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東証改革から1年、ここからが経営者の腕の見せ所

東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)が低迷する上場企業に対して改善策を求めてから1年経った。当初は対象となる企業や本来モノ申すべき投資家に波紋を広げていたが、株式市場では低PBR企業の資本効率や収益性が改善するとの期待感から外人の思惑買いが広がり、新NISAへの制度変更に伴う新規マネーが流入するなど、思い返せば日経平均株価4万円超えのきっかけにもなったともいえよう。しかしながら、期待外れに終われば、投資家心理は簡単に冷え込み、後々の株価下落・低迷につながる恐れもなくはない。これから2024年3月期の決算発表が続く。この1年でPBR改善策の成果がフルに示現するわけではないが、各企業の経営者はこの1年の対応と今後の見通しはしっかりと説明していってほしい。
東証が求めた改善策は「成長投資」「研究開発」「人的資本への投資」である。これらを効果的に行うことによって企業価値を高める基盤をつくり、企業価値が向上することによってその収益が投資家に分配され、分配された収益がさらに再投資に回るという好循環が生じれば、投資家にとって東京市場の魅力が高まることを東証は期待している。経営者の中には、PBRという株価関連指標を改善するということに対して、株価は市場が決めるものであり企業あるいは経営者がコントロールできるものではない、という意識を持っているかもしれないが、明らかに昨今の経営にそぐわない。ましてや自社株買いによって株価上昇、これがPBR改善策だなんて考えている経営者がいるとすれば、退場願いたい。確かに、株価は市場が決めるものだ。しかし、上場企業は投資家がいるから上場しているのであって、上場している以上は投資家が企業の成長性や収益性をどう評価しているのか、投資家目線で意識しなければならない。大株主が親会社だから、親会社の意向だけを気にしてればいい、なんてテレビドラマにでてくる経営者みたいなことは、間違っても言ってはいけない。
この1年、売上高が伸びた要因は何か、売上=単価×数量、営業努力で単価を上げることに成功したのか、偶々インフレで業界に便乗して値上げしても数量が落ちなかったのか。コスト面ではインフレの影響により上昇傾向にあったとすれば、経費削減努力によりコスト抑制に成功したのか、偶々インフレでも業界に便乗してコスト維持あるいは下げることができたのか。収益性だけではない。成長分野への投資、研究開発投資、デジタルトランスフォーメーション化に向けた投資、リスキリングなどの人的資本への投資などはどのような考え方・方針で、何をどこまで実行し、いつまでに何をしていくのか、具体的に示していくことである。その一方では資本コストを意識し、事業ポートフォリオを見直していく。そして、収益性や成長性を広く投資家に知ってもらうために、開示も充実させることだ。
多くの上場企業は時価総額が増えPBRが改善されてきた。経営者だけでなくその企業で働く従業員の努力もあったことだろうし、その働きに報いる意味でも、従業員の賃上げが進んでいることは、企業が好循環にある望ましい姿だと思う。仕事に対する従業員のモチベーションが向上し、更なる収益力の向上が図られれば、あらゆるステークホルダーにとっては好ましい。ただ、時価総額が増えた企業の中には、自社株買いが功を奏した企業が少なくはない。自社株買いはやっても限界はある。収益を伸ばすのは限界はない。PBRが1倍超えたからといって喜んでいる場合ではない。経営者はどのようにして収益を伸ばすか、ここからが経営者の腕の見せ所である。

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