見出し画像

1年ひきこもって気づいたこと


ときどき、人生は疲れる。
疲れたら、休んだ方が良い。

だから去年は仕事も辞めて
1年ずっと家に引きこもってた。

・・・んで1月。新年。

年が明けたら少し元気になっていたので、
仕方ないからまた人生はじめることにした。

(うおおおおおおお!!!!)


「よおおおおし!!!!人生再スタートだ!!!」

無職!!!!!無収入!!!!!!

やったるぞ!うおおおお!

・・・とは思ったけど、
結局なにすればいいかわからんかった。

しかし、さすが1年引きこもり。
髪ボサボサのクチャクチャ。

(仙人か)

とりあえず『髪』を切ることにした。

なぜか財布に金が無かったので、
床に散らばった小銭を拾い集めて・・・

(わほわほ!)


・・・また人生始めるにあたり、
とりあえず美容室へ行くことにした。

(わっふわっふ!)


そして美容室で髪を洗ってもらっていると、
なんだか妙なことを尋ねられた。



「えっ・・・・交通事故ですか?」


(・・・・・・・?)

(こうつう・・・じこ・・・?)
一瞬、何の話かわからなかった。

(ぶんぶんぶんーん)

で・・・・少し間が空いてから、
(ああ、そうだった)と思い出した。

そういえば私の頭には
大きな『手術痕』がある。

(じげんのさけめ)


つまり美容師さんは私の髪を洗う時に、その手術痕を見て「その頭にある手術痕は交通事故の怪我かなんかですかぁ~?」と尋ねてきた・・というような状況らしい。


ははぁ・・・なるほどなるほど・・・・・

(・・・・・・)

・・・・・・・・・・・聞くなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!

そんなこと初対面の人に聞くなああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!

(手術痕アタック!!!)

・・・・みたいなことは
内心思ったんですけど・・

まぁべつに怒るようなことでもないし。
「えへへ・・」と笑って聞き流した。

(えへへ・・)


一応、私はその「えっ・・交通事故ですか~?」の質問に対して「・・ええ、まぁそうなんです~」みたいな、とりあえず曖昧な返事はした。

まぁ当たり前の話なんだけど、その「曖昧な回答」には「すいません、あまりその話題は話したくないんです~」の意図が含まれている。

当然、この話題はそれで終わりだと思っていた。
・・・・・・ところが・・・・・・・・だ・・


その若い美容師さんはこう言った。
「ええぇ~~~~それウソですよねぇ?」

(ウソってなに・・・)


言われて・・・・ギョッ!!!!!
とした。

(うぼっ・・・)

話したくないから濁しただけ。

でもこの美容師さんにはそれが
どうにも伝わらないらしい。

私がまた「あはは・・」と愛想笑いで返すと、
さらに雑談を楽しんでると思われたのか?

続けて質問をバシバシ投げてきた。

「じゃあどんな事故だったんですかぁ~?」

(おふっ)

「車ですか?はねたんですか?はねられたんですか?」

「酷いけがだったんですか?入院したんですか?」

「もしかして・・・ケンカだったりしてぇ~~~」

(おふっ・・・おふっ)


ちょ・・・まてまてまて・・・・
・・・・うっ・・まってください。


・・・・・まぁ当たり前なんですけど『手術痕』っていうのはその人にとって『辛い記憶』が眠っていることが多いものだから、無暗に尋ねたりはしないほうがいいと思うんですよね。

まぁ私は全然気にはしてないですけど。

・・・だけど!!!そうなんだけど!!!

初めて訪れた美容室で、初対面の美容師さんと「赤ん坊の頃に脳の病気になって頭蓋骨に穴を開けたんですぅ~」みたいなジメジメギトギトした話をしたいとは思わないじゃないですか?!


・・・・という気持ちが
どうも美容師さんに伝わらない。

止まらない質問攻め!!!!
その様子を見て・・・わたしは・・・・

「あれっ?似てるなぁ・・」と思った。

(ぐわんぐわんぐわんぐわん)

たぶんこの若い美容師さんは、
自分の興味が湧いたものへの
関心を止めることが出来ない人だ。

『空気が読めない』
『人の心が、わからない』

それって・・・私と・・・・同じっぽい。

(こーけしーこーけしー)

私が「手術痕についてアレコレ尋ねない方が良い」と理解していたのは、ただ、自分が問題の当事者だったから・・・ってだけ。

他の事だったら、たぶん・・・・
この美容師さんと同じことをするだろう。

だからたぶん、
私たちは「似てる」

(しんぱしー)


・・そしてふと、幼い頃の記憶が蘇った。
思い出すハズがなかったどうでもいい記憶。

あれは小学生の頃・・・・・

同級生に頭の「手術痕」を見られて、
「フランケン」というあだ名を
付けられたことがあったのだ。

(フランケンシュタインの怪物ね)


・・・・それが原因だったかどうか忘れたけど、美容室で「今日はどうしますか?」と聞かれるたび「頭に傷があるので、それが見えないように短くしてください」と答えるようになった・・・・・

美容師さんに傷のことを尋ねられたせいで
そんなことを・・・・・・・思い出し・・・

・・・・・・ハッとした。

・・・・いやゾッとした。

(・・そうだ・・!!!!!!)と。

(おかしい・・・・おかしいぞ!!!)と。

(私は・・・・生まれてから一度も
自分の髪型を変えたことが無い!!)と。

(ほ・・・ほらー・・・・)

いつの間にか、物心ついたころからずっと「髪の毛」とは自分の頭の上にある「巨大な手術痕を隠すためのもの」でしかなくなっていた。

(もっさもっさ)


だから私は人生でほとんど
髪を短くしたことがない。

ずっと変化なく。そのまま。


短髪を強制される『警察学校時代』ですら、わざわざ教官に申請して、少しだけ髪を長めにさせてもらうくらい、それは徹底していた。

小さい頃からずっとそうやって生きてきた。
そうすることが『当たり前』になっていた。

・・・自分の『異常性』に、いまのいままで、
まっっっったく!!!気づかなかったのだ。

ぜんぶ!!!!当たり前になっていた!!!

・・・もちろんだけど大人になるにつれ、周りの人間の誰もが私の頭にある「手術痕」を見たとしても、深く尋ねてきたり、あだ名をつけるようなことはしなくなっていった。

(ときどき視線は感じる)


「・・・・・・・・?」

(でも、誰も何も言わない)


それは周りの気遣い。優しさ。常識。分別。

だからこそ・・だからこそだ!!!

・・・・・・・私も自分の当たり前を
『疑う機会』を持てずに来てしまったのだ。

今日この日までは・・・・・
この美容師さんに出会うまでは。

(おうっおうっ)

当たり前に・・・当たり前として・・・
当たり前・・・・・当たり前・・・・か。

(・・・・これだ!!!!)と思った。

引きこもりから1年。人生の転機。変化。
(ここからはじめよう!!)と思った。

「キョウハドウサレマスカ?」

いつの間にか髪を洗い終え、席に着き、
背後から美容師さんの尋ねる声が聞こえた。


ハッと意識が現実に戻った私は
反射的にこう答えていた。



「じゃあ・・・・坊主で!!!!」

(いったれ!!!坊主!!!!!)

今度は反対に若い美容師さんがギョッとした顔で尋ねてくる。「ええっ・・だいじょうぶなんですか~」と。

うん、大丈夫かどうかは私にも分からない!!!

私の頭から髪の毛がなくなった時、
いったい・・どんな姿になるのか・・?

私も分からない。大丈夫かわからない。
やったことがないからだ!!!!

「バリカンでいいですかぁ~?」と、
尋ねる美容師さんにイエスを返し・・・

・・引きこもり生活1年で伸ばしに伸ばした
長髪がバリバリと刈られていった。

(んーばりばりばり)

少しづつ・・・・少しづつ・・・・
髪の毛がそぎ落とされ・・・・・・

ほんの20分ほどで・・髪は消え。
『手術痕』が剥き出しになった。

365日。24時間。0歳からずっと。
常にすぐ傍にあり続けたハズなのに・・

とても奇妙な話なんだけど・・・・・

私はソレを、ハッキリと目にするのは
生まれてはじめてのことだった・・・

始めて見たソレは・・・・そうだな・・・
例えるなら・・・まるで・・

『巨大なヘビ』が頭の周りをグルッと
這いつくばっているみたいだった。

(うわぁ・・・・・・・・)


・・・・超ド派手!!!!!!!


20センチ?30センチはあるか?
なんて生々しく、超圧巻の傷痕だろう・・・

(これが・・・本当の自分か・・・)

(・・なんかすげーな・・・)

こわっ・・・・ばけものやん・・・
ふ・・・ふらんけん・・・・やん

(まんまじゃん・・・・)


「イ、イカカデスカァ~?」


髪を切り終えた美容師さんが
鏡を持ってお伺いを立ててくる。

「ハーイ!大丈夫です!」と明るく答える。

・・・しかし美容師さんの顔に笑顔がない。
なんだか様子がおかしい!!!!!!

(・・・・・)

髪を切る前はあれほど頭の手術痕についてアレコレ尋ねてきてくれたのに。切り終わって手術痕がオープンになると聞いてこないどころか・・・・・


それどころか・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

目も合わせてくれない。

(・・・・・・・・)


「その手術痕はなんですか?」って聞きけえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!

髪が無くなって見やすくなっただろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお聞けええええええええ!!!!!!

(ドン)

脳の手術2回もやって死にかけ話とか、障害残りそうになった話とか、家が貧乏でリハビリ検査を断念した話とか、特別学級勧められた話とか、私のクソつまらない陰鬱な検査入院生活の話とかを8時間くらいかけてみっちり朝まで語ってあげるからあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!

(ドン)

うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

(手術痕ハラスメント!!)


・・・・・みたいなことは
さすがに思わなかったけど。

チョット寂しくはなった。

(まずいもの見ちゃったな感)

まあ人間って隠してあるものほど興味が湧くけど、オープンにされると「なーんだ」って興味なくなっちゃうみたいな所あるからなぁ・・

(えはは)

美容師さんは最後の最後まで
気まずそうな顔で目を泳がせていた。

(ふふ・・・)

美容師さんは私のむきだしになったこの手術痕を見てどう思ったんだろうか?「気持ち悪い?」「ヤバイ奴?」「怪しい人?」「怖い人?」それとも「可哀そうか?」まぁ・・別に何でもいいだけど。

・・・・思えば私は今まで『人の目』
気にしてばかりの人生だった。

人前でオドオドして、愛想笑いして、
・・で結局みんなから嫌われる。

・・・・・そんな風になったのも、
「この頭の傷のせいもあったのかもな」とも思う。

(オドオド)

私にとってもこの美容師さんにとっても、
この出会いには『学び』があった。

ほら!!、だってこれから『頭に手術跡があるお客さん』が来店したとしても、この美容師さんが「えっ・・・交通事故ですか?!」なんて失礼なことを尋ねることはない・・・と思うし。

(やめとけ)

まぁその方がいいよ。
きっと生きやすい。

お会計を済ませ、美容室を出ると・・・

風の心地よさに気づく。
太陽の暖かさに気づく。

そりゃきっと髪が無いせいだな~

(あーダイレクトに感じる)

生まれて初めて、
頭を坊主にした。

たったそれだけのことなのに、
この心地よさはなんだろ???

人間なんて単純だよ。

・・・・・去年はグズグズ言って1年ひきこもったけど、やっぱ人間は面白いし、新しいことするとワクワクするし、外に出るのっていいなと思えた。

(あたまがスースーする!!!)


それからそれから・・・・『剥き出しになった頭の傷』を毎日鏡でみるようになり、どうにも気になるようになったので、新年早々に病院で知的障害の検査を受けてきた・・・・・・というわけです。

・・・・・残念だけど、結果はまだ来ない。

「遅くても1月末にはご連絡します」と言われてたのに、もう2月になってしまった。コロナの影響で長引いてるのかな????

まぁ・・そのうちくるので、また書きます。

じゃ、またあそびましょう~


おわり

投げ銭して頂けると。とても喜びます。