古代の忠犬物語

 我が主人は物部連守屋さまに仕えておりました。
守屋さまは共に天皇に仕えている蘇我大臣とは折り合いが良くなく対立関係にありました。
 ある日、遂に大臣と干戈を交えるようになり、我が主人は守屋さまの御屋敷を守る役目を命じられました。
 我が方の戦況は思わしく無く、間もなく守屋さまは滅ぼされてしまったという消息が伝えられました。
 主人はすぐに兵たちを解散させ、自身は夫人の実家である茅渟県有真香邑へ向かいました。
 竹藪の中に隠れていましたが見つかり孤軍奮闘の末、打たれてしまいました。
 自身の意志とは関わりなく叛逆者とされた主人には八つ裂きの刑が言い渡され、その御遺体が斬られ、首を晒すために串刺されようとしたまさにその時、雷が鳴って大雨が降りました。
 この隙に自分は主人の首をくわええてその場から去りました。そして古塚に納めて葬りました。
 その後、主人の首が持ち去られないように、ずっと側に控えておりました。

「遂に死んでしまったなぁ」
 河内国司は従者に言った。
「はい、犬の身ながら大した忠義ものです」
「朝廷に申し上げねばならぬな」
 国司からの報告を聞いた朝廷は、この白犬を称賛し飼い主だった鳥捕部万(ととりべのよろず)の一族に、主人の墓の隣にこの犬の墓を作り葬るよう命じた。そして、白犬の忠義を長く伝えるようにしたのだった。


#歴創版日本史ワンドロワンライ  2020年1月25日  お題:犬
日本書紀に出てくる鳥捕部万(ととりべのよろず)の話を元に創作しました。


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