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「データ×経済学」が可能性を広げる(経セミ2021年4・5月号の紹介)

『経済セミナー』2021年4・5月号の特集は、「経済学でデータを活かす」です! と言われても、データと経済学の結びつきは昔から強かったよね? なんで今さらなぜそんな特集を?? と思われる方も少なくないかもしれません。

では、なぜ今、データと経済学を組み合わせた特集なのでしょうか?

それは、使えるかもしれないデータが、種類も量も爆発的に増えているからです。そして、データ爆発にともない「データをどう集め、どう見るべきか」をガイドしてくれる役割を担う、経済学という「思考の型」の重要性も増していると考えているためです。

本号では、特集を通じてそんなテーマでお送りしていますが、このnoteではその模様を少しだけお伝えします。

経セミe-book no.28「経済学でデータを活かす(電子版)としても発売!(税込550円。Kindleプリントレプリカ版。特集部分のみをバインドしています。2021年4月28日発売)

■「データ×経済学」の可能性

まず、特集のラインナップは以下のようになっています。

【鼎談】「データ×経済学」の可能性……宮川大介×久慈未穂×柳岡優希
データと経済学の近未来像……北村行伸
HOW TO USE 人流データ……水野貴之
ニュースで読み解くマクロ経済:テキストデータを用いた分析方法……新谷元嗣・五島圭一
行政データで明らかにする教育の効果……田中隆一
データでみる賃金格差とその要因……勇上和史

巻頭の鼎談では、データに携わるお二人の実務家と研究者という組み合わせでお送りします。

一橋大学の宮川大介先生は、企業との共同研究にも非常に積極的に取り組んでおり、特許も複数取得されています。また、2020年8月に設立された学術研究の成果に基づく経済コンサルティングサービスを提供する「東京大学エコノミックコンサルティング」で、チーフエコノミストも務めておられます。

久慈未穂さんは現在、日本経済新聞社デジタル事業情報サービスユニット担当部長。同社入社以来、一貫してデータ・ビジネス事業に携わってこられ、企業情報、記事データ、POSデータなど各種データベース事業を担当されています。特にPOSデータ分析を専門とされ大学での講義等も行われており、現在はオルタナティブデータの普及とともに国内外に事業展開にも従事されています。

柳岡優希さんは現在、東京商工リサーチ経営企画室リーダー。同社で信用調査業務を担当され、現在は経営計画の立案・推進等やビッグデータ分析のプロジェクトも担当されています。また、業務のかたわら一橋大学ビジネススクールを修了され、学術機関や民間事業会社との共同研究にも取り組んでおられます。


この三名のデータのエキスパートが、現在どのようなデータに注目が集まっているのか? 実際にどんなデータ活用事例があるのか? データに秘められた力をより発揮させるためにどうすべきか? そのために経済学はどう使えるのか? といった内容をテーマにじっくりとディスカッションしていきます。

また、データ分析を仕事にするために何が必要か、どのようにキャリアに役立つのか、どんな人材を求めているか、といったテーマでもお話しいただきました。具体的には、以下のような構成でお話が進んでいきます。

1 はじめに(自己紹介から)
2 コロナ禍で注目を集めるデータ
3 データにどう向き合い、活用するか
4 データは組み合わせで価値を生む
5 「データ×経済学」で広がる可能性
6 データ分析を仕事にするために

「データと経済学」の組み合わせが価値を生む、というテーマですが、この鼎談では「実務家と研究者」の有機的な結びつきが価値を生むという姿も実感できるのではないかと思います。

なお、鼎談の模様を少しだけ、以下のサイトでご覧いただくことができます!

■新しいデータをフル活用する!

鼎談に続き、さまざまなデータの活用事例とその威力、一方で注意しなければならないことを解説する記事が満載です。

まずは、立正大学データサイエンス学部の北村行伸先生による「データと経済学の近未来像」です。

ここでは、デジタル化された人々の行動や交流、取引などなどのデータ=ソーシャルデータにどのように向き合うべきを、実例とともに解説します。一方で政府が蓄積する行政データの可能性についても言及し、それらをうまく活用していくために経済学に何ができるのか、というビッグピクチャーを描きます。

国立情報学研究所の水野貴之先生は、「HOW TO USE人流データ」と題して、コロナ禍で毎日大変な注目を集めている人流、人出を測定するための携帯電話位置情報などのデータの活用と、その留意点について詳細に解説します。プライバシーや個人情報保護の問題から加工の難しさから、「ステイ・ホーム指数」という水野先生たちのご研究に基づく定量化の方法を紹介します。なお、この研究成果は水野先生研究室のホームページ内にある「COVID-19特設サイト:外出の自粛率の見える化」でも見やすいグラフとともに確認することができますので、ぜひご覧ください!

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次は、東京大学の新谷元嗣先生、早稲田大学の五島圭一先生による「ニュースで読み解くマクロ経済:テキストデータを用いた分析方法」です。ここではなんと、新聞記事や「景気ウォッチャー調査」などの政府の公表文書などといった文字情報、テキストデータを活用したマクロ経済分析の事例と、その分析手法の仕組みを紹介します。経済学の学術雑誌においても、最近はテキストデータ分析を用いた研究が増えているそうです。コンピュータサイエンス等の分析手法を取り入れ発展していく経済学の姿を感じていただくことができるのではないかと思います!

■行政が保有するデータから読み解く!

続いて、行政の業務の過程で蓄積されていくデータや、伝統的な統計調査データを活用した分析例と、そのデータの特徴などを解説します。

1つめは、東京大学の田中隆一先生による「行政データで明らかにする教育の効果」です。行政データとは、「国や地方自治体といった行政組織が日常の業務を遂行する上で収集するデータのこと」です。納税や社会保険料の払い込みに関する記録、住民票の情報、医療保険の情報などなど、多岐にわたります。ここでは中でも、田中先生たちが実際に推進された足立区の学力調査などの記録が蓄積された教育行政データベースを活用し、教育の効果を測定した結果とともに、行政データが実証分析の可能性をどのように広げるか、メリットや、一方でデメリットはどんなところにあるのかを詳しく解説します。

なお、田中先生たちのご研究は『フィナンシャル・レビュー』2019年第6号「<特集>教育政策の実証分析」にまとめられています!


もう1つは、神戸大学の勇上和史先生による「データでみる賃金格差とその要因」です。ここでは、伝統的な政府統計(賃金構造基本統計調査)を活用して、賃金格差がなぜ生じるのか? そのメカニズムに迫る分析事例を紹介します。キーになるのは、労働市場の二極化、労働者のスキルです。まず、長期間にわたる賃金の変化を政府統計に基づいて描くことで、賃金格差がどのように推移しているのか、その動向を描きます。そのうえで、「なぜそのような格差が生じているのか?」という問いに答えるべく、さまざまな研究成果に触れつつ考えていきます。

■おわりに

以上、経セミ4・5月号では、いまどんなデータが利用可能で、経済学というレンズを通すとそこから何を見出すことができるのか? データを活用して問題解決や現実理解のために思考の型の1つである経済学はどのように役立てられるのか? という点を、本当に多様なデータに触れつつ多角的に考えていきます。

データ分析に取り組んでみたい人はもちろん、すでに取り組まれている方々が新たなデータを活用してさらに可能性を広げる際にも面白い情報がご提供できるのではないかと思います。また本特集では、データ分析スキルを活用したキャリアにご関心の皆さまも、具体的な方向性の1つが見つけられるのではないかと考えています。ぜひぜひ、「データ×経済学」の可能性を、本誌を通じて感じてみてください!

また、本号では新連載「実証ビジネス・エコノミクス」(上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎共著)も始まっています。こちらも「データ分析×ミクロ経済学」の可能性を実感できる連載となっていますので、ぜひあわせてご覧ください(本連載の具体的な紹介は、以下のnoteもご覧ください)。





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