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難題・お父さんのお仕事

今はどうなのか知らないが、40年以上前の小学校ではよくあった話だ。
「お父さんのお仕事について作文を書いてきてください」
なんと難しいお題だろうか。


俺には父親がいない。
それが悲しいとか同情してほしいとかは一切ない。
なぜなら生まれる前からいなくなってしまったからだ。

俺にとってはいないのが当たり前。
それに対して何の疑問もなかったし、特に不便もない。
初めからそれが普通なんだからなんとも思わない。

最初に父親がいて離婚になって離ればなれになったとか、死別してしまったとかだと大変なんだろうなとは思う。
俺は最初からいないから関係ないけど(笑)
まあ本当にこのくらいの感情。


そんな時出されたのが冒頭にあるお題の作文を書く宿題。
「お父さんのお仕事」だ。

40年以上前の当時はなんというかよく言えばおおらかで、そういった家族に対しての気遣いなんて全然ないのな(笑)
はてこれは困ったぞと。

なにせ父親の顔も名前も知らない状況。
こんなお題書けるわけがない。
悩んだ挙げ句、題名と名前と「お父さんはいません」とだけ書いて提出した。

するとすぐに先生に呼ばれ「ごめんそうだったか。じゃあお母さんの仕事でもいいよ」と作文用紙を返された。
明日までに書いてきてと。

マジか・・・これは本当に困った。
母親は実家暮らしの遊び人だったのだから(笑)

仕事はするものの気に入らないことがあればすぐに辞めてしまう。
気に入っていても旅行に行きたいからと辞めてしまうことも。
面接だけ行って出勤初日に辞めたこともあるらしい。

母親が30歳になった時点で「履歴書真面目に書いたら書ききれないよ」と笑っていた。

こんなもん作文に書けるか!(笑)
今の仕事書いたところで一週間後にはもう辞めていそうだ。


こうなったらもう母親と祖父の仕事の混合で作文を完成させるしかあるまい。
母親の仕事は適当に書いた。
それ以外どうすることも出来ない。

次は祖父について。
でも祖父もまたこれ遊び人なんだよなぁ(笑)
自営業なんだが何をやってるのかよくわからない。

手動で一枚ずつガチャンガチャンと名刺を作る機械があるので名刺屋さんなのだろう。
滅多に作っているところを見ることはないが。
そんな作文を居間でジュースを飲みながら書いていたら、その祖父が俺のもとにやってきて「ほらKT、車乗れ行くぞ」と。

困惑しながら助手席に乗せられどこかへ向かった。場所は覚えていない。
着いた所で荷降ろしが始まる。
その荷はカレンダーだった。

カレンダー??

カレンダーなんて作っているところを見たことがない。
作文のこともあるのでそのことを祖父に尋ねてみた。

「カレンダーを作ってるの?」
「いんや作ってない」
「どういうこと??」
「カレンダーの注文受けて届けてんだ」

全く意味がわからない(笑)
話を聞いて推察すると、カレンダーの注文受けて印刷屋に名前入れ(カレンダーの下に企業名を入れる)を頼み、そのカレンダーを届けているそうだ。

いやそれ企業が印刷屋に直接頼めばいいんじゃ?!

謎すぎる仲介屋。
これをどうやって作文にしたらいいのか?(笑)
もう明治生まれの祖父が亡くなって20年以上経つけど、未だに仕組みがよくわからない。

わかったのは将来俺は真面目に働こうということだけだ。


この20年後、知っての通り祖父や母をゆうに凌ぐほどの遊び人になってしまった。
どうしてこうなってしまったのか、いくら答えを探しても見つか・・・りすぎなのだ。

もう全部だろとしか(笑)

もちろん誰かのせいではない。
全て俺の責任だ。
だらしなく全てを誤魔化し諦めて、こうなってしまったのだ。


そして時は巡る。
俺の子供達がその問題に直面する。

「両親の仕事について」

今は両親なんだな。なるほど。というかついに来たか!
「なんて書けばいいの?いつも何やってんの?」「うーんいろいろ」
困惑する子供達。
子供達はきっとこう思っているだろう。

将来俺(私)は真面目に働こう。

でもいつか気がついてほしい。
俺がうまく行かなかったからこそ自分たちがいるということを。
今笑っているならそれはきっと間違いじゃなかった。ただそれだけのこと。


これを真面目に働いてる嫁さんに言ったら死ぬほど怒られた。



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