# 133_詩作日記を企画してみる

 はい、それでは後半に入ろうと思います。前半は弱視とか情報技術とか、少しみなさんから距離のある内容だったかなと思います。なのですが、彼らとみなさんの違いというのは、ざっくりとはからだの特性(例えば目の見えやすさ)や得意なこと(例えばエンジニアリング)が違うだけで、ぼくが着目しているのは共通してそれぞれの日常についてです。どうやって日常の生活をつくっているか、というのに着目してます。当たり前ですけどみなさんにも日常があります。ぼくは誰しも日常の中に表現とかつくると言ってもいい行為があると思っているんですね。一般に表現とかつくると聞くと、例えば美術館で展示されているアート作品とか、綿密に設計された建築とか製品とか、そういうものを想像しちゃうと思うのですが、そういう高度に専門化されたものもあるんですけど、それとは別で、生きている人、一人ひとりが小さな表現とかつくる行為みたいなものを持っていると思っているんですね。

 例えば、本人がどう思っているかは分からないですけど、ぼくの母親なんかはとにかく料理をつくりまくっているんですけど、ぼくはあれは表現だと言っていいと思ってます。今は母は東京に住んでいるんですが、たまに新潟に帰ってきてぼくの兄の子ども、つまり孫ですね、彼らに食べてもらう料理とかを滞在中つくりまくって帰るっていう謎行為をしているんですが「料理をするのが別に苦じゃない」って言っていたんですけど、これはいい言葉の表現だなあとぼくはそれを聞いて思いました。つまり、めちゃくちゃ楽しいとか自分はこれが好きだみたいなことじゃないんですよ。あくまで、その行為が息を吸って吐くみたいな行為としてできるというか、自分のからだにごくごく自然なものとして合っているというか、そういうものなんですね。
 母の場合はもう高齢者なので、長く生きている間にそういう日常ができていったという感じだと思うんですけど、みなさんの場合はまだお若いですし自分自身が変化していく時期なので、なにか自分の日常をつくっていく工夫みたいなのがあってもいいのかなと思っています。というのも、日常の中の小さな表現というのは、あまりにも空気のような存在というか、無意識的に行われているので、本人にとってもその存在自体が知覚できないんですね。そうすると、いつの間にか知らぬ間にその行為を日常の中から消してしまったりするんですね。原因は色々あると思うんですが、やっぱり社会化する過程というか大人になっていく段階で、こうあらねばならないとか、自分の環境の変化と共に目まぐるしく変わっていく目の前の日常に合わせていくので精一杯になって、その行為の優先度が下がっていっちゃったりするんでしょうか。なので、無意識にやっていることなんだけど、あえてそれを意識できるものにして守ってあげるということをしてあげる必要があるのかなあと思っています。その行為がなんなのか知っているのも自分しかいなくて、それを守ってあげるのも自分しかいないので、良い意味で孤独の作業というか、意図的にそういう工夫をする必要があるんじゃないかと思っています。
 ということで、後半はみなさんに、みなさんにとってのそういう行為を意識化してもらえるようにする作業みたいなことをしてもらおうと思います。全体像を最初にお伝えすると、それぞれにとってのそういった行為の日記のようなものを付けて、誰にそれを見せたり読んでもらったりすると楽しいのだろうかと、そういうことを一度想像してみるみたいなことをしてもらおうと思います。大きく三つ段階を踏んで進めていこうと思います。まず最初になんですけど、自分の日常というのを振り返ってどういう行為をしている時間が自分にとって居心地がいいか、思いつく限り箇条書きで書き出していってください。最初にお伝えしたとおりなんでもいいんですけど、自分一人の行為であることが好ましいです。例えば、友だちと話している時が楽しいとかあるかもしれないのですが、その中でも色んな話題があって、例えば共通の興味というか例えば共通で好きな音楽みたいなものがあって、その話題で話している時が好きとかだったら、一人でその音楽を聞いてたりそのミュージックビデオを観てたりする時間があると思うんですね。そういう場合は、人と一緒にいるところからさかのぼっていって自分ひとりの行為を導いて書いてみてください。それでは五分間程時間を取ろうと思うので、みなさんまず一人で考えてもらって、五分後にチャットボックスにテキストを貼って投稿してください。作業してみるのに当たってなにか質問ある人がいたら今ご質問していただければと思います。

 はい、それでは、次にその日常の何気ない行為を「つくる行為」に変えていくというのに取り組んでみてもらいたいと思います。ここで大きく二つに分けようと思うんですけれど、まずアウトプットしているものとインプットしているもので分けましょう。例えば料理はアウトプットです。そういうなにか生み出しているものは、それを記録するのに適した手段、なるべく簡単な方法がいいですね、例えば料理だったら写真を撮る。その写真を印刷してノートに貼って、その時の気持ちを書く。料理日記ですね。
 次に映画を観るというのはインプットです。この場合は観たあとに感じたことをノートに書く。映画日記です。あと音楽を聴くとかだったらその日何曲か聞いたとして、いいなと思った曲でプレイリストをつくるとかね。それでひと手間ですけど、なんかストリーミングのサービスで普段聴いたりしてたら、プレイリストごとにURL発行できたりすると思うんですけど、そのQRコードを印刷してノートに貼ってそのプレイリストの説明文を書くとかね。音楽日記です。
 散歩とかスポーツとかからだを動かすものも、例えば散歩だったら、散歩しているときとか家にもどってきた後とかに感じたことをノートに書く。散歩日記ですね。散歩しているときに写真撮ったりするなら、それをノートに貼ってもいい。からだを動かす系はインプットもアウトプットもどっちの要素もあるので、自分の場合どういう記録の方法が簡単で楽しそうかを考えて決めてみましょう。ということで、その日常行為の中で自分にとって一番居心地がいいなというものをひとつ選んでもらって、日記を書くとしたらどんな方法がいいのかというのを作文してみてください。日記の簡単な企画書ですね。これもまた五分間程度時間を取りますので作文しながら考えてもらって、また五分後にチャットボックスで共有してもらおうと思います。

 はい、次が最後の作業です。最後はですね、仮にその日記をですね一ヶ月間くらい続けたとしましょう。それで、その日記、ノートを見せて、楽しい時間が流れそうな自分が実際に関係してる誰か一人について考えてみてほしいと思います。知り合い、友だち、家族、実際に自分が関係性を持っている人だったら誰でもいいです。その人に見せてその日記をネタに雑談というかおしゃべりをするとして、そこに居心地のいい時間が流れそうな人というのを選んでください。
 日記の内容というのはとても個人的な内容になるので、まず誰にでも見せたいと思えるようなものではないと思います。場合によっては自分一人だけで読むものでもいいと思います。でも、めちゃくちゃ個人的なんだけど、この日記を見せてもいい、見せて話をすると楽しそうと思える人がもしかしたら一人や二人いるかもしれない。それが今まで自分が出会ってきた人の中で、誰なんだろうかと考えてみてもらいたいと思います。またこれもなかなか貴重な存在ですが、その日記を見せて自分もやってみようかなあと一緒に遊んでくれるような存在とかでもいいです。これもまた五分間程度時間を取りますので考えてみてください。具体的な名前は書かなくていいので、その人を紹介する文章を書いてください。それとなぜその人を選んだのかの理由を書いてください。また今回はチャットボックスに貼らなくていいので、自分の手元で作文するのみで大丈夫です。

 はい、以上で後半のワークショップはこれで終了です。おつかれさまでした。最後にレポートについてお話しします。まず本日の後半では大きく三つ質問をしました。ひとつめは、あなたにとって居心地のいい日常行為というのはなんですか?です。ふたつめは、仮にその行為に関する日記を書くとしたらどんな形で書きますか?です。最後みっつめは、その日記を共有して雑談をしたときに、居心地のいい時間が流れそうな人は誰ですか?です。レポートではこの三つの質問の回答を改めて作文してください。再度考えて今日回答した内容と変わっても問題ありません。最後に今日の授業を受講しての感想を書いてください。レポートに関しては以上です。
 最後に全体のまとめというか種明かし?みたいな話をしたいと思います。まず、今日みなさんに考えてもらった日常の行為ですけれど、ぼくはそれが自分にとっての自然な状態を知ることだったり、そこから自分にとって大切なことをはっきりさせることにつながっていったりするものだと思っています。そしてその行為を守るために日記を書く。その時間を守り続けていくために日記を書く習慣を身に付けてしまう。それで、自分にとっての自然な状態とか大切なことを軸に、それ以外の日常というのを組み立てていく。そして日記を共有してもいい他者というのがいますよね。その人は、おそらくあなたがありのままの状態でいれる数少ない他者です。そういう人を何人か見つけて大切にしてください。自分が自然であること、大切だと思うことを基準に共にいれる人を決める、他者を設定する。それがまずはあなたにとっての小さな社会です。今ある社会に頑張って入っていこう…ということではなくて、むしろ自分でつくっていくっていうのがありのままの自分を守っていくのに重要だと思っています。はい、これで今日の授業は以上です。レポートに関することとか全体に関することでも質問があったらお願いします。

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Keisuke Shimakage

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