲げられた以下の部分だ。

• スタジアムまたはその周辺に来場しない
• できるだけ家にとどまって、モバイル機器、テレビを通じて応援する
• 友人と一緒にテレビ観戦する場合も、対面にならず、会話を減らし、マスクをして、社会的距離を確保する
(6) 上記(4)(5)が遵守されない場合、試合延期措置等を検討することも考えられます
無観客試合では、パブリックビューイングは禁止される

これをそのまま受け取れば、無観客試合の際に店舗や友人宅で対面でダゾーンを観た場合は「試合延期措置等を検討する」こともあり得るのだ。サポーターの私生活にまで規制を張り、その責任をクラブに問う。緊急事態宣言の中でも、自治体はここまでの鞭を使ってこなかった。

リーグを開催することに意義がある。それは充分理解している。しかし、リーグ開幕にあたって、危険と思われる因子をあまりにも排除しすぎてはいないか。例えば無観客かつステップ3の時期であれば、スポーツバー等も適切な対応を取れば営業できる。一方で、Jリーグのガイドラインでは「無観客試合では、パブリックビューイングは禁止」であり「できるだけ家にとどまって、モバイル機器、テレビを通じて応援する」ことが求められる。これに背いた場合は試合延期措置が取られる。ここまで踏み込む必要があるのか。さらに付け加えれば「一定期間ごとの見直し」などの一文が見られない。新型コロナがどんな状況になったとしても、このガイドラインに変更はないということか。

このような状況であるからこそ、クラブとサポーター、そしてリーグが関係を密にし、出来うる手法を検討すべきではないか。「決めた、従え」ではなく、やれる範囲を検討し、それに対して必要な設備投資についてはリーグが一定の担保をする。サッカーの観客が単なる観客ではなく、クラブを支えるまさに「サポーター」であるという認識がこのガイドラインにあるとは、どうしても思えないのだ。



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