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近藤等則、没後の出会い

 近藤等則というジャズトランペッターは、1970年代から知っていた。だが、何故か今まで一度もちゃんと聴いたことがなかった。調べてみると、2020年に亡くなっていた。71歳だった。ジャズミュージシャンの訃報があればたいていは記憶しているのだが、何故か読んだ覚えもない。
 70年代は山下洋輔のアルバムに参加したこともあるそうなので、フリーに近い分野で活動していたのだろうか? そんな記憶もある。私はフリーは聴かないので、それでなんとなく敬遠していたのかもしれない。
 それから、90年代から20年ほどアムステルダムを拠点にしていたというから、よけい縁遠くなったのだろう。

 今回、「ELECTRIC TRRUMPET」というアルバムが出て、初めて耳にすることになった。タイトル通り、全編エレクトリック・トランペットの演奏で、前半は晩年に録りためた未発表のソロ曲集、後半は2005年の靑山スパイラルホールでのPIKADONライブの全編収録からなる。
 前半のソロ演奏は、まさに彼の魂の叫びのようでもあり、エレクトリック・トランペットの表現の極致を感じさせる静的な演奏が続く。
 後半は打って変わって、カルテットによるハードな演奏が繰り広げられる。エレクトリック・トランペットといえば、開拓者として1970年代のマイルス・デイビスを誰もが思い浮かべるだろう。本編では、マイルスの75年の来日公演のライブ盤を彷彿させるような演奏もあれば、17年前の演奏とは思えないようなコンテンポラリーな演奏も聴かれる。
 すべてに共通しているのは、彼がエレクトリック・トランペットの最先端を常に突き進んできたというその先進性とテクニック・音楽性の高さだ。
 ちなみに、同じコンセプトからスタンダードにアプローチした2015年の「Toshinori Kondo plays Standards~You don't Know What Love Is」も聴いてみたが、こんなユニークなスタンダード集は初めて聴いた。

 近藤等則というジャズトランペッターが世界的にも高く評価されていることに納得させられた。もっと早くに聴くべきだったと思うと同時に、没後2年近くを経て新たに出会えた喜びに浸ってもいる。
 人は逝っても作品は未だ生き生きとしており、今後も色褪せることはないだろう。



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