「タケシ」

僕は小学生の頃、空手を習っていました。



それは僕が小6の時です、



「タケシ」



という新しい子が道場に入ってきました。



身長はそれ程大きくもなく、坊主が伸びた様な髪型で、



とにかく歯の本数が圧倒的に少ない小学生でした。



歯の関係もあるのか、基本何を話しているのかまったく分かりませんでした。



唯一聞き取れた話が、



「おれオカンに包丁向けた事あんねん」



でした。



僕は小学生ながらに、



「いや、嘘やん。何か必死な奴やなー」



と思っていました。



空手は勿論弱く、向かっては行くのですが常にボコボコにされていました。



それから何十年も経ち大人になって、そんな事など忘れていた頃です。



何やら家の近所の公園のベンチの上に、男の人が背中を向けて立って居ました。



薄暗い夕方に、どこか遠くの方を眺めている様子でした。



正直少し気味が悪かったので、足早にそこを通り過ぎようとしました。



そしたら次の瞬間です、何を思ったのか



天高くバク宙したのです。



驚いた僕はその場に立ち尽くしてしまいました



そしてその男がふと振り返ると何と…



あの昔、空手で一緒だった



「タケシ」だったのです。



頭がおかしくなりそうなくらい意味が分からなかった僕は、ただ呆然と眺めていました。



タケシはそんな僕には気づくそぶりも見せず、ごく自然な流れでまたベンチの上に背中を向けて立ちました。



そしてまた次の瞬間、



「ピョオーン」



と、まるで翼が生えているかの如く空高く舞い上がりました。



ですが次の瞬間、



着地に失敗して腹から落ちました。



僕はあまりの衝撃にしばらく固まり動けませんでした



キリギリスの鳴き声と、心なしか吹く冷たい風。



公園がしーんと張り詰めた空気になりました…



しばらくするとタケシはむくっと起き上がり…



いきなりこちらを物凄い形相で睨みつけてきました。



何か見てはいけない物を見た気持ちになった僕は、すぐさまその場を立ち去りました。



何やったんやろ、あれ。



どうしようもなく恥ずかしくなって、どうしてええか分からん様になって



必死に並んだ挙句、僕の顔を…



睨む。



照れてはったんかな〜



久々に昔の友達に会えた、世にもノスタルジーなお話でした。


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