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息子とエレベーター

入院してはじめて
息子に会える

夫と会いにきてくれた日
15歳以下は病室に入ることができない決まり
小児病棟の外にある
家族面会所で待ち合わせ

当時は病棟に保育士さんがいて
少しの時間見ていてもらえたの

保育士さんに
「息子が会いにきてくれたから少しの間娘をお願いします」
そう言いながら私泣いてしまった
娘も心配だけど
息子に会いたくて
そんな私に
「大丈夫、任せて。息子さんと楽しい時間を」
そんなふうに背中を押してもらったんだった

「おかあさん」
そうニコニコ笑う息子
泣かないようにするのに必死だったな

私の携帯を受け取り
アプリのゲームをはじめる
ふたりで一緒にご飯を食べたり
普段の話を聞いたり

なんでもない様子の息子に
安心しきってた

そうそう
お誕生日に帰ることができないから
娘の付き添いを母に代わってもらって
息子と夫と3人で
ご飯を食べに出かけたときも
変顔写真とって大笑いしたり
ごきげんだった

だから
気がつかなかったんだ

お別れするのは
病棟前のエレベーター
「おかあさん!まったねーー」
そう変な格好をお互いにしながらバイバイする

「あんなに笑って」
私は安心して娘の病室に戻る

でもね
閉じたエレベーターの中では

「おかあさんに会いたい」
「帰りたくない」
そう泣きじゃくる息子がいたんだって
夫も
「泣くな」としか言えなかったって
気持ちが痛いくらいわかるからって

私は気づいてなかった
気づかなかった

それを知ったのはずーーーっと後のこと

見えてなかった
見てなかった
悔しかった
そしてそのことを隠して
私に笑顔を見せ続けていた息子

妹は大きな病気で入院していて
遠慮していたのかな

ショックでした
私は息子の何を見ていたんだろう
どこを見ていたんだろう
なにやってんだろうって

目の前のことが全てとは限らない

そこからの私は変わった
どんなときも
いま、子どもたちはどう思っているんだろう
見えていることだけで決めるのはやめようって

**********

いま
目の前の子どもたちが笑顔でも
抱きしめてあげて欲しい
背中をさすってあげて欲しい
手を繋いであげて欲しい

泣いてる時だけじゃなく

いつだって
子どもたちは
おかあさんが大好きで
その温かな手が大好きで
そばにいてくれるんだからね

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