ただいま心肺停止中

「え?!」
「あれ??」
医者や看護師の叫び声にみんなが振り向いた。


何のことはない。
高校での健康診断での一コマ。
身長やら体重やら計測しながら滞りなく検査は進んでいく。

「次の方どうぞー」
「はい大きく吸ってぇ」
「聞こえたら手を上げてくださいねー」
流れ作業のように生徒たちが進む。

この日の検査には心電図検査もあった。

この時点で俺は嫌な予感がしていた。
自分自身が不整脈なのはわかっている。
しかしまあ引っかかって再検査とか嫌だなぁくらいに思っていた。


「お前心臓調子悪いんだっけ?」
「前に一回引っかかってんだよ」
「どんなのか見てよっと(笑)」
「やめろよ」

俺の番がやってきた。
心電図の機械の横のベッドに寝転がって検査開始。
とりあえず落ち着いてなんとか乗り越えよう。落ち着け俺の心臓。

「んー」と検査してる方が唸る。
「ちょっとずれてるかな」と小声で言いながら胸に貼った検査用のパッド(?)を貼り直す。

「んー」とまた唸り声。そして小さい舌打ちが聞こえた。
「あのちょっと普通にしてもらえます?」と注意を受ける。
「普通にしてますけど?」とちょっぴりイラッとしかえしながら答える。

何人かの友人がクククと後ろで笑っている。
「普通じゃねーだろ(笑)」
「すげぇなお前」と小声で声をかけられた。
何のことやらと思っていると聞いたこともない・・・、いやどちらかと言えば逆に聞き覚えのあるリズムで俺の心音が鳴っていたのだ。

ド・・ドド!・・ド・・ドド!・・ド・・ドド!・・・

「一体何をやってるんですか?」と怒気を込めた口調で注意をされた。
いやいやいや!いくらなんでもイタズラで心臓の音でビートなんて刻めねぇよ(笑)

医者が呼ばれ何やらゴニョゴニョと相談をしている。
しばらく相談した結果、俺の検査は後回しになってしまった。
俺だけでかなり時間がかかってしまい、後ろがすっかり詰まってしまったのだ。


全員の検査が終わり、もう誰もいなくなった先程の場所にもう一度呼ばれシャツを脱ぐ。横になり深呼吸。

ドッドッドッ・・!ドッドッドッ・・!ドッドッドッ・・!

やはりキレイな心音ではない。
しかも今回はクイーンのWe Will Rock Youだ。
もはや作り話みたいだけどもこれはしっかりと覚えている。

右足、左足、拍手だったっけ?
え?拍手、拍手、足じゃないでしょ?それだと両足上がっちゃうよ(笑)
それでクスクス笑ってしまい怒られたので鮮明に覚えていたのだ。

「本当にこれ・・・」
「機械は問題ないと思います」
「笑い事じゃないんだよ?」

なんやかんや喧々諤々。責められる責められる。
そうは言っても俺の心臓なんか小さな頃からこの通り。
ある時は見えない手に心臓を握りつぶされたり、ある時は長い槍が胸の真ん中を貫く。そんな痛みとずっと付き合ってきたのだ。今更何を。

結局俺は後日保健所まで行って再々検査することになってしまった。
やはりこうなったか・・・。


後日保健センターなる場所にて。
酒やタバコをこの時ばかりは少し控えめにして検査に臨む。
この検査を乗り越えなければ下手すりゃ入院やら手術なんてことを言われるかもしれない。
当然そんな金なんかうちにはない。醤油つけたティッシュを食うことだってあるくらいなのだ。

この判断が間違いだったのかもしれない。

蛍光灯が点いているのに少し薄暗い部屋に案内される。
この前よりもちょっと立派な心電図の機械。のような気がする。
これならばしっかりと俺の心音を捉えてくれることだろう。

体にパッドを取り付け検査を開始する。
開始と同時に「あれ?」という声が響く。
その声に俺の心臓は止まりそうになる。


いやそうではない。心臓はすでに止まっていたのだ(笑)


「電源は?あれ??」
「おかしいな」
ガヤガヤガヤガヤ。

しかししばらくするとドドド・・・という心音が聞こえだした。
良かった。俺生きてる。

だが安心したのも束の間、ドドド・・・ドド・・ド・・・・・
・・・・・・・。
心肺停止状態。実際は肺は動いているがそのような雰囲気。
(止まった時にピー!と鳴ったかどうかは覚えていない)

「え?」
「え?!」
「え??」

異常な事態に「え?」としか言われない。
「あの・・・大丈夫ですか?」と思わず俺が尋ねる。
全員から「お前が大丈夫か?だよ!!」という顔で睨まれる。

少し間を開けてまた心臓は動き出す。
もちろん数十秒も止まっているわけではない。
不整脈のものすごく酷いものと考えてもらえればわかりやすい。
ゾンビじゃあるまいし死んだまま動いているわけではないのだ。

実はゾンビなんですって言った方がまだわかりやすいんだけれども。

酒飲めば治るんだけどな・・・酒を抜いてきたのが間違い。心臓がすっかりやる気を無くしていたようだ。

結局大きな病院に行くことを薦められたと思う。
でも確か断ったはず。ストレートに金が無いと言って。
金と命、俺にとって重たいのは間違いなく金。

後日、何食わぬ顔で学校へ行ったがすっかり心臓が悪い人というイメージがついてしまっていた。


少しだけ月日は流れ、修学旅行の日。
京都では夕食後に一人で抜け出して街を散歩し、長崎屋でジーパンなど衣料品を買ったりした。お土産代をそのままバカ高いお土産になんて使わない。それこそ馬鹿だ。

それなりに楽しく過ごし最後は楽しみにしていたディズニーランド。
数年前にオープンして噂は聞いていた。色々と乗って母へのお土産話にしたい。

入口をくぐったところだったか、くぐる前だったか。
心臓に例の痛みが走る。
まずいなこんな時に。

一応用意していた救心をポケットから出したところで更に大きな衝撃が胸を襲う。
まるで鬼が持つ金棒をフルスイングされた気分。

多分この時俺の心臓を心電図検査をしていたなら、また機械の故障と疑われることだろう。
手に力が入らない。持っていた救心を砂利にばら撒く。
というか、ばら撒いたらしい。

気がついたら俺はディズニーランド内のベンチで横になっていた。友人らが抱えて寝かせたらしい。


俺の恐らく最初で最後のディズニーランドはこれが全て。
友人たちにあまりにも悪いから、俺のことはほっといて遊んでこいと言ったものの「またいつか来ればいいんだから」と俺を看病して終わってしまった。
申し訳ない気持ちしかない。全員もう一度行けていればいいのだが・・・。

こうして俺の修学旅行は終わった。


ちなみに酒さえあれば平気で、翌年就職先の社員旅行で行った遊園地でこっそりウイスキーを飲みながらフリーフォールに3連続乗ってキャッキャしていた(笑)
こうして今現在も心臓の調子が悪くなると酒を飲んでやり過ごしている。

ただし酒を飲みすぎると喘息の発作を起こしてしまう。
喘息の発作に対する気道を開く薬は、心臓にかなりの負担を与える薬。
そして大慌てで酒を飲み、喘息の発作をまた起こす。

呼吸と心臓を止めながら、大怪我を繰り返しつつ今まで生きている。
結局俺はゾンビなのだろう。



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