マクドナルドの「冒険のホットストロベリーパイ」がマーケティング的に凄いと思ったポイント3つ

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今日の昼に会社の近くを歩いていたら、マクドナルドの店頭ポスターが目に入りました。

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(画像引用元:http://www.mcdonalds.co.jp/campaign/hotapplepie/)

これを見た瞬間に「ぐわっ!やられた!」と思いました。

別に勝負しているわけでも何でもないのですが、マーケティングに携わっている身からすると、
マーケティング的に優れたものを見せつけられると反応してしまうわけですね。

「やられた」と思った理由は、別にクリエイティブがすごいと思ったとか、美味しそうだとかいう理由ではありません(良いクリエイティブだし美味しそうと思いますが)。

せっかくなので、この事例がマーケティング的に優れていると思った理由について書いていきたいと思います。

※以下の内容はマーケティング思考のトレーニングとして書いているものであり、実際の施策の成否についてはわかりません。真に受けてマクドナルド株を購入して万一失敗したとしても自己責任ということで…

【優れていると思った理由①:成功体験の再生産】

まず最初にいいと思ったのは、これが「チキンタルタ」の成功体験を土台にしていることがすぐに想像できたためです。

※チキンタルタの記事はこちら
こってり~!!マクドナルドに「チキンタルタ」“タツタ”じゃない!?

チキンタルタの事例については、以下の本の中でも解説してくれています。
この本はめちゃくちゃ良い実例が沢山載っているので、マーケティングやる人には必読書ではないでしょうか。

上記の本の中でも説明されていますが、チキンタルタの事例についてはおおよそ以下のように説明されています(一部独自解釈あり)

■チキンタルタの成功体験
・根強い人気の「チキンタツタ」の再販売にあわせ、従来製品では取り込めていなかった”ガッツリした味を好む人”を取り込む製品を同時販売
・対立構造を作ることによって話題化
・語感が良く覚えやすいネーミング

で、今回のストロベリーパイについてですが、

■ホットストロベリーパイにおける成功体験の再生産ポイント
・定番商品の人気に乗っかるという同様の設計
・同様に対立構造を作ることによって話題化
・ネーミングを商品ではなく「安定」「冒険」にして、覚えやすさのポイントを変えた

こういうことだと思います。

「なんだ、焼き直しじゃないか」と思う人もいるかもしれませんが、事業を考える上では”確実に成功しそうな施策”というのは非常に貴重です。
毎回のプロモーションのたびに成功するかわからないリスクを負うというのは非効率的なので、こういう成功フォーマットがあるのは経営的にも非常に助かると思います。

それに、上記を見ればわかるように、ネーミングの部分など変更された部分もあります。
ちょっとした変更のように見えても、全体に及ぼす影響は大きいので、同じように見えても整合性を取るためにはかなりの議論があったのではないかと想像します。

そんなわけで、そもそも上手くいった施策の構造を使って施策の再生産をしているところが良いなと思った次第です。

しかし、「安定」と「冒険」というワード選定も上手いですよね。

【優れていると思った理由②:明確な勝ち筋~クロスセル】

次にいいなと思ったのは、「クロスセル促進という事業上の明確な勝ち筋がある」という部分です。

どういうことかというと、この施策、”仮にホットストロベリーパイが人気が出なくても成功する可能性が高いであろう理由”があるのです。

最初に紹介したようなポスターを見たとき、マーケティングに慣れていない人だと「いやいや、ホットのイチゴはさすがに食べないわ」と思うこともあるかもしれません。
ひょっとすると、本当に商品としてハズレになる可能性はあるかもしれないとは思います(僕は良いと思いつつも)。

が、このプロモーションはホットアップルパイという定番商品を一緒に訴求しており、そちらもかなり印象に残るクリエイティブになっています。
ということは、仮にホットストロベリーパイの「冒険」をする人が少なかったとしても、「安定」のホットアップルパイは売上増加する可能性は高いのではないかと思います。

心理学のテクニックでも、こういう「AかBかどちらにする?」という聞き方をすることで、他の選択肢を排除してついAとBだけで考えるように仕向ける(=どちらかを買うことは前提として決まっている状態にする)というテクニックがあり、テッパンの訴求になっています。
※二者択一法とか選択話法とか呼ばれるもの

つまり、このプロモーションの目的が「ホットストロベリーパイという新商品の売上」ではなく、「クロスセル向上による顧客単価の向上」というふうにとらえると、
かなりの確率で成功し、売上増加につながるのではないかと思った次第です。

飲食や小売のマーケティングでは、つい新商品を売るために頭を使いがちかなと思いますが、
この施策は「新商品が売れても売れなくても全体の売上は上がる」という二段構えになっているところが素晴らしいと思った次第です。

もちろんホットストロベリーパイが売れるなら、それに越したことはない大成功でしょう。単価も120円と、地味に20円高いですし。

なお、この手法はどんな商品でも成立するわけではありません。
そもそも人気のない商品であれば、二者択一にしたからといってさすがに買おうとは思いませんよね。

おそらくですが、ホットアップルパイは「リピート購入率」がかなり高い部類の商品なのではないでしょうか。
リピート購入率とは、一度買った人が、その後にまた購入する率のことです。
定番と言われる商品は、この数字が他商品に比べて高いものが多いです。

そのため、すでに購入経験がある顧客からすると、この広告を見たときに「せっかくだし買ってみよう」というハードルが低いと思われます。
そういう商品を選定しているところも、この施策が上手くいくに違いないと考えている理由です。

これが元々あまり売れていない商品だったら成立しないでしょうし、新商品を2つ並べても成功するのは難しいと思います。
そのあたりも上手く設計されてるなあと思う次第です。

【優れていると思った理由③:経営状況とのマッチ】

最後に良いと思ったのは、「経営状況とマッチした施策」であろうという点です。

以下は日本マクドナルドの決算説明会資料から引用した表です。

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(引用元:https://ircms.irstreet.com/contents/data_file.php?template=1547&brand=74&data=268450&filename=pdf_file1.pdf)

既存店売上が50か月連続増加ってマジかよ・・・というのもすごいなと思うのですが、ここで見ておきたいのは「売上高」と「客数」の前年比です。

・既存店売上高前年対比:+4.5%
・既存店客数前年対比:+2.4%

売上高の伸びが客数の伸びよりも多くなっています。

ということはつまり、客数よりも客単価をより伸ばすことで、売上を向上させているということになります。
※100円コーヒーとかで低単価訴求のTVCMやっているのに客単価が伸びているって、けっこう驚愕すべきことじゃないかと思うのですが…

これ、前項の考察に書いた「クロスセル向上による顧客単価の向上」という話と符合する話じゃないかと思います。

実際のところ飲食業において、客数を増やすというのはかなり大変なことです。
ある程度まで客数が増えたら、次は客単価向上にいくというのは自然な話かと思います。

推察するに、過去にあった鶏肉偽装問題などのダメージから客足を戻した結果、経営上の課題が「客単価」のほうにシフトしているのではないかなと思います。

そういった経営の課題にヒットするプロモーションである(と思われる)ということが、良いと思った理由です。

簡単な話のように聞こえますが、そもそもクロスセルを促進するというのは簡単なことではありません。
ただでさえセットメニュー販売やクーポンなど、様々な手法でクロスセルを促進している中で、プロモーションからクロスセルをするというのは難易度の高い話です。

それをしっかり一貫して実現できる施策であり、かつ新商品の売上に依存せずにクロスセルを狙えるという設計は、「やられた!」と思うのも然りではないでしょうか。

あたかも内情を知っているかのように書いてますが、これすべて推察であり考察だということにはご注意ください。

なお客単価については、デリバリーやUber Eatsなどの浸透による注文あたり単価の上昇の影響もあるかもしれませんが、
全体に与える影響は現時点だとまだ軽微だろうと思い、考察からは外しています。

【まとめ】

今回のホットストロベリーパイにまつわる施策がいかに優れているかをまとめると

①成功体験の再生産であり、成功確率が高い
②新商品の売上に依存しない、二段構えである
③経営状況にマッチした、経営課題に直接ヒットする施策である

という3点になります。

繰り返しになりますが、あくまでマーケティングの思考トレーニングとして考察した内容なので、当事者の方が見たら誤っている部分もあるかもしれません。

ただ、こういう形で思考トレーニングすることは、マーケティング力を高めるうえで非常に大事な筋トレになると思います。
実際の結果が出た際に答え合わせをすることで、考察の精度はより高まっていきます。

図らずも前回のメルカリの戦略の考察の記事に続いて、二連続で考察記事を書くことになりました。
完全にPV数の違いに味を占めている形ですね。

今後も適宜、こういった考察は続けていきたいと思います。

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