都氏誕生譚

 その夜、京師の一角にある屋敷は賑わっていた。
「兄上、宿願が叶いましたね」
「ああ、父上も冥界で喜んでいらっしゃることだろう」
 彼らの願いは氏姓を改めることであった。
「我が祖先は唐土より韓の地を経てこの地へやってきた。その間、王業を輔け、この地に来てからは代々積み重ねてきた学殖によって朝廷に仕えてきた」
「はい、父上は渤海使の件ではかの地まで出向きました」
「主上もこれまでの我らの実績を御理解なさったのだろう。それゆえ請願を受け入れて下さったのであろう」
「我らはこれより祖先の氏を名乗れるようになりますね、兄上」
「そうだ、貞継。我らは今より桑原公(くわはらのきみ)では都宿禰(みやこのすくね)となるのだ」
 一族の長である腹赤(はらか)が宣すると一同は歓声を上げるのだった。

#歴創版日本史ワンドロワンライ  2020年1月18日 お題:都   朝鮮半島に“都”という氏があるので、こうした物語を書いてみました。

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