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北山陽一さんとの歩みをまとめてみたよ



はじめに


ゴスペラーズの北山陽一さんと出会って、もうすぐ二年半。控えめにいって、私の研究者人生を変えてくれた恩人です。数年前までの著作でくり返し言及していましたが、私は「音声学とか言語学って何の役に立つんだろう?」と悩んでいました。そんな悩みを吹き飛ばしてくれたのが北山さんです。


北山さんの尊敬すべきところは本当に沢山あるのですが、まず壁を作らないこと。正直、芸能人って「雲の上の人」だと思っていましたが、「川原=面白い人」って思ってくださったとたん、社交辞令を廃した深い付き合いが始まりました(笑)。「遠慮している時間がもったいないので、そのぶん語りましょう」的な。

でも、同時に「(ゴスペラーズだからって上から目線で話すことはしないけど)ゴスペラーズであることで、助けになることがあったら言ってください」とおっしゃってくださり、私に常に新しい可能を提示してくれています。この態度は2年半ずっと変わっていないです。

そんな北山さんと私の共同研究の成果が形になってきたので、ちょっと振り返りも兼ねて記録していきたいと思います。一般に流通している本も紹介しますが、販促ではありません。なんというか、記録に残したいんです。

エピソード0

出会い……は、それだけで笑い話ですね。詳細は『フリースタイル言語学』の3-7章「おぬしは何者だ」で語っています。この章は、書き下ろし本であるフリースタイル言語学の最初に書いたエピソードのひとつです。今振りかえっても笑えます。あの日のことは死ぬまで忘れないでしょうね。


『フリースタイル言語学』(大和書房、2022)

授業で思いを語る

出会って数ヶ月、すぐに対談をすることになります。しかし、対談の書き起こしが出来上がってくるのが待てず、対談したすぐ次の日に、「音声学者としてここが面白かった!」というスライドを作り、授業でとりあげます。そのスライドはこちら。はっきりいって「ラブレター」です。

内容を簡単にまとめると、こういうことです。濁音って次に続く母音の声の高さを変えてしまいます。北山さんは、歌手としてその問題をどうやって回避しているのか? 答えは「濁音から母音に変化する部分で、濁音の影響を受けさせて、そこからちゃんとリカバリーする時間を作る」というものでした。母音を「ひとつの存在」としてでなく、「内なる時間をもった存在」として意識的に扱っているところにしびれました。音声学にそういう理論があり、私自身もその理論の研究をしていたので、なおさらです。

対談が出版される

そんな対談ですが、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』の巻末に収録されることになりました。上の話だけでなく、呼吸の仕組みなどいろいろな話題について語っています。呼吸に関する話題は、今振りかえると、のちのちに絵本などでも描かれることになる大事なトピックであり続けています。ちなみに、帯に推薦文を書いてくれた一青窈さんも、北山さんのご紹介です。

『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社、2022)

勉強会の開催

私の授業を履修してくれた北山さんですが、もっともっと音響などについて学びたい、とおっしゃってくださったので、彼のまわりの学生も集めて、オンライン勉強会を何回か開催しました。

そこで議論にあがったのが、例えば、北山さんが持っていた(る)感覚として、「ハモるときって、それぞれの歌手の口の動きそのものが同調しているんじゃなくて、結果としての響きが同調しているんですよね」という直感。これは音声学の最重要問題でもあります。私たちが音声を発しているとき、「口の動き」が大事なのか? それとも「意図したように聞こえてれば、口をどう動かしてもいい」のか? 専門的に言うと、ターゲットは調音か音響か?

私が研究していることが、歌手の意識とつながっている!! こういう瞬間って本当に嬉しいんです。これに関してもスライドにまとめました。(ICUの授業でも使ったので、英語です)。

言語文化研究所にて公開講座を開催

こうやって勉強会などを通して交流していった結果の積み重ねのひとつとして、2022年10月、言語文化研究所が開催する公開講座にご登壇いただきました。「プロの歌手として、大学で学びなおすことの意義」などを存分に語ってくださいました。

言語文化研究所が開催した公開講座のチラシ

それからプロの歌手として舞台に立つときに緊張しないコツなどなど、たくさんのお話しを聞くことになります。

そうそう、壇上で「来年もこの関係が続いてれば」と私が(遠慮もこめて)発言したところ、「『来年も』ってどういうことですか!」と怒ってくれました。来年どころか再来年までちゃんと関係が続いていますね。ありがたいことです。

また、上のポスターに写っている城南海さんも個人的にご紹介いただき、彼女の使う「こぶし」の分析も学生とともに探究することになりました。

TALK&TALK

2023年の夏に、GOSMANIAのTALK&TALKにて対談。絵本に関しての中間報告などですかね。昔付き合いのあったママ友から「しげとさん、何者だったの!?」というメッセージが届きました(笑)

ついに絵本出版

2023年に取り組んだプロジェクトです。この原動力になったのは、「川原は『話せるってすごいこと』という想いを伝えたい、北山さんは『歌えるってすごいこと』という想いを伝えたい、ということ。上手い下手とかじゃないんだよ。話せる・歌えるだけですごいんだよ。この想いを多くの人に伝えるためには、絵本がいいんじゃない?」ということで意気投合。

やるなら『はたらく細胞』の路線がいいですよね? だったら講談社に持ち込んでみましょうよ。と、あれよあれよで、絵本ができました(笑)いや、大変でしたけどね。でも、本当に北山さん・牧村久実さん(漫画家さん)・編集者さん、私の4人のチームプレーで、自分ひとりでは絶対に作り出せないものが作れました。

『うたうからだのふしぎ(講談社、2023)』

でも、2人(4人)の中で、これはまだまだ序曲なんですよね。まだまだ絵本を通して伝えたいことはたくさんある。正直、あと3冊くらい書きたい(笑)そして、単行本としてコミカライズしたい。アニメ化してほしい。グッズ化も……(略)がんばります!!

「さだまさしさん研究」も一緒に

絵本の影に隠れている感もありますが(笑)、じつは一緒に「さだまさしさんが彼の楽曲において、日本語のアクセントをどれだけ大事にしているか」を研究したプロジェクトにも一緒に取り組んでいます。これは、私がそそのかしたわけでなく、北山さんが歌手として、この問題に向き合いたかったので、私がお手伝いをさせていただいた、というイメージです(だと私は思っている)。

この研究成果の一部は、「さだまさし解体新書」にて収録されています。ただ、この報告もまだまだ序曲で、一緒に分析したい課題は山積みなんですよね。

対談は続く

絵本出版記念も兼ねて、改めて対談する機会をいただきました。1本目はコクリコで公開されています。タイトルはちょっと煽り気味ですが(笑)、「ゴスペラーズ北山が教える面接で「失敗」しない方法 慶應大教授と意気投合する「スゴい」体のしくみ」です。

もう一本は現代ビジネス用です。「ゴスペラーズ「北山陽一」がこっそり受けた、慶応大「音声学」授業のスゴイ中身…歌手が「声」を自由に操れるワケ」

酒井さん作詞の曲を分析する

ニュアンスは伝わりにくいかもしれないんですが、北山さんとの親交が始まったとき、お互いに意識的に「ゴスペラーズ北山陽一」としての付き合いを脇において置く意識がありました。私としても、「あまりに芸能人として偉大な人」として接してしまうと、こびへつらうことになりかねないし、北山さんもそれを望んでいなかったのでは……。ですから、あまりゴスペラーズの曲について語ることはありませんでした。

しかし、付き合いが二年ほどして、「そろそろいいだろう」という雰囲気になってきたのか、コンサートに招待してくださいました。そこで、「あれ? 何? ゴスペラーズの曲の中にも韻を踏んでいるのがあるじゃない?? なんで北山さん教えてくれなかったの!!??」となりました(笑)。それらの曲を作詞した酒井雄二さんを紹介してくださり、お二人の許可を頂いたうで、その曲に含まれている韻を分析してみました。詳しくはこちらこちら


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