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3.17: Synecdoche, New York

友達と電話していて、次はサンフランシスコに行ってみたいよね、という話になった。その経緯は割愛するけど、サンフランシスコに行くなら慧ちゃんLAにも寄って久しぶりにジョンに会ってきたらいいよね、という友に、そうだね、とふんわりと返した。

ジョンというのは音楽家のジョン・ブライオンのこと。私が学生時代から憧れていた音楽家で、奇跡が起きて2017年に本人に会いに行き、2018年にロサンゼルス(LA)で彼とのレコーディングを実現した。最後に会ったのは2019年の秋、ニューヨークだった。その思いがけない再会の話はこのnote参照

コロナ禍が始まって、隔離の厳しかったLAに暮らすジョンと私はたまに短いメッセージや、ボイスメモを送りあうようになった。16時間の時差があるLAと東京だけど、ジョンは昼夜逆転しているので、私と眠るタイミングがほぼ同じ。互いになんとなく眠れない夜に、「ねえ、そこにいる?」というように、話しかける。すると、即興で弾いてくれた素晴らしい音楽がiPhoneのボイスメモで届く。私達はこれをprivate concertと呼んでいた。Face time通話で、一言も話さないけど演奏だけがずっと中継されたこともあった。私はヘッドホンをしながら宇宙に漂うように眠った。凄いことなのだけど、現実味がない。

友達との電話でジョンのことを思い出したその夜、3ヶ月ぶりにジョンからメッセージがきた。私達の会話が聞こえてたんだろうかと驚く。「そっちの世界から、なにか僕に歌って」。私は短い歌を囁くようにうたったボイスメモを送る。
ジョンとは会った回数も少ないし、長く過ごしたり、たくさん会話を重ねたわけではない。でも、ジョンのスタジオで休憩中に宇宙の番組をぼんやり観たことや、最後に会った真夜中のNYも、いつも夢なのか現実なのかわからない感じで、あれ以来、私達だけの世界線があって、続いている気がする。現実とは違うその場所で、たまに落ち合っているような。実際にもまた音楽をやりたいけど、いまの感覚があまりに特別で、そのままにしておきたいような気もするのだった。

「ありがとう。お返しに」とジョンからもボイスメモが届いた。LAから届いた音楽は、私のなかで広がって、なぜかNYが思い起こされた。とくにシンボリックなものがみえたわけでもないのに、なぜその場所がNYだと思うのかは、わからない。


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