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墓参りのお迎え

まあお盆には早いけど、近々墓参りというか草むしりにでも行ってこようかなとは思っていた。
ただこの日は特にそんな事も忘れ、近所に懐かしのスーパーが10年くらいぶりに復活するというので視察がてらフラフラと自転車ででかけたのだ。


自転車で5分ほどの距離の場所に確かにスーパーはあった。
改装工事中でオープンは来月の予定らしい。
横目でちらっと見ながらそそくさと隣のドラッグストアへ。

こういった現場であまりじっくり見ていると俺の場合警察を呼ばれてしまうのだ(笑)

ドラッグストアでお酒を購入しながら涼んだあと、これからどうしようかと思案した。
この道を真っすぐ行った辺りに森の中に人の少ない公園あったな。なんとも不思議な雰囲気の。
以前子供らを連れて行った時は工事中で入れなかったっけ。ちょっと様子見に行ってみようかな?


相変わらず下り坂以外は自転車を押して歩いて、山超え谷越え森への入口の交差点へ。
これを真っ直ぐだったか?右折だったか?左折だったか?
まあ右に曲がって違っていたら左に曲がって軌道修正しよう。

そんな軽い気持ちで右に曲がって坂を下っていったら、見事なまでの一本道であった(笑)

そうだった。この先は交差点も脇道もないんだった・・・
どこに繋がってるかはわかってる。札幌ドームだ。

もう道を戻るのも面倒。
このまま札幌ドームの横を突き抜けて、どっかのスーパーで酒買ってどっかの公園で飲んで帰ろう。

・・・と思っていたら、いい感じの下り坂。
ヒャッハー!バイクみたい!

そんな気分が終わる頃には相当遠くまで進んでしまった。俺は馬鹿。

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そこの交差点を左に曲がれば水曜どうでしょうでおなじみのテレビ局、HTBの旧社屋があり、そして番組オープニングで大泉洋が語る有名な公園がある。(扉画像参照のこと)
そのそばには霊園があってうちの墓もそこにある。

ここまで来たならついでに墓参りでもしようかなぁ。

よし決めた!
ちょっと早めの墓参りを済ませよう。
そうと決まれば善は急げ。また下り坂を自転車でぶっ飛ばす。

そしてわかりやすいくらいよくある、いつものパターンで脇道から自動車が飛び出す(笑)

あと10メートル。このスピードじゃフルブレーキでも止まらん。
交差点で信号待ちをしているお姉さんたち、そしてその自動車の助手席に乗っている女性の口が「あっ!」になっている。

両ブレーキを握力計みたいに握りつぶしながら自転車から飛び降り、スノボーのようなポーズで両足で地面を踏みつけながら滑っていく。大型犬に引きずられる人みたい。

ザザザザァァァァ!!頼む!!間に合ってくれ!!!!

すんでのところで自転車の後輪が跳ね上がる。前輪が地面を捕まえた!
跳ね上がった暴れ馬を右手で押さえ地面に叩きつける。間に合った!助かった!
ガシャンガシャンと音を立てる自転車の横で叫ぶ俺。

あっつぅぃいい!!!!!(奇声)

摩擦でサンダルの底が溶けて激熱に。
サンダルの溝が見事なまでに何も無くなった。
あちちち!!と飛び跳ねる俺を見て「あぁ摩擦で・・・ごにょごにょ・・・プフフ」と笑うお姉さんたち。

恥ずかしいのでそそくさとその場をあとにしスーパーへと飛び込む。
お供え物の酒と豆菓子とわらび餅を買って霊園へと向かった。


もう夕方近くであり、墓参りの時期としても少しズレているからほとんど人がいない。
奥へ進めば進むほど人の気配はなくなり、聞こえるのは鳥と風の音のみ。

そんな俺を待ち構えていたやつがいた。

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キツネだ・・・。

いくら北海道とはいえ、こんな所で見るのは初めて。
霊園の周りは住宅街だし、そばに地下鉄が走るほどの街でもある。なにせ少し前までテレビ局があったくらいなのだから。
山なんか遠いし一体どこからやってきたのだ??

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(赤い印の部分が霊園)

住宅街をうろついて、人間から餌を貰い慣れているようなモフモフのキタキツネではない。
やせ細った野性味あふれるキタキツネ。

国道の大量の車を避けながら、川を超えて山からここまでやってきたというのか?
年老いた母に画像を送って尋ねてみたものの、そんな話は聞いたことがないし見たこともないという。

酒を飲みながらしばしにらみ合いが続く。
墓参り用の水を汲む俺を見届けるとすくっと立ち上がって振り向き、俺を先導するように歩いていく。

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餌を狙っているのではないのか?
近づいてくる様子はない。
15メートルくらいの距離を保ちつつ、きちんと俺がついてきているかを確認しながら前を歩く。

するとうちの墓の前でピタリと立ち止まり、お稲荷様のようなポーズで座って待っていた。

なぜ俺の目的地がわかったのか?
墓の前に俺が荷物を置くのを確かめると、どこかへ行ってしまった。


墓の掃除をサボっていたので雑草がえらいことになっていた。
せっせせっせと雑草を引っこ抜いていると、遠くからその様子を見つめるさっきの狐が見えた。

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本当に餌狙いではないのか?
実際はいけないことなんだろうけれど、確かめるために豆菓子をいくつか狐の方に投げてみた。が、全く反応しない。

むしろ呆れたような顔でため息をついているようにも見える(笑)

狐とは食べ物を奪い合って戦ったこともあるので、どれだけあいつらが卑しいかは知っている。
特にやせ細った狐はカラスのように食べ物に執着する。
なのに食べ物があるというのに近づこうともしない。

それが不思議で何度も何度も俺が豆を投げていたら、呆れた顔でひと粒だけ食べに来てすぐに去っていった(笑)

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墓掃除を終えてお供え物をして、お酒を飲みながら一休み。
そんな俺の様子を遠くからくつろぎながら見る狐。

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墓の右側にスタスタと去っていったはずなのに、いつの間にか左側からのんびりと見つめていた。
こんなくつろぎポーズの狐は見たことがない(笑)

お酒を飲み終えて、帰り支度をしていると狐は静かに去っていった。

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スマホで写真を撮影し、ふと顔を上げるともう狐の姿は完全に消えていた。

そう見せかけて真後ろにいて首筋に噛みつこうとしてるんだろ!と振り向いたが本当にいない。
一体奴は何が目的だったのか??

「おじいちゃんとおばあちゃんだと思う!」と母は興奮気味。

いやそれを言うならおじいちゃんかおばあちゃんだろ。なんで合体してんだよ(笑)

ただ、そう考えた方がまだ納得できる。
この日墓参りに向かわせたのもあの狐なのかもしれない。
そんな俺を迎えに来て「やっと来たな。遅いぞ全く」と言いながら、見守っていたのだろう。


そう納得して「ありがとう」と心でつぶやく。
そしてその場を去る時に最後にまた姿を現した。

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立ち去る俺の姿を確認すると、今度はついて歩くこともなくスタスタと去っていく。その後姿は「また来いよ」と言っているよう。


狐と二人きりの奇妙で不思議な墓参り。
夏の怪談にしてはあまりにもホンワカと心温まるものだった。



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