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【本要約】キーエンス~驚異的な業績を生み続ける経営哲学

本記事は『キーエンス~驚異的な業績を生み続ける経営哲学』(東洋経済新報社)の要約・解説の記事です。キーエンスはセンサー機器を中心とした製造販売会社です。日本一年収が高い企業として有名ですが、高年収の理由は異常なまでに高い利益率にあります。センサー会社は他にもあるのに、なぜキーエンスだけが高利益率を維持できるのか。そこには、全企業が見習うべき商売の基本が詰まっています。


キーエンスは何をやっている会社なのか

「30代で家が立ち、40代で墓が立つ」とも言われ、その年収は年々上昇し今では平均年収が2000万円を超えるという高給企業として知られていますが、キーエンスとはどういう会社なのでしょうか。

その知名度と裏腹に何をやっている会社なのかは、実のところあまり知られていません。法人を相手にするいわゆるBtoB企業のため、キーエンスの製品を利用したことがない人が大半のためです。改めて調べてみると、キーエンスは主に製造業界を相手にセンサーや制御機器など、生産現場の効率化を測るための電子機器・技術を製造販売する企業のようです。

製造業向けということは一貫していますが、扱う製品が多岐にわたるため、競合相手も幅広く、オムロンやファナックなど、いずれも優良企業が競合相手となります。

では、なぜ、これらの優良企業である競合と比ベても、キーエンスは圧倒的に年収が高いのでしょうか。その謎を解き明かしてくれるのが本書です。結論、キーエンスの年収が高い理由は以下です。

企業として圧倒的に「儲ける」ことができているから。

身も蓋もないですが、これが真実のようです。キーエンスは年収の高さと同時に、非常に利益率の高い企業として知られています。企業が儲けているから、そこで働く従業員の年収も上げることができるという、非常にシンプルな理由がそこにはあります。では、なぜ、競合に比べて、キーエンスは儲けることができているのでしょうか。本書から「儲けの源泉」となるポイントを3つに絞って、紹介します。

ポイント①:企業理念

「最小の資本と人で最大の付加価値をあげる」

冒頭に記載した一文は創業者である滝崎武光氏の経営哲学で、キーエンスの企業理念でもあります。安く作って(最小の資本と人で)高く売る(最大の付加価値をあげる)という商売の基本が企業理念として掲げられています。よくある日本企業の理念は社会貢献を標榜することが多く、ここまで儲けることを是とする理念は珍しいといえます。

しかし、滝崎氏は利益を生み出すことこそ、社会貢献であると考えています。なぜなら、利益が生まれているということは誰かの問題解決に繋がり価値が生まれているということだからです。さらに、生み出された利益によって、あらゆる可能性を生み出すことができるというのが滝崎氏の主張です。(実際キーエンス財団という学生支援の団体を創設)

そして、重要なのはこの企業理念が社員やビジネスの仕組みの隅々まで浸透していて、企業のDNAとして深く刻み込まれていることです。このことがキーエンスという高利益企業を生み出す基盤となっています。企業理念が浸透しているからこそ、「付加価値を生み出すために考えろ」という企業文化が根付いており、社員の行動様式となっています。

一例を挙げると、商品開発において、粗利が80%以下になる商品については、もっと顧客の役に立つものを考えるか、資源やコストを最小限に抑えることができないかが求められます。「利益を出す」というシンプルなKPIを設けることで、社員の創造性をかき立てているのです。

ポイント②:「顕在化していないニーズ」を発掘する

付加価値=商品価値-コスト
商品価値=顧客の役立ち度×希少性

上記は付加価値を定式化したものですが、キーエンスでは、とりわけ商品価値が他の企業を圧倒しています。商品価値を生み出すには2つのアプローチがあります。

①技術が革新的なため、競合には開発ができない
②競合だけでなく、顧客さえも気づかない潜在ニーズを満たす商品

キーエンスは、特に潜在ニーズを満たす商品開発が抜群に優れています。顕在化しているニーズは競合も開発し、機能やスペックがコモデティ化することで価格競争になりますが、誰も気づいていない商品なら価格競争に巻き込まれないため、高粗利に繋がるのです。そして、真にそれが顧客にとって役に立つ商品なら相場や製造コストではなく、顧客からの評価が製品の価格となり、高い利益をもたらすことができます。

では、なぜ、キーエンスは「顧客すらも気づかない顕在化していないニーズ」を見つけることができるのでしょうか。
それは「顧客を徹底的に知ること」にシステマイズされた顧客アプローチににあります。営業が徹底的に顧客を知り、クライアントの相談役になることでさらに顧客に深く入っていくことができます。具体的なステップは以下です。

①クライアントの困りごとをとことん聞く
②本気の解決策を提案する
③解決策を持ってきてくれるから顧客はさらに業務について話す
④顧客の本音まで引き出すことで潜在的なニーズにリーチができる

当然、このステップそれぞれに対して、さらに細かい方法論が確立されています。

例えば、顧客のオペレーションをわかりやすく解説した独自の教科書が社内で共有されており、新任でもオペレーションを理解した上で会話ができるようになっています。
また、独自の顧客データベースでは、顧客担当者の役職や職種、過去の打ち合わせ履歴などが詳細に記憶されており、その担当者が何を気にしている人なのかを事前に把握した上で、商談に挑むことができるようになっています。
商談では、その場で分かることは説明し、正確に答えられないものは持ち帰って、後日、図式化した簡単な提案書をFAXで送り、次回の商談では他社事例や他社との比較などを用意することで説明の解像度を上げるなど、属人的なスキルに頼らない、誰でもできるが価値のある行動が徹底されています。

これらはやった方がいいと感じている、もしくは実際に一部やっている企業はあると思いますが、ここまで徹底してやっている企業はそう多くないと思います。こういう細かいオペレーションの積み重ねがキーエンスの企業として圧倒的な優位性を築いているのです。

ポイント③:徹底的に利益を考えるための仕組み

ポイントの3つ目として、キーエンスで実際に取り組んでいる「利益を考えるための仕組み」について解説したいと思いますが、そこには一種の狂気すら感じる徹底ぶりが垣間見えます。

仕組み①:月次営業利益を社内に公表

キーエンスでは、毎月社員全員が生み出した営業利益が社内で公表されています。その理由は、生み出した付加価値の大きさを確認することで、事業部・個人レベルで原因分析、改善するためにあります。
そして、もう一つの理由は、対価を明確にすることで透明性とモチベーションの向上が狙えるからです。業績賞与の原資は営業利益が捻出されています。日本の多くの企業は、業績賞与は支払われる直前で金額を知ることが多く、その算出ロジックはブラックボックスになりがちですが、キーエンスではこれらを開示することで成果=報酬を明確にし、モチベーション向上に繋げているのです。

仕組み②:時間チャージ

時間チャージとは、「各社員が1時間あたりに創出すべき付加価値額」のことです。キーエンスでは、全社員にこの時間チャージという考え方が適用されています。それぞれの時間チャージは、計画粗利額を全社員の総就業時間で割り、役職によって調整されることで決められています。

この仕組みのポイントは付加価値への感度を上げること、時間への意識を高めることです。時間チャージ以上の成果を出すためには、付加価値の絶対額を増やすか、費やす時間を削減するかのどちらかを迫られます。
時間チャージを管理するため、具体的には、外出する際は1分単位で行動を管理することを求められたり、資料作成にかかった時間を記録し報告することが求められています。そして、行動のクオリティの評価はもちろん、そこにかけた時間も加味して最終的な評価がなされています。

仕組み③:四半期に一度の成果確認会

キーエンスでは四半期に一度、成果確認会を行なわれています。このこと自体は珍しくないですが、その評価方法は独自性(○○さんでないとできない理由)と貢献(利益)度合いの分析によって評価されます。ただ、利益を出しただけではダメで、そこにオリジナリティが求められる点が他の企業との大きな違いです。社員全員に独自性を求めることで、結果的に会社の独自性に繋がっているのだと本書では分析されています。

他にも、さまざまな仕組みによって、キーエンスは「利益を出すこと」に対して、徹底したマインドと行動が求められます。その徹底ぶりがキーエンスを最強の高粗利企業にしているのでしょう。

まとめ

今回は、1社に焦点をあてることでビジネスのヒントを得ることができる一橋ビジネスレビューから『キーエンス~驚異的な業績を生み続ける経営哲学』について要約、解説して参りました。

本書ではとにかく、キーエンスの利益に対する首尾一貫した徹底ぶりを知ることができますが、どれも分解すると難しいことをやっているわけではないと思いました。ただ、それらを統合して徹底する、そしてそれらは人の意思や個人の能力といった次元で成し遂げるのではなく、システムが稼働する状態を作る、このことにキーエンスの企業としての強さや創業者の滝崎氏のセンスがあると感じました。

Amazon創業者のジェフベソスは「Good intention doesn’t work, only mechanism works!(善意は役に立たない。仕組みだけが役に立つ)」をモットーにしていたと言われていますが、現代で本当に強い企業というのはこの辺りのシステム思考が徹底されている企業が多いと思います。特に、現代は人材の流動性も高くなっており、属人化している企業は組織としての脆弱性が露わになってきています。このあたりは自戒も込めて、自分自身のチーム作りなどに活かしていきたいです。

本書ではその他にも、商品開発における考え方やプライシングの考え方なども紹介されており、そこまでボリュームのある本ではありませんが、非常に参考になる内容でした。ご興味のある方はご一読ください。

今回の記事は以上になります。
ご一読いただき、ありがとうございました。

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