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勘違いかもしれないバランスボールの運動効果

多くのトレーナーやブログ・雑誌が「バランスボールはインナーマッスルに効く」と営業トークをしています。私もそうでした。

しかし、大学院進学後の研究で、それは間違いかもしれないというデータを得ました。最近この話題になったので、論文として発表されている内容をまとめました。

本研究は私がこの研究室に所属している期間に行われましたが、2019年9月13日現在、取引・利害関係はありません。


インナーマッスルってどこの筋肉?

インナーマッスル=体幹深層筋とします。具体的には、腹横筋と多裂筋とします。骨盤底筋群は研究も勉強もしていないので触れません。

「バランスボールに乗って体幹を安定させるorバランスとりながら動くことでお腹や背中のインナーマッスルを鍛える」と現場の指導されているので、実態と乖離しない定義ででしょう。

腹横筋は、お腹の一番深い位置にある、骨盤を腹巻きのようにグルッと囲む筋です。お腹の筋はミルフィーユのように重なり、表面から順に腹直筋(いわゆるシックスパック)→外腹斜筋(くびれ)→内腹斜筋(くびれ)→腹横筋(腹巻き)という順で内蔵を囲んでいます。

多裂筋は背中の深い位置で脊椎を支える筋です。背中をとおる2本の大きな起伏、脊柱起立筋群よりも深いところに付着しています。

(腹横筋と多裂筋のイラスト作成中@2020/4/22)

私は腹直筋がより表層にあると覚えていましたが、解剖の本では外腹斜筋がより表層に描かれているものがあります(本件議論には影響しません)

バランスボールはどこに効くのか?

バランスボール上でエクササイズを行うことで「より」効くのは、インナーマッスルではなく表層の筋です。

効く=筋がより強く収縮すると定義します。「重さを加えてより強く筋を収縮・反復する(≒メカニカルストレス)ことで、筋繊維を刺激(≒損傷)して鍛える」ので、現場の実態と乖離しない定義でしょう。

特定のエクササイズを安定面と不安定面(≒バランスボール)上で行った場合の、筋収縮の強さの変化を、以下の5種類10通りで調べています。

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不安定面上(≒バランスボール)で行うことで筋収縮が強くなったのは、以下の太字の筋肉です。論文を読む場合、グラフは最大随意収縮(100%の収縮)に対して、どれくらい収縮しているかを示していることに注意してください。

A. プランク:腹直筋・外腹斜筋・腹横筋・脊柱起立筋群・多裂筋
B. バックブリッジ:なし
C. バードドッグ:腹直筋・外腹斜筋・脊柱起立筋群
D. サイドブリッジ:腹直筋
E. カールアップ:腹直筋・外腹斜筋・腹横筋

プランクは腹横筋にも効いていますが、全体でみると不安定面上では表層の筋がより強く収縮する傾向です。「脇腹に効かせてくびれを作る」と訴求されがちなサイドブリッジですら、不安定面で行うとより強く収縮するのは腹直筋でした。

一つの観察研究だけで断言はできないものの、よく言われてることと反対の結果が出ています。起始〜停止を考えれば、胸郭・下肢を含めた姿勢の動揺に対して表層の筋肉がより働くのは当然にも思えますが、データでもそう示されました。

また、不安定面上ではインナーマッスルが「効かなくなる」のではなく「効き具合が変わらない」ことも注意すべきです。

インナーマッスルだけに効かせるには

ボディメイクのニーズが増えるフィットネスの現場で、インナーマッスルだけ鍛えたいというニーズはかなり少ないはずです。

基本的に怪我をしていない人が顧客なので、インナーマッスルの選択的収縮エクササイズを用いる意義も大きくはないでしょう。

それでも必要なときは、以下を取り入れることで、表層の筋を効かせずにインナーマッスルに効かせることができます。

腹横筋:安定面上でのバードドッグ(前述の図のC-Stable)
多裂筋:安定面上でのバックブリッジ(
前述の図のB-Stable)

バランスボールの意義

バランスボールを用いたエクササイズに意義がないとは思いません。結局は目的と使い方次第です。

運動の目的は身体を強くすることだけではありませんし、目的達成に向けて最短距離で進まなければいけないと思い込む必要もないです。

途中で諦めたり息切れしないよう、回り道でも、ゆっくりと楽しみながらゴールに向かっていく指導も求められることは、現場で指導されている方々は私よりもずっと理解・実感されているのではないでしょうか。

----以下余談----

私のジムでの経験からは、バランスボールの跳ねたり震えたりする楽しさは他になかなかないものです。ちょっと慣れれば運動初心者でも高齢者でもボールの上で膝立ちできて、達成感も味わえます。

例えば、励んでバランスボール上で立てるようになった中年の方は、他のお客様から注目や称賛を(事故防止のためフロア担当TRの警戒も)集めました。それだけ要因ではないと思いますが、私が辞めるときまで少なくとも1年間はジム通いを継続されていました。

----閑話休題----

目的や要望・志向に合わせてエクササイズを提案していくことが、運動指導者にとって大事なことだと考えます。

まとめ

1. バランスボール上でのエクササイズは、インナーマッスルよりも表層の筋に効きそう。
2. インナーマッスルの効き方が悪くなるわけではない。

カバー画像はCCで利用: Abdominal Crunch with Oblique Twist 2" by Scott & White Healthcare is licensed under CC BY-NC-ND 2.0