見出し画像

公認会計士が独立後、軌道に乗るまで

公認会計士が独立し、いち早く自分の事務所を軌道に乗せるためには何をすればよいか。独立する前や、独立した直後は会計士の誰もが思い悩むことです。

どうしても初めは、「なんでもやります!」となってしまいがちですが、独立している会計士は多く、特徴や強みを持たなければ多数の中に埋もれてしまいます。

そこで、独立直後から明確に戦略を持つことで、自分の理想とする独立会計士像に近づくよう動いていくことをお勧めします。

独立直後の動きとしては大まかに分けて、以下の4通りがあります。

1.得意分野の仕事を行う

まず初めに、多くの独立会計士が考えることでもありますが、過去の自分の実績を振り返り、得意分野を生かしたサービスを行うという戦略が挙げられます。

例えばデューデリジェンス(DD)業務、内部統制の構築支援、IPO支援などです。

監査法人を退職した後、多くの方がそれらのコンサルティングを行ってる会社へ転職します。そこで培った知識・経験を独立後もそのまま活かすということです。

自分が今までやってきた仕事と基本的には同じなので、顧客を獲得できれば即収益化も可能です。また、ある程度実績があれば、以前所属していた監査法人やコンサルティング会社などから顧客を引き継ぐことも期待できます。
もちろん、以前の会社との軋轢は避けた方がよいですが。

ただし、顧客の引き継ぎができた場合はよいのですが、うまく引き継げなければ当然に一から顧客を獲得しなければなりません。特に上記の業務の顧客は、上場企業やある程度の規模の会社であることが想定されます。そのような会社を独立したすぐに顧客として持つことは、もともとのコネがある場合は別としてなかなか困難です。

よって、自分の得意分野のみにこだわるということには慎重になった方がよいでしょう。

2.中小・零細企業の税務を行う


これは、比較的多い独立直後のパターンではないでしょうか。税理士登録を行い、中小・零細企業の税務顧問や確定申告書の作成業務を行うというものです。私も独立直後はこのパターンでした。

1.のように独立した直後にある程度の規模の会社を顧客に持つということは難しい場合もありますが、中小・零細企業については独立したばかりの公認会計士、税理士でも顧客にすることが十分に可能です。というのも、中小・零細企業は資金的に余裕がないことがほとんどで、報酬が高い大手の税理士事務所に税務を依頼することは少ないためです。また、中小・零細企業の数は数百万程度あり、市場規模としても大きいです。多くの法人では設立前後に税理士と顧問契約を結びます。

独立後、SNSで「税理士業務を行います」などと知り合いに発信すれば、そこそこの確率で依頼が見込めます。直接つながりのある人からの依頼もあれば、直接つながりのある人からの紹介もあり得ます。コロナ禍で一時的に落ち着いてはいますが、相変わらず起業ブームは続いているので、数多くの知り合いに宣言すれば依頼が全くないということもないでしょう。

ただし、税務はいわゆる「薄利多売」の仕事。設立したばかりの小規模会社の顧問だと、年間報酬が20万円に満たないことも多く、少なくとも数十社はこなさないと自分一人でも食べていくことは難しいです。よって、税務だけで軌道に乗せるためには時間がかかることも多く、営業努力が欠かせません。

ただし、コツコツ営業活動や、日々の仕事に邁進していると、既存の顧客がさらに顧客を紹介してくれることも多いです。紹介の連鎖が生まれれば、短期間で顧客が数十社増えるということもよくあります。また、税務は薄利多売とはいえ、一度顧問契約を結べば毎月顧問料収入があり、安定しています。

今後税理士の仕事はAIにとって代わるという意見も多いですが、しばらくは独立後税務を行うというのは王道と言っていいでしょう。

3.とりあえずアルバイトをする


これは独立当初の会計士に多いパターンです。私も独立当初は税務とアルバイトを両方行っていました。

会計士のアルバイトは、監査責任者として監査報告書にサインをするということはほとんどなく、そのためリスクはありません。監査補助者として監査責任者などから仕事を振られ、それをこなすだけでよいのです。自分の顧客を獲得するまで自由に続けることもできます。よって、独立当初の食いつなぎには最適だと思います。

具体的には、中小規模の監査法人に多いのですが、繁忙期のみ監査補助者として仕事を行わせてもらい、日当などの形で報酬をもらいます。中小監査法人側も、常勤スタッフとして抱えるのは人件費負担が重いと考える一方で、繁忙期には人手が足りないという場合も多く、監査法人、会計士共にWin-Winということです。中小監査法人でなくとも、会計コンサルティング会社なども、非常勤スタッフを抱えているケースは多いです。感覚としては、中小監査法人の監査のアルバイトよりも、会計コンサルティング会社のアルバイトの方が単価は良いです。

その他、会計士受験の専門学校の非常勤講師や事業会社の経理・連結決算の補助業務の委託を受ける会計士も多いです。上場会社も慢性的に経理人員が不足しているところは多く、四半期ごとの決算だけでも手伝ってほしいと考えている会社は多いようです。

会計士のアルバイトは結構割がよく、時給でいうと安くて5千円、高いと2万円以上の場合もあります。そのため、アルバイトを週4~5回やると独立前よりも収入が増えることもあります。現に私がそうでした。この辺りが会計士の恵まれているところで、独立して自分の顧客が獲得できなくても「食いっぱぐれ」はほとんどないと考えてよいでしょう。

ただし、このような恵まれた環境に浸かってしまい、独立したのにアルバイトだけになってしまう会計士もいます。そのような働き方は個人の自由であり、私も非難するつもりはありませんが、「自分の事務所を立ち上げて大きくしていきたい!」という野望を抱いて独立して、結果的にアルバイトばかりというのは虚しいでしょう。

さらに、アルバイトや業務委託という立場は不安定です。基本的には長くて1年契約であり、「来年は来なくていいですよ」と言われてしまえば、途端に稼ぎがなくなることになります。ある程度アルバイト先を確保すれば、一気に仕事がなくなるというリスクは低いですが、それでも常勤社員として働いているよりは不安定な立場です。

そこで、アルバイトをやりながら自分でも顧客開拓を進めて、徐々にアルバイトを減らしていくという方法が望ましいといえます。もちろんアルバイト先には迷惑がかかってしまう可能性もありますが、急に仕事を減らしたりしなければ大きな迷惑にはならないはずです。会計士側も不安定な立場に置かれているのですから、お互い様でしょう。晴れて、自分の顧客だけで食べることができるようになった暁には、アルバイトにお別れを告げればよいのです。

アルバイトをやっていると、どうしても勤め人という意識が出てしまい、SNSなどでも自由に発言したりということを躊躇してしまいがちです。よって、自分の顧客だけで生活できる収入を確保できたのであれば、いち早くアルバイトを辞めて、本当の意味での独立をするべきです。

4.ニッチな分野を攻める


最後にやや番外編のパターン。
あまり他の会計士が行っていないような業務を行うことにより、継続的に仕事を受注するというケースもあります。例えば以下のような業務です。
・会計システム構築支援、システム監査
・フォレンジック業務
・無形資産の評価業務(PPA)
など。

ニッチな分野であるため、会計士でもできる人・やっている人が少なく、それだけで差別化を図ることができます。また、できる人・やっている人が少ないということは、受注できた場合は高単価が期待できます。さらに、「〇〇業務といえば〇〇さん」、というように明確なブランディングにもつながります。

ただし、ニッチ分野であるため頻繁には受注につながらない、情報が少ないなどのデメリットがあります。よって、軌道に乗せるまでには長期間かかることもあります。また、ニッチな分野であるため将来的にもニーズがある分野とも限らないということもいえます。ニーズの消滅と共に受注件数も消滅というリスクをはらんでいます。

あまり営業活動が得意でない・やりたくないという職人気質の会計士に向いているパターンかといえます。

以上が私の過去の経験や、周りの知人会計士がやってきたことを踏まえた独立直後の働き方です。
どのような働き方や、自分の事務所の戦略を選択するかは人それぞれです。自分にあった方法を見つけていただければと思います。

重要なのは、一時の感情やニーズに流されず、自分の強みを構築することに注力するということ。また、独立後はやるもやらないも自分次第ですので、モチベーションが続く仕事を選択するのが長期的に見てよいでしょう。

以上、独立直前・直後の会計士の方に少しでも参考になれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?