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「やさしい猫」中島京子著を読んで

NHKのドラマがなかなか進まないので、電子書籍で読んだ。ドラマは本日(7月29日)第5話、最終回が放映された。小説では主人公はクマさんでもなく、妻のミユキさんでもない。娘のマヤちゃんだ、しかも「キミ」に語り掛ける物語だ。「キミ」って読者のこと?と思いながら読み進む。

仙台の災害ボランティアで出会ったスリランカ人のクマさん(クマールさん)とミユキさんは、ミユキさんの買い物の商店街で再会してから次第にお互いが大切な人となり、ミユキさんの病気を機に同棲するようになる。しかし、結婚しようとした矢先、クマさんの勤めていた自動車修理工場が倒産してしまう。そこから、事態は悪化してゆき、クマさんは違法なアルバイトをしたり、就職活動で徒に時を費やしていた。クマさんの事情がようやくみゆきさんに分かりすぐに結婚しようとしたが、スリランカに書類を送ってもらったりして手続きをしているうちに更に時間が経っていった。ようやく結婚はしたもののオーバーステイになり、結婚によるビザの申請のために入管に相談しに行ったところを警察につかまり、入管の収容施設に入れられる。そこでは、法を犯したものとして冷たい処遇が待っていた。この小説はウィシュマさんの死亡事件の前に書かれたものだが、同じように詐病と決めつけられ治療がなされない様子が描かれている。

しかし、上原氏という入管のあり方に疑問を持った職員の人が弁護士を紹介してくれて裁判を起こすことにする。ミユキさんとマヤちゃんはクマさんがどのような状況にいるのか弁護士さんとのやり取りで次第に理解していく。幾度となく仮放免の申請をし、とうとうクマさんは仮放免になり施設から出てこられるようになった。そして裁判ではみんなが力を合わせて、特にマヤちゃんの入管への問いかけが皆の心を動かし、退去命令は取り消された。クマさんは収容期間に発症した病気の手術をして、昔、縁のあった自動車工場に就職も決まり、めでたしめでたしだったが、神様はもう1つ目出たいことをプレゼントしてくれた。ミユキさんに赤ちゃんが授かったのだ。そして「キミ」とは、そのマヤちゃんの弟に語り掛ける言葉だったのだ。執拗で陰険な入管とのバトルの後の「キミ」の誕生には思わず涙してしまった。

この小説は、日本人に日本に居る外国人がどのような立場にあるかを教えてくれるだけでなく、外国人はどのようにしたら法を犯すことなく生きていけるかを皮肉にも入管側の人の裁判での陳述で理解することができる。いろいろな救済措置が知られることなく存在しているということで、必ずしも入管を悪者にしようという小説ではなかった。

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