【レビュー】行政デジタル化の入門手順書

『こうすればうまくいく 行政のデジタル化』
石井大地、ぎょうせい、2020年12月

本書は「行政のデジタル化」というタイトルですが、国や中央省庁というよりも、地方自治体など住民への直接サービスを行っている組織におけるデジタル化の入門書・指南本という面が強いように思いました。

2020年12月25日に、「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」が総務省から出され、地方自治体におけるDX・デジタル化の推進は、国からも民間企業や住民からも求められており、待ったなしの状態になっています。

本書では、デジタル化プロジェクトの進め方が分かりやすく書かれており、小規模サービスから大規模システムの導入まで使える、大まかなプロジェクト進行・管理手順が理解できます。

実際に個別プロジェクトを進める際には、ここに記載されている手順をすべて実施しなければならないわけではないですし、ここに記載されている以外の調整や交渉事なども発生してくると思いますが、よくある落とし穴など、実際に起こりやすい疑問点やトラブル等にも言及されており、とてもよくまとまっていると思います。

私自身は、過去に中央省庁や地方自治体でコンサルの立場(本書でも名前が挙がっていたコンサルティング企業の一員)でシステム導入に関わったことがあるので、その立場で読んでしまいましたが、発注者側としてはパートナー選びが本当に大事だと思います。
著者の石井氏がグラファーというスタートアップ企業の代表の方なので、スタートアップ企業寄りの内容になっていますが、スタートアップ企業も数が多く有象無象であるために、中には資金財務面での継続性や、サービス品質面等での不安などデメリットがある企業もあります。そのような場合には、コンサル会社を使って市場調査を行い、スタートアップ企業を含めた各社サービスの比較検討が必要になる場合もあります。
また、自治体や、民間企業も大手企業だと人事異動があるので、せっかくパートナーとして信頼関係を構築したところで人事異動が発生し、また一から信頼関係を構築したり、信頼関係が崩れてしまって修復不可能になってしまう場合もあります。そのような場合でも、コンサル会社が間に入ることで、リスクを軽減できることもあるので、パートナーとしてのコンサル会社の活用方法は多岐に渡ります。
コンサル会社を使わずとも、信頼できるパートナー企業を見つけることができれば最善ですが、なかなかスムーズにはいかないのが現状では現実だと思います。
2021年9月に発足予定のデジタル庁では、市町村のCIO補佐官等の外部人材任用等の支援や、プロパー職員の育成など、人材確保支援にも力を入れるようなので、制度ができてくると、また違った形になってくるのかもしれません。

本書の内容に戻ると、基本的なところは押さえられており、入門的なところでは十分なものの、もう少しBPRや業務の視点があるとよいように思いました。

特に地方自治体は基幹系システム17業務の標準化を「25年度末までに統一」という話が降って湧いてきたところで、「標準化」の中身が明らかでない中でもBPRを進めなければならず、国の「業務・システム最適化計画」の失敗を繰り返さないように早急に検討を進めなければなりません。

発注者側のガバナンス、BPRを含めた仕様の作成、ステークホルダーの協力体制など、当たり前のことですが、プロジェクト現場に入り込むとなかなか問題が見えにくくなってしまうことがあります。
その時に、本書に記載されているような基本的なデジタル化手順に関する知識があるのとないのでは、大きな違いが出てきます。

「DX」や「GovTech」という言葉をバズワードで終わらせずに、具体的な行政サービスに落とし込み実現していくために、参考となる一冊です。

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