一日一知 アドラー心理学

アドラー心理学

アドラー心理学・(個人心理学):アルフレッド・アドラーが創始し、後継者たちが発展させてきた心理学の体系である。個人心理学が正式な呼び方であるが、日本ではあまり使われていない。個人心理学と呼んでいたのは、個人とは、分割できない存在である、と彼が考えていたことによる。

目的論(Teleology)

アドラー心理学では、個人の悩みは、過去に起因するのではなく、未来をどうしたいという目的に起因して行動を選択している、と捉える。アドラー心理学は、認知の歪みがある人や、感情と言動に不一致がある人に対して有効であり、周囲の同調圧力が煩わしければ、いっそのこと関係性を切り、自分が本当に歩みたい人生を、主体性に積極的に生きていくことを推奨している。

個人の主体性(Creativity)

アドラー心理学では、個人を、例えば、心と身体のような諸要素の集合としてではなく、それ以上分割できない個人としてとらえる。したがって、アドラー心理学では、心と身体、意識と無意識、感情と思考などの間に矛盾や葛藤、対立を認めない。それらは、ちょうど自動車のアクセルとブレーキのようなものであって、アクセルとブレーキは互いに矛盾し合っているのではなく、自動車を安全に走行させるという目的のために協力しているのと同じように、個人という全体が、心と身体、意識と無意識、感情と思考などを使って、目的に向かっているのである。

社会統合論(Social Embeddedness)

人間は社会的動物であることから、人間の行動は、すべて対人関係に影響を及ぼす。アドラー心理学では、人間が抱える問題について、全体論から人間の内部に矛盾や葛藤、対立を認めないことから、人間が抱える問題は、すべて対人関係上の問題であると考える。
人間は人間社会において生存しているものであって、その意味で社会に組み込まれた社会的存在なのである。社会的存在であるので、対人関係から葛藤や苦悩に立ち向かうことになるが、個人の中では分裂はしていなくて一体性のある人格として行動している。すべての行動には対人関係上の目的が存在している。社会に統合するというよりも、最初から社会的存在なのである。

仮想論(Fictionalism)

アドラー心理学では、全体としての個人は、相対的マイナスから相対的プラスに向かって行動する、と考える。しかしながら、それは、あたかも相対的マイナスから相対的プラスに向かって行動しているかのようである、ということであって、実際に、相対的にマイナスの状態が存在するとか、相対的にプラスの状態が存在するとかいうことを言っているのではない。人間は、自分があたかも相対的マイナスの状態にあるように感じているので、それを補償するために、あたかも相対的プラスの状態を目指しているかのように行動するのである。
これは哲学における認知論の問題である。ただし、「認知」という用語の使い方については、基礎心理学の20世紀後半以降の主流派であるところの認知心理学における「認知」とは大きく異なることに注意が必要である。

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