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日本企業のガバナンスと株主⑥

前回に引き続き、先日受講したコーポレートガバナンスに関するWebセミナーの登壇者(企業年金を運用する方)の「親子上場」に関する意見・コメントとそれに対する所感を以下整理する。極めて日本的なこの問題は海外投資家から見てどのように映っているのか、関心高いテーマでもある。
【日本企業のガバナンス上の問題点⑥:親子上場は「普通」ではない 要旨】日本企業の中には親子上場のどこが悪いのかという意見を持つ経営者も多いようだ。親会社が子会社を上場させるということは、実質100%コントロールしたまま持ち株の売却益を手にするわけで、上場することの責任感がない行為であると考える。また、上場企業株式の51%を買収・取得し、実質コントロールを100%握るなどの事例もあるが、これもまた同様である。こうした親子上場は株主からの「搾取」であり、利益相反の可能性をはらんでいる。つまり子会社を上場させて他の株主から広く資金を集めて更なる企業価値の向上に努めるのが建前であって、一般株主の議決権行使については無力なまま経営権をコントロールしたいというのが本音ではないだろうか。成長性・収益性が高いが故に上場できるのであって、そういった優良な上場子会社を持っている方が親会社の株価が高くなるといった現象も起きているが、議決権行使の無力化は、企業に対するエンゲージメントの無力化を意味するわけで、親子上場は親会社の少数株主に対して不利益の可能性があると思料する。
【所感】
データによると、上場子会社の数は2014年の324社(全体の中の比率は9.7%)から2022年の258社(同6.8%)へと年々減少している(出所:JPXホームページ:従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会 第2期 第2回東証説明資料)。ただ、各国における従属上場会社の状況を見ると、諸外国と比較して、日本では上場支配株主を有する従属上場会社が多い。上場支配株主を有する従属上場会社で、支配株主30%以上保有する割合はアメリカ0.89%、イギリス0.20%、フランス3.72%、ドイツ3.52%に対し、日本10.73%であり、418社(3,892社中)もある(出所:JPXホームページ:従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会 第1期 第1回 東証 参考資料)。昨今のコーポレートガバナンス改革のもと、親子上場に対する考え方は徐々に変化しているものの、その解消には時間がかかっているようだ。そもそも子会社を上場させることの意味はなんだろうか。よく聞くのは、子会社の社員のモチベーションの維持・向上のためであるとか、子会社で優秀な人材を採用するためだ。しかしながら、これは企業内部あるいは経営者のロジックであって、実際そこで働く社員や、就職・転職を考えている求職者や学生の見方と完全に合致しているのだろうか。もちろん、会社に入ってからコツコツと仕事に取り組んできて、自分の会社が上場する段階ま成長して社会的認知度が高まることで、サラリーマン冥利に尽きるというものかもしれないし、社員持ち株会に入っていれば上場株を安く手にしてひと財産を築くことができたということかもしれない。ところが、最近は転職は当たり前の時代になり、新卒で入社した会社に定年まで一生勤め上げることは少なくなってきたので、子会社を上場させることで社員のモチベーション維持・向上を企図する意味は薄れていると考える。また人材も働き方も多様化した今日、優秀な人材は自分に適した企業を選択するため、上場企業の子会社であろうとなかろうと優秀な人材にとってはあまり関係ないのではないか。やはり親子上場は、企業内部あるいは経営者のロジックと、そこで働く社員や働こうと考える求職者の考えとでは、ギャップがあるように思える。むしろガバナンス上のデメリットと指摘されている議決権行使が無力化されること、エンゲージメントが無意味になることのほうが問題ではないかと考える。


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