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精密機械を狂わせたもの

Mリーグ開幕戦 第1半荘。
起家 小林剛(U-NEXTパイレーツ)
南家 魚谷侑未(セガサミーフェニックス)
西家 園田賢(赤坂ドリブンズ)
北家 萩原聖人(チーム雷電)

出場選手は各チームの采配に委ねられていたが、大方の予想(期待)通り、すべてのチームでドラフト1位の選手が出場。そりゃ開幕戦だからね。
個人的に応援していた小林剛氏と園田賢氏の直接対決、これは燃える。

結果。
1位 園田賢 +62.9pt(42900点)
2位 小林剛 +18.4pt(38400点)
3位 萩原聖人 -23.3pt(16700点)
4位 魚谷侑未 -58pt(2000点)

南1局に親の小林氏が、6000オール⇒9600は9900⇒2000は2200オール⇒5800は6700⇒4000は4400オールと怒涛の連荘を見せ、4本場終了時点で素点はなんと74400点。「仕掛けて手数で勝負」のイメージがある「スーパーデジタル」小林氏らしからぬリーチ攻勢。「手が入りまくっている」としか言いようがない。パブリックビューイングの観客を含め、映像を観ていた誰もが小林氏の圧勝を確信していたことだろう。

しかし南三局。事態は急展開を迎える。26300点持ちで二着目につける親番の園田氏がもらった配牌はこちら。

一三四五八八八④8発発北白 ツモ発 ドラ白

第一ツモで発を暗刻にして三面子が出来上がったうえに、ドラ白を1枚持ち。萬子の混一に進めば安く見積もっても親満、普通に推移すれば跳満から倍満まで見える手だ。第1打は当然の8。

一方、南1局5本場以降で2度の振込みを見せたとはいえ、まだダントツの59100点持ちだった小林氏の配牌がこちら。

3345四67899南白発 ツモ2 ドラ白

こちらも2面子&1両面ターツ&雀頭に加え、使い勝手のいい浮牌「四」。仕掛けは難しいが手は軽い。2着目の親番を和了りで蹴ることを意識して「他家が重ねる前に」と、第1打でドラの白を手放す。自らの手の軽さを考えると、この判断は選択肢の一つとして納得できる。解説の多井プロが「白行った! スーパーデジタル」と口にした一打だ。

そして園田氏は六⇒二と引き入れて五順目にドラの白単騎テンパイ。
ダマで18000点。一二三四五六八八八発発発白 ドラ白

このテンパイで「小林氏のドラ白先切り大正解」と思いきや、2順後の7順目。二枚目の白を引いてツモ切り。18000点の直撃で32800点あった点差が一気に吹き飛び、園田氏がトップ目に立つ。

この振り込みはいたしかたない。あの配牌からドラ白を切るのも非難される判断ではないし、5順目テンパイの時点での園田氏の捨牌は「82④9北」で8④北以外はツモ切りだ。以降はもちろんツモ切り。変則手には見えるものの、まさか、である。
おそらくあと2順後なら小林氏も切り出さなかっただろうし、2順前ならテンパイも入っていない。このタイミングで白を掴んでしまったのは、不運としか言いようがない。

もし、小林氏の戦略がわずかなほころびを見せていたとするならば、それはこの局ではなく、南1局5本場だろう。

この局、小林氏は9順目に次のテンパイを入れ、リーチをかける。

南1局五本場 親番 74400点持ち
五五七七55(赤)6677白白東 ドラ七

この時点で待ち牌の東は二枚切れ。
もちろん他家が向かってこようが降りようが、簡単に止まる牌ではない。
しかし、リーチよるメリットとデメリットを勘案するに、最善手であったか否かは疑問が残る。

たしかに白も場に生牌(魚谷氏が雀頭にしていた)だし、安牌として使える牌が少ない状況なので、親の先制リーチで他家に自由に打たせないメリットの方が大きいと考えたのかもしれない。

とはいえ、これ以上、リーチで素点を積み増しするメリットは(トータルポイント制とはいえ)かなり薄い。逆に、反撃への対応が一切できなくなるデメリットの方が大きいのではないか。

結果、押し切った魚谷氏の追いかけリーチ

三四五(赤)七八④⑤⑥発発発白白

に小林氏が一発で飛び込み、8000点は9500点の振り込みとなる。

「南一局のダントツ」から、ちょっと蚊にさされたような振り込みに見えるかもしれない。何が正しいかは分からない。しかし、小林氏が「リーチ」と発生した瞬間、私は「えっ」と小さく声を出してしまった。

私の目には、勝利に向かって正着を積み重ね続ける精密機械が、ほんのわずかな誤作動を起こしたように見えた。そのバグの元となったのは「Mリーグ開幕戦」という非日常舞台での無意識下の重圧なのか、それともそんな晴れ舞台での望外の大量リードに、わずかながら浮き足立ってしまったのか。

可能なら本人に聞いてみたい。おそらく「当然の選択だ」と理路整然と説明され、私の説などは一笑に付されると思うが。

総じて開幕戦は、どの選手も見事に戦っていた。
たび重なる不運にも平常心を失わず、小林氏に一矢報いたうえに、南場の親番では厳しい配牌を貰いながらも「遠い仕掛け」で他家をけん制し(不発に終わったが)、最後まで諦めずに親権の維持を狙った魚谷氏。

東二局、七対子イーシャンテン、面子手リャンシャンテンで、受けを狭くして残した発を重ねて七対子三萬単騎でリーチをかけ、ラス牌をツモ和了った萩原氏(裏2で3000-6000)。トイツ手の決め打ちが多く、多少、他のプロに比べて打牌(押し)の強さは感じられたが、他の局でも百戦錬磨の対局者たちと堂々と渡り合っていた。

そして最初から最後まで、自分の麻雀を打ち切った園田氏。
東一局から一ポン⇒中バックで和了りきり、オーラスも最序盤の7チー⇒北バックの1300点で締める。いかにも自在型の園田氏らしい打ち筋だった。

他にも見どころは山ほどあったがキリがないので、第1半荘のレビューはこれくらいにしようと思う。
週8局ということは、1日1局強を振り返る形で行けばいいんだね。
開幕戦 第二半荘は今夜上げるかな……。

蛇足かもしれないが、追記。普段、RTDなどを「たまに見る」程度だった私が驚いたのは、解説の多井プロのしゃべりの達者さだ。言いよどむことなく次々と出る軽口の間に、選手たちの思考を推測するしっかりした「解説」もポイントポイントで入れてくる。牌の残り枚数など、常に場況を的確に把握して報告してくれる、実況の方とのコンビネーションも見事だった。

何はともあれ、これまで「プロ野球シーズンが終わった秋以降、どうやって生きていこうか」と途方に暮れる人種だった私にとって、大変な楽しみができたことを嬉しく思う。

13:04追記
小林剛氏がツイッターで呟いていました。

やはり誤作動でもなかったようで(^^;)。
他の部分の疑問手は、東一局の序盤の②残しなどかな?

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