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映画「悪は存在しない」

人間にとって最も重要なテーマを過不足なく描いた秀作である。
国の補助金行政に蟻のごとく群がるコンサルタントという名の詐欺師、彼らにすがり「地域活性化」という魔法の言葉で過疎な地域の収奪を試みる人々と、彼らに対峙する地域住民とその生活、という構図から「人の営みとは何か」という根本的な問題を浮き彫りにしている。

 個人的には走行する車中の描写に注目した。コンサルの助言に従って現地へ車で向かう社員2人の、絶え間も意味もない空虚なおしゃべりと、現地に到着後、主人公である男性を加えて交わされる微妙な間のある重い会話。同じ状況でありながら、空疎に消えていく言葉がやり過ごす時間と、深い意味の言葉が積み重ねる時間、言葉によって紡がれる世界の質感の違いを実感した。

衝撃のラストシーンは、生態系のバランスを崩そうとする者と押し留めようとする者とのせめぎ合い、自然と共に生きる厳しさ、そして安易に「悪」を決めつけることへの慎みを示している。

5月24日まで塩尻「東座」で公開中です。

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