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土の中から黒く光る銃口

あれは間違いない。
塀の上からそれを見つけてニヤリと笑った。
あとはこれをどうやって手中に収めるかだ。


小学校の3年だったか4年になっていたか?
俺はいつものようにグランド銀座の裏にある、砂利と雑草だらけの空き地で夕暮れまで遊んでいた。
一緒に遊んでいた名前も知らない友達がひとりふたりと家路につく。
グランド銀座のネオンも灯り、一人ぼっちになったがいつものこと。

まだまだ遊びたりなかった俺は落ちていた枝で草をかき分けながら、何かいい物が落ちていないものかと探していた。
以前ここで謎の深い穴を発見し、落ちていた工事現場にあるような長い鉄の棒を差し込んだところ骨が出てきたことがある。

すごい物見つけた!と家に持って帰ってえらい目にあった(笑)

交番まで届けたら大騒ぎになったが、結局犬の骨だったと記憶している。
でも楽しかった。
非日常な出来事はワクワクするものだ。

しかしこの日は特に収穫もなく、何ともつまらない平凡な夕方。
祖母はまだ迎えに来ていない。
ならば素直に帰ればいいものを、俺はいつものように祖母が来るのを待っていた。
おばあちゃんの「ご飯だよー」とにっこりしながら呼ぶ声がなぜか嬉しくて。

宝物探しに飽きた俺は空き地の端にある塀によじ登った。
かなり高い塀だったが、端っこの方まで行けば低くなっているので簡単に登れる。
ブロック塀の上を猫のようにスタスタと歩き、ある程度まで進んだところで俺の足が止まりニヤリと笑った。


ついに宝物を見つけたのだ。
塀の向こう側の家の隙間、苔が生えるジメジメとした土の中から黒く光る銃口を。


あれをなんとか手に入れたい。
しかし塀を飛び降りることは問題ないが、戻ることが出来ない。
その上この塀の向こうは謎の家とヤクザの事務所の隙間だ。
ヤバいことこの上なし。

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(これは現在の写真だが謎の家は右手側、左のパチンコ屋がグランド銀座の駐車場だが、駐車場になる前は事務所だった。調べると「パチンコ店が建つ前はヤクザ事務所。当時の組長が銃で自殺。」とのこと)

飛び降りて銃を引っこ抜いても、物が物だけに見つかってしまえば俺も銃と一緒に土に埋まることになる。
引っこ抜いたらすぐに塀を駆け上って向こう側に飛び降り逃げなければならない。

そこで俺はブロック塀に縄跳びを縛り付け、それを利用して一気に駆け上がることにした。
塀の手前側で入念なリハーサルを繰り返す。
一応片手でも登れるか試してみた。左手に銃を抱えていた時のためだ。
なんとか片手でも登ることは出来る。

そんなことをやっているうちに祖母が「ご飯だよー」とやってきてしまった。
今日はそれどころではないのだ!
「あとで必ず帰る」と伝えて帰ってもらったが、よく考えてみれば「もし帰らなかったら警察呼んで」とも伝えておくべきだったか?


夕日も完全に沈み、辺りは闇に包まれる。
当時は街灯も少ない上に街灯自体の光量も少なかったので夜は暗かった。
しかもこの塀の辺りはパチンコ屋の完全な裏側でネオンの光も届かない。
忍び込むには絶好のチャンスだ。

塀に登って息を殺す。勝負は一瞬で決まる。

縄跳びに掴まりながら足音を殺し飛び降りると、土の地面はかなりぬかるんでいて足跡がついてしまった。
子供の足跡だとわかれば特定されるかもしれないとサスペンス好きの俺の頭はフル回転。
なのでわざと足を引きずるように歩き足跡を消しながら進み、目的の銃口まで近づいた。

そして一気に引き抜こうとしたもののびくともしなかった。
手で土をかき分けると銃身が思っていたよりもずっと長い!
今度は地面がぬかるんでいたことが幸いし、ある程度掘ったところで銃身が前後に動いた。
歯を抜く時のように前や後ろに何度も振り、ある程度動きが大きくなったところで大根を抜くように一気に引き抜いた。

ぬかるみに尻餅をつきながら俺は驚愕した。
埋まっていたのはライフルだったのだ。


とんでもないところからとんでもない物を掘り出してしまった。
これを抱えて片手で2m近くある塀を登るのか?!
しかし躊躇してる時間はない。
建物の中から声が聞こえた気がする。見つかったかもしれぬ。

ええいままよ!と縄跳びに掴まり登ろうとするも、靴に泥がついてしまい滑って登ることが出来ない!
もたもたしてる内に建物の中のガヤガヤとした声が大きくなった気が。

もう躊躇している暇はない。
俺はライフルを塀の向こう側になるべく静かに放り投げ、両手で縄跳びに掴まってほぼ腕の力だけで塀をよじ登った。
いつも登り棒やってて良かった。あれって役に立つことあるんだな(笑)


素早く縄跳びを塀からほどき、ライフルを拾って足音を殺しながらこの場から立ち去った。任務成功だ。
自宅の裏口の方に入り、ライフルを一度だけ撃ってみようと思い立つ。
その瞳を見てはいないが、恐らくランランと目は輝いていたことだろう。

このライフルはボルトアクション方式、つまり射的のように手でレバーを引いてから撃つものだったのでまずレバーを引こうとしたが、汚れのせいとバネの強さでうんともすんとも言わない。

なのでライフルを地面に立てて、足でレバーを押し込んだ。
銃口が顔面に向いていたので、今暴発したら完全に自殺だなぁと笑いながら。

レバーを戻し引き金を引く。
もちろん薬莢も何も入っていないのは確認済みだから弾が発射されることはない。
西部警察の大門のようにライフルを構え、引き金を引く。バーンと口で言いながら・・・のはずだった。

ボン!!という音と共に銃口から煙が舞う。反動でまたも尻もち。

弾丸が入っていたわけでもなんでもない。
銃口に土が詰まっていたのだ。
引き金を引いた瞬間に空気の逃げ場を失い、銃口から土が飛び出したのだ。
本当に薬莢と弾丸が入っていたなら、俺の腕は吹き飛んでいただろう。


その音を聞きつけて、家族の誰かがやってきた。
裏口の玄関を開けると、銃口からまだ土煙が上がっているライフルを構えて尻餅をついて笑っている子供。
そりゃ誰でも叫ぶわなぁ(笑)

「大変だ!みんな来て!」という叫び声で家族みんなが集まった。
祖父が「どこでそんなもん・・」と絶句。
「空き地で拾った」
言えるわけがない。ヤクザの事務所の裏に忍び込んで拾っただなんて。

「け、警察に!警察に!」と大慌ての母。
いやそんな慌てなくても・・・。
「早く行っといで!怖い!」と祖母。
うんまあそこまで言うなら行ってくるよ。でもそんな慌てなくても。

ライフル抱えて交番まで散歩。
歩きながら通る車にライフルを向け「バーン!バーン!」とやって怒られた。
いやだからそんなに怒らなくても。

中島公園の交番に到着。
以前俺が彼女とボートに乗って池に落ちたと言っていた公園だ。

「どうしました?」
「子供が!子供が鉄砲を拾ってきたんです!!」と母。
「え?!」と一瞬驚いたものの、ライフルを手渡すとすぐにニンマリする警察官。
それに対して俺もニッコリ。

「お母さん大丈夫ですよ。空気銃ですから」
だよね。だって詰まってた土が空気で吹き出したし(笑)
ヘナヘナと力が抜ける母。

空き地で拾ったと伝えて落とし物として届け出。
半年間落とし主が来なければ俺のものになる。
まあ来ないだろうな恐らく。この落とし主は特に。


半年後、このライフルは見事に俺の手元にやってきた。
しかしよく考えてみれば、これを持って外で遊ぶことは出来ない。
なにせ拾ったところは俺の自宅の目と鼻の先のようなもの。
見つかったら本気で人生が終わってしまうかもしれない。

それにしてもなぜこのライフルの空気銃を家の裏になんかに埋めたのか?
40年経った今でも疑問のままだ。
もしかしたら本物の銃も更に深くに眠っていたのかもしれないが、真相はすでに藪の中。

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追記
40年前の話で時効ということで書きました。
事務所ももうないしね。
良い子は暴力団の事務所の裏庭に忍び込むのは止めましょう。



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