見出し画像

ぶっ壊して逝くのか ② 続編

はこちら
おはよ、ノア
00に会ったよ
時間ある時、話せる?

ノアは、私の双子の弟だ。ユナイテッド・アース(地球連合、以下UE)の規定では、多胎児の場合、先に生まれた胎児が姉ないしは兄となる。一方で、彼はその数分後に生まれていることから、周囲も、私イマが姉で、彼が弟という感覚は全くない。私はむしろ、私たちが男女では非常に珍しいとされる一卵性双生児だからか、偶然性別が違って「別の人間」として生まれてきた「もう一人の自分とは違う自分」という感覚になってしまうことはある。

今回は、ノアにスルーされないように、いや笑わせたくて、仕掛けをした。幼少期の私がブサイクな顔で大泣きしている動画を3Dに加工し、メッセージを確認する時に、その頃の私の声で読み上げるように設定し送った。元動画は、祖父母から最近もらったもので、とても気に入っている。ちなみに、祖母も、男女の双子だ。

00というのは、ユキのことだ。ユキ→雪→雪だるま→倒された雪だるま→00と暗号化し、ユキに迷惑が掛からないようにしている。元々、彼は、幼少期はヨーロッパ、思春期をアジア各地とオタルナイで過ごし、その後は、ニューヨークへ留学をした。日本の文化論の研究者となり、かつては、アメリカとオタルナイを行き来する暮らしをし、グローバルに活躍していた。実は私も学生の頃、イデオロギーの分断についての資料を探し、彼が1969年の日本の東京大学で起きたことを、英語で語っているインタビュー動画を見たことがあった。彼は、暴行をうけて倒れ、半身不随になり、40歳になる前に、グローバルシティズンではなく、パトリオットとして生きる道を選択していたのだった。オタルナイに拠点を構えて、国内向けに執筆活動をしている。私たちより、ちょうど一回り12歳年上だ。

ノアは、昨年、ヨーロッパへの一時帰省の間に、UEによりグローバルシティズンシップが剥奪された。それまでは、頻繁にオタルナイにやってきて、高台にある曾祖母が残した土地にレコーディング兼ライブ配信スタジオ「HAKO」を建てて、そこにこもり、時には仲間を集めて、音楽活動をしていた。

そういった経緯で、ユキとノアは、オタルナイにあるジャズバーで出逢ったのだった。音楽やアート、文学、そして幼い頃から剣道をやっていたこと、移住を繰り返してきた等の共通点もあって、互いに強く惹かれていったようだった。今は、どちらもパトリオットとなったことから、会うことはもちろん、交信をすることすらできなくなってしまったのだ。

ノアや私の世代は、壊滅的な地球の再生を意味する「リジェネ」と言われている。私たちは、愛溢れる裕福で恵まれた家庭環境で育った。両親の事業の関係もあり、移住を繰り返した。各地でたくさんの友だちができたが、どちらかがいじめの対象や不遇な扱いをうけた時は、気がつくと、全力でお互いを守るようになっていた。秘密ではあるが、ズルい手を使ってしまったこともある。もちろん、そんな私たちであっても、数えきれない程の口喧嘩もした。思春期に入る頃には、彼が「どっか行って!俺はもう双子なんて嫌だ、他人のフリする」と言い出し、私が「それこっちが言いたいやつね、でも顔同じだからムリ」と言い返すと、彼は鏡を見てため息をつき、近くに置いてあったものを蹴り飛ばして、出ていったのだった。その日は、夜になってもなかなか帰ってこなく、母がすごく心配をしていたように記憶している。それでも私は、小さな頃から隣にいた彼が、とてもやさしい男であることを知っている。

なぜだろう。小さな頃のあの時の私たちが、この大人の私の体の中にまだいるような気持ちになったのだった。気がつくと、ノアが愛する男ユキに会いに行っていたのだった。


この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?