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初めてのエクイティファイナンス(新株発行資金調達)をした感想

はじめに

私の経営する株式会社ハットコネクトは、来月の上旬に創業以来初めてとなる株式発行による資金調達(エクイティ・ファイナンス)をおこなうこととなった。
調達金額は1,000万円。発行株式数とかはここで公開するつもりはないのだが、スタートアップの調達額としてはそれほど多い金額ではない、という感想を持つ人が多いのではないだろうか。
とはいえ、個人としても会社としても初めての経験である。
せっかくなので、これからスタートアップ経営を目指す人にも参考になるであろうこの体験を少しお話ししたいと思う。

これまでの歩み

弊社は2018年に創業、私が2020年より自己資本を出資し安定株式を取得し、自身が2代目社長として代表取締役を務めることとなった。
このあたりの経緯は割愛するが、それほど自己資本の多い会社ではないと留意しておいていただければ幸いだ。
2020年より、パンのセレクトショップというビジネスを横浜の百貨店で展開し、自社ベーカリーも運営。結果として現在では年商としては5億円程度の会社まで成長した。
しかし、新型コロナウイルスによる売上の不安定さやBtoBtoCのビジネスモデルにはありがちな売掛金の多さ、そして労働集約型のビジネスモデルであることからの人件費の増大など数々の要因により運転資金は増大の一途をたどっていた。
私の経営スタイルである「まずやってみよう精神」の影響もあり、増大する人件費や売掛金は倍々ゲームで増えていった。
売上は予定より増えていくが、キャッシュフローはどんどん悪化していく。
なぜ、それなのに勝負を続けていくことができたのか。

「掘る」という言葉への誤解

私は現在37歳である。まさにITバブル全盛期。
小学生の高学年時代にはポケベルが一般普及。中学生の中盤にはPHSが普及し始め、高校生になった時には携帯電話をみんな持つ時代が到来していた。
中学生時代には学校にコンピュータールームという、奥行30cmもあろうかというパソコンが40台ほどある教室があり、ホームページも普及し始めていた。
高校を卒業するころには、2ちゃんねるのような大規模掲示板サイトやブログのベースとなるような個人型投稿サイトも普及し始め、20代中盤にはMixi、Twitter、FacebookのようなSNSや、LINEのようなメッセンジャーツールも一般的に普及していた。
特にLINEは東日本大震災の少し後に普及し始めたような印象であった。

当然、私も新進気鋭な各種サービスには虜になり、関連するようなメディアの記事や書籍などもよく読んだものである。
今でこそ世界的大企業であるTwitterは、ユーザー数こそものすごい人数を獲得していたが、かなり長い事収益化ができず赤字を出し続けていたと記憶している。
つまり、投資家が資金を投下し続けたという事である。
私は考えが甘く、この事例を「時代は変わった。将来的な価値が高ければどれだけ赤字を出しても大丈夫。」とシンプルに捉えていた。

今、スタートアップ界隈で流行っぽく感じる言葉がある。
それが「赤字を掘る」という言葉である。
私が経営を始めたあたりではあまり聞かなかった言葉のような気がするが、現在ではよく耳にする。

当然スタートアップは赤字を計上する期間があり、成長によって黒字転換し回収をする、という成長曲線を描くのはとても自然なことなので、全てを否定するわけではない。
むしろ、その曲線を支配し、投資家から高い評価を受ける素晴らしいスタートアップ経営者もたくさんいるであろう。
しかし私のように、「収益なんか後回しだ!とにかく企業の価値を高めればいい!」と誤解している経営者もいるのではないだろうか。

とにかく価値を高め年商を上げ、投資家から資金を調達し、スケールする。
そして赤字のまま上場し、イグジットする。
確かに悪くはないのだが、投資家から資本の調達が止まった瞬間に企業は経営破綻する。
そのすべては投資家の「回収」または「損切り」の判断にゆだねられる。
つまり、「赤字を掘る」事で成功できる一握りの事業者は、スタートからイグジットまでの「企業価値」を完璧にコントロールし、完璧に投資家に納得させ続けられる者だけなのである。

金融機関からの応援

私のように「収益なんか後回しだ!とにかく企業の価値を高めればいい!」と誤解していた経営者が、なぜここまで来れたのか。
答えはとてもシンプルである。
金融機関がたくさん融資をしてくれたからだ。

別に、最近はやりのデット(融資)VSエクイティ(株)の話がしたいわけではない。
私は流行に乗れるような若いタイプではなかったので、スタートアップが一生懸命投資家回りをするように、一生懸命金融機関、つまり銀行にプレゼンテーションをおこなった。
特に実業型のビジネスをおこなっていたのもあって、金融機関の担当者が店を実際に見に来てくれたり、アドバイスもしてくれた。

ここで皆さんに伝えたいことは、ただ一つ。
銀行は「晴れの日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げる」とよく揶揄されるが、そんなことはなく、伴走してくれる強いパートナーであるという事。
また、投資家と同じように心のこもったプレゼンテーションをする相手であり、その内容をしっかりと精査してくれる、という事だ。

結果として、実に無担保で1億円近い融資を受け、会社を成長させることができた。

融資の限界と、そのあとに見えた光景

そんな中でも、いつの日にかやってくる融資の限界が来てしまった。
事業拡大に伴い、売掛金や物件保証金などの必要運転資金は増加し、借入の返済も進む。元の資本は増加していない。
返済の総額やロックされる売掛金を利益剰余金が上回っていないとキャッシュフローはマイナスになる。当然のことである。
「赤字を掘る」とはそういう事なのだ。

今更ながら、私は元の資本を増強するため、流行りのエクイティファイナンスを頑張ろう、と思った。
遅すぎるチャレンジではあるが、人生に遅すぎることはない、くらいの精神であった。

まずは、地元のビジネスコンテストに出てみる。
運よくファイナリストまで残ることができたが、それにより投資家から声がかかることはなかった。
まぁ、それほど甘くはないだろう。
そこで、この実績を引っ提げ、最近では増えてきた資金調達プラットフォームサービスにかたっぱしから登録してみる。
詳細は割愛するが、ここで投資家よりアポイントの返答が来たのはわずか3件であった。メッセージのアタック数は122。実に返答率2.4%。
しかも、その後の面談は惨敗。
もちろん、弊社のビジネスモデルが弱いことやプレゼン能力が低い事が原因なのではあるが、ちょっと分が悪すぎる。

しかし、まったく意味がなかったわけではなく、ヒントをもらえた。
「直接VC(ベンチャーキャピタル)のお問い合わせフォームから連絡した方が良かったりするよ」という指摘をいただけた。
こういう話を聞いて、すぐ実行に移せるところだけが私のいいところである。
そこで、いくつかの地元のVCをネットで探し、直接メッセージを送った。
数はそれほど多くはなかったが、逆にそれぞれに熱めのメッセージを作成する余裕もあり、頑張ってメッセージを書いた。
ここでは、6件のメッセージに対して3件も返信をいただけ、そのすべてが面談まで発展した。

VCとの面談で感じた事

そのうちの1つのVCに今回出資をいただけた訳だが、こちらは弁護士事務所の代表や税理士事務所の代表が共同代表を務める、地元型の小規模な独立型VCである。
すぐオフラインで面談を設定いただき、直接プレゼンする機会をいただけた。
こちらのVCは7名ほどの士業のメンバーで構成されているが、そのあともすぐに他のメンバーとオンラインミーティングを設定いただき、次の機会には弊社までお越しいただけた。

4回ほどのミーティングを経て、投資の決断をしていただけた訳だが、何より私の話を真摯に聞いてくださり、うまく理由は説明できないのだが、とても信頼できる方々だと感じた。
皆さん、それぞれ別にも本業のあるプロフェッショナル達であるにもかかわらず何度も時間を割いてくださった事や、私のつたない説明を瞬時に理解して的確な質問を返してくださる知性にも感銘を受けた。

そこで、実際の出資を受ける段階に到達したのだが、株式新規発行による資金調達となるわけで、弊社の時価総額算定や比率等の話をしなくてはならない。
前夜に、自分なりにこの一歩を整理して考えた。
そもそも、私はこの調達で何を得たいのか。それは資金なのか、それ以外なのか、はたまた両方か。

心の中にあった結論

私も30代後半である。それなりに生きてきた社会人としての経験もある。
これまで私の生き方を支えてくれた色々な人々はどんな人たちだったのか。
また、今後私は後輩たちに何を伝え、どんな生き方を見せていきたいのか。
そんな事を考えてしまった。

私に必要なのは、事業の弾となる現金はもちろんであるが、それ以上に必要なのは信頼できるパートナーであるとの結論が出た。
経営者として今後も生きていくのであれば、キャッシュとしての価値よりも、何かを一緒に生み出したり、紹介しあえる人間関係であったり、またある日は情報交換という名のもとに高くない居酒屋に飲みに行けるビジネスパートナーが一番欲しいと感じた。これが素直な自分の結論であった。

契約の当日。私は先方へ以下の内容を正直に言った。

・今後、一緒に成長していけるパートナーであってほしい
・お互いにどれだけ忙しくても、最低月に1回は会える機会を設けてほしい
・私たちに対して本気でいられるだけの株式を持ってほしい

結果、この私のワガママは受け入れられ、先方も私の意思を組んで、すぐにLINEグループを作成していただき、会食もセッティングしてくださった。
私の心が温かく満たされた事は言うまでもないことであるが、私が弊社役員に報告した際もとても嬉しそうであったとの事だそうだ。

おわりに

とりとめのない長文ではあったが、私の体験記の一部であり、これが今後資金調達を検討する方の参考になればとても幸いである。

私なりの言葉として、一番伝えたいことは
「自分にとって一番必要なものは何か」
という事。
こればかりは未来になってみないとわからないが、一生懸命に資金調達に取り組む中で、それ以上の価値を得ることができたと将来感じるかもしれない。

一緒にリスクを負って走ってくださる仲間が増えたという事。
とても組織の成長を感じる出来事であった。

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