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「やってはいけない」ストレッチは「してもいい」

これを書こうと思ったのは、TIMEが9 Common Myths About Exerciseという記事で、運動前の静的ストレッチ(じっくり筋を伸ばすストレッチ)をしないことを推奨していたのがキッカケです。

ケガ予防には貢献しなそうだ、パフォーマンス低下を招きそうだ等わかりつつありますが、それらもTPO次第。運動前に静的ストレッチをする意義「も」見いだせるので、積極的に避ける必要はないと考えます。

以降、TIMEの記事を確認しながら、それを確認していきます。

ケガを減らせない→特定のケガは減らせる「かも」

Many of us learned in gym class or little league that static stretching, such as reaching for your toes and holding the stretch, before activity can prevent injury. But research has generally failed to support the idea. 

書き手Robert J. Davis氏が根拠にしている論文は、過去に研究者たちが発表した論文をまとめて分析したもので、多くの研究をまとめて分析するので「より確からしい」結論と言えます。

主張の根拠となった研究
Katie Small et al. (2008) A Systematic Review into the Efficacy of Static Stretching as Part of a Warm-Up for the Prevention of Exercise-Related Injury. Research in Sports Medicine. Volume 16, 2008. 213-231.

この論文は全てのケガを減らせないとは言い切ってはいません。証拠が弱いけど、筋や腱のケガなら減らせる可能性があると述べています。「絶対」や「100%」とは言わない世界なので当然のことですが、それは問題になりません。

やってもマイナスにならないなら、少しでもプラスになる可能性があるなら、運動前に静的ストレッチをしたって良いはずです。

それでもやらないほうが望ましい理由があるでしょうか?

パフォーマンスを下げる→ほとんどの場合は無関係

Robert氏は、運動前の静的ストレッチはパフォーマンスを下げるから、運動前には身体を大きく動かす動的ストレッチを取り入れ、静的ストレッチは運動後に取り入れるのが良いと主張しています。この使い分け自体は私も賛成です。

What’s more, pre-exercise static stretches may even do harm by impairing performance. One possible reason is that a looser muscle acts like an overstretched slingshot, generating less force than one that’s taut. Another theory is that stretching “cold” muscles damages them.

しかし、何を指しているのかよくわからないパフォーマンスという某が、下がると推測する理由を書くだけです。それが低下したデータを示していません。

前項でRobert氏がそうしたように、過去に研究者たちが発表した論文をまとめて分析した「より確からしい」結論で確認してみます。

確認した論文
Behm DG et al. (2016) Acute effects of muscle stretching on physical performance, range of motion, and injury incidence in healthy active individuals: a systematic review. Appl Physiol Nutr Metab. Jan;41(1):1-11.

静的ストレッチでパフォーマンスという某が下がりそうだというデータはありますが、ほとんどの人には関係がないです。

125の研究から、パフォーマンス(垂直飛びの高さや短距離走の時間、持ち上げられる最大重量など)へのストレッチの影響を精査した結果は、

1.  60秒未満の静的ストレッチは、ほとんどがパフォーマンスを下げない。
2. 60秒以上の静的ストレッチは、パフォーマンスが下がる結果と下がらない結果が半々。
3.  パフォーマンス測定はストレッチ後3-5分以内に行われていた。
4. 静的ストレッチ後に大きく身体を動かすウォームアップをすると、パフォーマンスへの静的ストレッチの影響はわからなくなった(この話は要旨でのみ触れられていて、考察や結論の中では詳細に述べていないので頭の片隅に置く程度の話)

1分以上同じ筋に静的ストレッチすることはほぼないでしょうし、競技者が静的ストレッチ直後に試合に参加することもまずないでしょう。この影響は気にしなくて良いと言えます。

ただし、ジムで急いで時短で筋トレするときなど、ストレッチ直後に大きな力の発揮するのはパフォーマンスが下がる条件に当てはまるので、トレッドミルやバイクで10分程度は身体を温めてから筋トレを始めるのが良いでしょう。

また、ストレッチすることでパフォーマンスが上がるわけではないので、次項で示すような意義・目的がない限りは、特に競技者の場合は積極的にやるべき理由はないと考えます。

運動前に静的ストレッチをするその他の意義

ここからはデータに基づいた話ではなく私個人の意見です。運動前の静的ストレッチをする意義は他にもあります。

心理的準備
よくtwitterで話す岡崎さんのこんな意見を目にしました。同意見です。

忙しい生活の合間をぬってトレーニングしている方は特に、後ろの予定が詰まっている早朝やジム閉館間際で、焦ってしまいがち。

心に余裕がないと、動作を間違えたり重りを滑らせたりと危険です。最近だと、Crossfitの方が重りを足に落として骨折していました。

彼女のケガが焦りからきたものということではありませんが、焦るとこういう大きなケガに繋がりますよ、という話です。

トレーニングのためならケガをして良いなんて方は99.9%(私調べ)いないでしょう。時間がないときこそ、心を落ち着かせる時間をとることが大事ではないでしょうか。

怪我よりトレーングのほうが怖いなんて聞いたのは、この動画くらいです。

「怪我よりも、重量が伸びなくなる方が怖い。」

体調確認
静的ストレッチは時間をかけて一つずつ丁寧に行うので、自身の身体の状態を確認するのにはうってつけです。

同じ部位の左右の伸びの違いはどうか?
前回の同じストレッチと伸びの違いはどうか?
前回のトレーニングはどんな内容だったか?
前回のトレーニング後の過ごし方はどうだったか?
今日はストレッチまでにどんな過ごし方をしていたか?

意識しながらストレッチすることで、今の身体の状況には日々の何が影響しているのかなど、振り返ることができます。

繰り返すと自分の身体の状態より正確に把握できるようになり「明日腰がハリそうだから、風呂上がりにストレッチしておこう。」とか「疲れが抜けきれてないから飲み会は1次会で帰ろう。」など、体調管理・健康維持も上手にできるようになると思います。

上記2つの目的は動的ストレッチでも達成できるのでは?という意見もあると思いますが、心拍数が上がれば自然と気持ちも高揚してしまいますし、

動きながら身体の一箇所に意識を集中させるのは止まっているよりも難易度が高いでしょうから、静的ストレッチが「より」適当だと考えています。

まとめ

現時点で得られるデータを基に考えると、やらないほうが良い理由はほとんどの人に関係がないので、「やってはいけないの?」と不安にならず、これまでどおり続けてOKでしょう。

60秒未満の静的ストレッチなら身体に悪い影響はなさそうなので、直後にトレーニングや試合を行わないよう注意すれば、問題にならないはずです。