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不登校と中学受験(20)

受験を特別なものにしてはいけない

私立中学に通っていて、不登校になってしまう子ども達の多くに共通の特徴があります。

ひょっとすると、中学受験の子ども達の大半が同じかもしれません。


それは、子ども達が5年生後半くらいから、家では何もかもが勉強を中心にまわっていて、家事や家でゆっくりくつろぐとか、家族団欒みたいなことはしていないのです。

6年生になったら、ほとんどのご家庭が受験だからと、勉強以外のことをさせずに、ただ、勉強だけになってしまう生活を子ども達にさせているのです。


私は、これではうまくいかないと、中学受験でも高校受験でも、まして大学受験でも、ずっと勉強ばかりしているようなことはしてはいけない、といつも子ども達にもご家族にも言っています。


受験を特別なものにしてはいけないのです。



かつて、大阪に「伸学社(通称、入江塾)」という塾がありました。灘中、灘高、東大に合格したいなら、「入江塾」しかないと言われるほど有名な塾でした。

残念ですが、1986年に閉塾してしまっています。入江伸先生もお亡くなりになっています。

塾頭の入江伸先生がお書きになられた本は、当時はたくさん出版されていました。

今、当時のことがわかるのは『伝説の入江塾は、何を教えたか』(2015年、祥伝社)しかありません。
ぜひ、一度、お読みいただきたいと思います。


私は、そんな難しい塾にはとてもいけないと、当時はそれほど大きな塾でもなかった浜学園に通っていました。

ですから、残念ながら、在籍したことはありませんでしたが、私が子どもの時もたいへん有名な塾でした。


「人間7、学力3」これが入江先生の教えでした。



『伝説の入江塾は、何を教えたか』に出てくるあるエピソードがあります。

成績が伸び悩んだ時に、在籍していた子ども達が競ってすることがあるのです。


お読みになった方はお分かりだと思いますが、お読みになったことがない方は、ここで少し考えてみてください。


成績が伸び悩んだ時に何をするか、です。

どうしたら、成績が伸ばせるか、ということです。



「成績が伸び悩んだ時に競ってすること」は何かということですが、答えは、


「便掃」
要するに便所掃除なのです。



この時点で、お読みになっている方の中には、「あり得ない・・・」とお考えになった方が結構な数いらっしゃると思います。


でも、これは、事実なのです。


当時、浜学園に生徒として在籍していた私ですら、この話は有名な話として、浜学園の先生からお聞きしたことは、忘れもしません。

入江塾は灘高・東大の合格者を多数出しているという点からすると、中学受験が中心の今の大手進学塾と立場が異なるかもしれません。

しかし、精神科医の和田秀樹先生が『伝説の入江塾は、何を教えたか』の前書きの中でお書きになっていますが。

「高校受験であれ、大学受験であれ、それは通過点であり、本当に身に付けなければいけないのは、主観的、主体的に考える力であり、社会に生き抜く力だということだろう。」


塾頭であった入江先生は、主観的、主体的に考える力を求めておられたのだろうと、和田秀樹先生はおっしゃっています。



お亡くなりになった京セラ名誉会長の稲盛和夫さんが、いつも「人として正しいことをする」「私心なかりしか」とお考えになっていたことは、よく知られているところです。


私は入江先生が行っていたことは、稲盛会長がおっしゃっていたことと通じる部分があると思っています。


今の中学受験の大手進学塾は、


とにかく合格することが重要である
そのためには、どうやって問題を解くかが重要である


このことしか、教えていないのです。


ですから、他人を蹴落としても勝てばいい、自分の子どもさえ良ければいい、と子どももご家族もなっているように思えてなりません。


入試なのだから当然だと言われるかもしれません。

人として、他人を蹴落として良いかと言われて、良いと言う方はほとんどいらっしゃらないと思います。


しかし、中学受験になると、事情が変わるのです。

効率だけを追い求め、少しでも楽に成績を上げ、合格を勝ち取るか、だけを追い求めているように思います。


その結果、子ども達が歪んでいき、打たれ弱くなり、不合格になる、合格後にうまくいかなくなるということが多々出てくるのです。


このことは、今の大手進学塾はわかっているはずですが、説明もせず、知らん顔を決めています。


学校教育は徹底的に批判されることが多いのですが、中学受験塾だけでなく塾全体が、以前に比べて批判されるよりは、どこかで容認されているように思えてなりません。


これだけ大きな産業に成長したのです。

それだけ社会に与える影響も大きいのです。


だからこそ、大手塾が率先して、稲盛会長がおっしゃって来られたような「人として正しいことをする」ことを子ども達に伝えてほしいと思うのです。



私は自分自身が良い人間などと思ってはいません。
正直、ろくでもない人間です。

お世話になった先生方に、恩を仇で返してきた、と言われても仕方がないと思っています。

ですから、私が言うのはおこがましいことは、百も承知です。



それでも、今の中学受験の大手進学塾が、入江塾のように「人間7、学力3」とは言いませんが、もう少し「人としていかにあるべきか」ということを、子ども達に伝えてほしいなと思います。


よろしければ、ぜひサポートをお願いしたいと思います。