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“Beyond the Code” - CPOが見たSTUDIOの5年間

2021年4月19日「STUDIO株式会社」は創業5周年を迎えました。

長かったようであっという間の怒涛の5年間。人の運には恵まれ、おかげ様で一息ついて文章を書ける状況になりました。

STUDIOはその言葉も知らなかった創業の時から「NoCode」の山を登り続けています。もう間も無くリリース予定の「STUDIO Blueprint」によって、今までの「NoCode」で到達することができなかった新しい世界も見えて来ました。

これまでの5年間、今まで詳しくは語って来なかった部分をまとめて書き残したいと思います。

とりあえず作り始める

5年前の2016年4月。コードを書かずにサービスを作れる世界を目指して「OHAKO STUDIO」というUIデザインツールを作り始めました。

毎年春には体調を崩しがちで、その年は結膜炎で右目が開かない状態で渋谷税務署へ登記に行ったのを覚えています。当時在籍していたUIデザインカンパニーのオハコの子会社、「オハコプロダクツ株式会社」の誕生です。

当時22才。ある程度の業務経験があったものの、Webフロントエンドについては少しかじった程度でした。そこにあったのは、Vue.js、Firebase を使って数日で作り上げられたデザインツールのプロトのみです。ビジネスモデルもプロダクト戦略もほとんど考えていない圧倒的な見切り発車でした。

“Absolutely NOT”

創業してしばらくはデザインツールをデザインして地道に実装する日々。ほとんど一人で行動していたので、場所にとらわれずに働くことができました。(リクルート運営のTECH LAB PAAKには5期生として入りお世話になりました。)

折角なので日本の梅雨を避け、当時父の住んでいたアメリカ・サンノゼに行きシリコンバレーの風を受けながら意識高くSTUDIOを開発していました。

日本ではエリア一帯をまとめて「シリコンバレー」と呼ばれているものの、半導体に由来のある企業は東端にある企業ぐらいで、殆どはソフトウェア産業由来の会社です。実態としてはソフトウェア産業で発展した「ソフトウェアバレー」、恣意的に言って「コードバレー」とも言えるでしょう。ちなみに父はシリコンバレーで半導体の設計をしていていました。

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英語を喋れなかったので、向こうに住んでいた日本人と何件かアポイントを取り、作っているプロダクトの説明をして周っていました。

その中で経営コンサルタントのCさんから言われた一言は今でも忘れられません。当時から「コードを書かないでサービスを作れる世の中になる」的な事は言っており、そのような事を言ったら綺麗なカリフォルニア・アクセントで “Absolutely NOT” と言われました。「絶対にありえない」的な意味です。

「No」と言われると「Yes」と言いたくなるもので、「NoCode」への執念はこの頃から生まれたのかも知れません。

石井さんとの出会い

2016年の10月末、赤坂にあった起業家が集まっていたシェアハウスのホームパーティーに顔を出した時に、同じタイミングで石井さんもそこにいました。当時作りかけのプロダクトを会う人会う人に自慢し周っていたので石井さんにも同じようにデモをしました。(この頃から完成していない物を完成しているように見せるデモする技術だけはありました)

当時、石井さんは前のスタートアップを売却し次にやることを探していました。数日後プロダクトに興味があるということで声をかけてもらい、一緒にプロダクトを作っていく運びになりました。

この偶然がなければ今のSTUDIOは存在しなかったでしょう。

遂にβ版リリース

2017年4月24日。1年の開発の末、STUDIOはようやくβ版として世に出ることになります。この時は今のようなWebサイトを公開できる機能は無く、iPhoneアプリのプロトタイプができるUIデザインツールでした。

驚くべきことに、この頃は「APIからデータを引っ張って表示」「データを元にデザインを編集」などの現在でも提供できていない先進的な機能を備えていました。

この記事はJosh Puckett(元Dropboxのデザイナー)によって書かれた、「実際のデータでデザインをする」未来のデザインのあり方を示したコンセプト記事です。私たちも当時からこのブログを参考に、データを元にデザインする方法を模索していました。

デザインツールとしてリリースしたものの、その時のSTUDIOは実用レベルには程遠く、特に操作性の悪かったAPI機能やデータ連携の機能は数週間で消えました。

トンネルの中の熱海合宿

リリースして少したった5月上旬のGW。石井さん、きくっち(当時オハコ社長 先日4年ぶりにSTUDIOに帰って来ました!!)、自分の3人は熱海の旅館に集まっていました。STUDIOのこれからを決めるための合宿です。

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この表は合宿時の競合リストです。プロダクトのポジションが定まっていなかったので、ジャンルもバラバラでした。余りにも未来までの道が描けない状況で、STUDIOの開発を停止し会社を継続するために受託開発をする選択肢すら十二分にありました。

熱海は東京から鉄道で向かうと丹那トンネルという長いトンネルを抜けた所にあります。資金も尽きかけ、プロダクトでの売り上げの目処も立たない状態で、この時の合宿は先の見えないトンネルの中にいる気分でした。

Be a STARTUP!!

全く先の見えない中、私たちはプロダクトの僅かな可能性を信じ、ある賭けに出ました。オハコからのMBOです。代表も石井さんに交代して、社名も新たに「STUDIO株式会社」のはじまりです。

もちろん代表を譲るという選択は大変大きな決断でしたが、石井さんの人柄を信頼し、自分はプロダクト開発に集中することにしました。

このタイミングで自分はCPO(Chief Product Officer)となり、CEO石井さんと二人三脚で会社を進めていくことになります。

もし将来、私が中退したSFCの卒業スピーチに呼ばれるような事があれば、中退したことではなく、代表を譲るというこの時の決断を、今までの人生で最高の決断だったと語るはずです。

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小さな「会社」を抱えて歩く石井さん。

独立したものの、キャッシュはあと数ヶ月で無くなってしまうと言う状況。北参道にある知り合いのスタートアップのデザインを手伝う代わりにオフィスを借り、プロダクトを開発しながら資金調達に奔走しました。この夏は暑い夏でした。

Product Hunt 1位獲得

北参道で間借りをしながら開発をしていた2017年8月26日の夕方頃いきなりAdithyaというインド人から連絡が来ました。Product HuntにSTUDIOを載せたと言うのです。

Product Huntとは、シリコンバレーのプロダクト投票サイトで、毎日世界各地から新しいプロダクトがハンターによって掘り出され、投票形式でランキングが決まります。Product Huntで1位を取れば本場シリコンバレーでも一目置かれる有名なサイトです。

当時プロダクトやLPは英語対応していたものの、プロダクトの動画が存在していませんでした。Product Huntはハントされてから24時間が勝負です!朝までに急いで動画を作り上げ、頼める友人には投票をお願いしました。

結果的にコメント欄も盛り上がり投票も十分に伸びて来ました。しかし、24時間が経ったタイミングで順位のラベルが見当たりません。
諦めかけた次の日、サイトを見るとそこには

「#1 Product of the Day August 27, 2017」

の文字が。

この頃から、風向きが変わり始めました。
STUDIOはシードの資金調達に成功し、長いトンネルを抜けました。

ピボット

資金調達の時はまだWebサイトビルダーとしてではなく、デザイン・プロトタイピングツールとして戦うつもりでした。

今でこそ現在のSTUDIOの領域は「NoCodeツール」としてトレンド感が出ていますが、当時の感覚だと、「UIデザインツール・プロトタイピングツール」が時代の最先端で、「Webサイトビルダー」は初心者向けもしくは過去のプロダクトといった感覚でした。

Product Huntに取り上げられる少し前、Web版のライブプレビューのフレームを廃止して全画面でのプレビューに切り替えました。実はこの時点でWebサイトビルダーに必要な要素はほとんど揃っていたのです。

調達後にはかなりの時間を使いビジネスモデルの検討しました。その頃まだ、骨董通りにあったIDEOに何度も足を運んでIDEO・D4Vの方達とSTUDIOの生きる道のアイデアを出し合った事は懐かしい思い出です。

2018年4月2日、STUDIOは「Webサイト公開機能」を搭載して正式版がリリースされました。

目指すべき最終ゴールこそ変わっていませんが、高機能なプロトタイプを作れるデザインツールからシンプルなWebサイトを公開出来るサービスへの大転換です。

プロダクトの成長 ・ 会社の成長

正式版をリリースしてから数日後、ついに最初の売り上げが立ちました。最初にお金を払ってくれたユーザーには石井さんと2人でカフェで話を聞いたのを覚えています。

その後少しずつ作られるWebサイトは増えていき、徐々に名の知れた会社やサービスのサイトをSTUDIOで作ってもらえる事が増えて来ました。

正式版リリースの頃は池尻のマンションに石井さんと2人で住みながら開発をしており、その頃今の主力となっているエンジニア陣である、菅原さんみやおかさんこうやさん、そして初弟子のパクちゃんに出会いました。

リリース前からSTUDIOのインフラを支えてくれているモロちゃん、元々Web制作サービスを広島で運営しておりSTUDIOの為に家族で東京に移住して来てくれたあきほさん、そして先月までSTUDIOの顔としてYouTubeやコミュニティで活躍したまあや、石井さんの初弟子めぐちゃん

少しずつメンバーを増やしながら、徐々にチームとして、プロダクトとして、ブランドとして、文化が出来上がって来ました。

新しいオフィス ・ 新しい住処

2020年の2月頃からSTUDIOも徐々にリモートワークに移行し、3月には完全リモート体制となりました。

同じメンバー・同じ仕事内容のまま、ガーデンプレイスにあったオフィスからDiscordを利用したリモートオフィスに一気に移行したので、メリット・デメリットが正確に比較できました。

STUDIOでは基本的にDiscordをオンライン状態にして、誰でもいつでも声をかけられるスタイルでリモートワークを行なっています。例えばZoomなどで毎度繋いでいたら全く違う結論になっていたかもしれません。

リモートワークで良いプロダクトは出来ないと言う先入観を持っていましたが、そんな事は全くありませんでした。リモートのオフィスは逆に人と人の間の距離を縮め、より密なコミュニケーションを取れている感覚すらあります。(特にエンジニアメンバーの間で)

徐々にメンバーが東京から離れていき、また、今まで採用をしていなかった離島や海外に住んでいるメンバーの採用も進みました。

CMSとSTUDIO Code

STUDIOは正式版リリース以来、静的なサイトしか作ることが出来なかったのですが、「ブログ」や「ニュース」など動的なページを作るニーズは日に日に高まって来ました。

この問題を解決するために、CMS機能を開発することになりました。CMSはコンテンツを管理するシステムのことで、この開発にはデザイン上でデータを扱える仕組みが必要でした。そう、β版の時存在していたあの幻の機能です。

これを実現する為に幻の機能に改良を重ね「STUDIO Code」という仕組みを開発しました。これはSTUDIO上でユーザーにコードを書かせることで出来ることの幅を大幅に増やそうと試みたものでした。この仕組みは確かに機能したものの、実用の面から見ると失敗で、非常に中途半端なものでした。

結局「STUDIO Code」はリリースせず、一部機能のみを利用してCMS機能をリリースしました。

STUDIO Blueprint

今年に入り、リリースを諦めかけていた「STUDIO Code」に一筋の光が差し込みました。

きっかけは、2021年の年始。知り合いのエンジニア松田さんを逗子に招待し、開発中のSTUDIO Codeを見せ相談をしました。彼は感心した様子で見てくれたのですが、ユーザーに直接コードを書かせる部分に対して「ここはダサいね」というフィードバックを残しました。
優秀なエンジニアからの「ダサい」の一言は他の人のどんなアドバイスよりも重みがあります。

STUDIO Codeの設計を一から見直しました。

STUDIOはツールの実装・設計コストを下げるために、基本的に元となるコードの設計を活かし薄皮のような状態でGUIを被せて作っています。その為にベースとなる「コード」の設計に機能や使い心地が大きく左右されます。

その「コード」も時代とともに進化し続けています。この頃STUDIOの基盤となっているVue.jsにも「Composition API」という新しい設計が導入されていました。

STUDIO Code に、自由にロジックを抽出できるComposition APIの設計を取り入れてみると、なんとユーザーはコードを書かずにロジックを設計できるではありませんか!この時「STUDIO Code」という名前はもはや適切では無くなり、この新機能の名称は「STUDIO Blueprint」に改められました。

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「STUDIO Blueprint」はWebフロントエンドの常識を大きく変える可能性がある新機能だと考えています。この新しい体験を早く皆様にご提供できるよう開発を進めていますので、今しばらくお待ちください。

終わりに

とある日に、みやおかさんとこんな話をしたことがあります。「NoCodeツール」と「ハイブリッド車」って似てますねと。共に過渡期に誕生した複雑性が最大化したプロダクト。にも関わらずこれでTOYOTAは天下を取っているのだから不思議なものです。

私たちは「NoCode」の山を登っている道半ばです。
登った先には何があるのか。

“The best way to predict the future is to invent it.”
「未来を予測する最良の方法は、未来を創り出すことである」
Alan Kay

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長くなりましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。
引き続きSTUDIOをご応援の程よろしくお願いします。

2021年4月27日
STUDIO Inc. CPO / Founder 
甲斐 啓真

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