ちょっと待ってね
私の仕事先は大手チェーン店の牛丼屋。
毎日色んなお客様が来る。
今日の午後3時頃、親子と思われるお客様が来た。
子の方がもう退職して家にいるんだろうな、というぐらいの方だったので、おそらく70歳ぐらい。なので親はきっと90歳ちかいのではないかな、と思う。
今CMで流れている、うな丼を食べにこられていた。
私の働いている店舗は高齢化の進む町にある。なので、うなぎはこの高齢化の客層にはたいそうウケがいい。毎年うなぎが販売される時を今か今かと待っているお客様も少なくない。
時は午後3時。お店としては暇な時間。
といっても、やることはいっぱいあって、お客様の椅子をクリンリネスしている時だった。
フロアーにいた私に、この親子の会話が聞こえてきた。
「ちょっと待ってね。1回話しを整理しようか。」
そう70歳ぐらいの子、である男性の声が聞こえた。
おそらく親、の方の女性が色々お話しをされていたのだろう。きっと、その話しも錯綜していたのではないだろうか。
そこで男性の言った
「ちょっと待ってね。1回話しを整理しようか。」
どうしてこの言葉に気が止まったかと言うと、とても穏やかな「ちょっと待ってね」だったのだ。
私の知っているこういう時の男性の「ちょっと待ってね」は、もっと勢いがあって、慌てて相手のことを止めようとする感じがする、もっとピリッと感のある「ちょっと待ってね」だった。
"ひごもっこす"という言葉があるくらい、肥後の男性は頑固で、そしてどこか女性に対してリードしなければという気持ちがどこかにあるというか、そういう感じがしていた気がする。
こんなに穏やかに、優しく、決して相手の言葉を遮ろうとしない「ちょっと待ってね」に、とめどない愛を感じたのだ。その親子の関係をこの一言で表しているようで、そしてそこにはゆっくりと時が流れているようだった。
優しく穏やかな低い声の「ちょっと待ってね」。
なんだか魅力的だなぁ、そう感じた。
なんでもない言葉なのだけど、言い方でこんなに優しい気分になるのだなぁ、と感じた。
優しくゆっくりした気分になった午後。
私は相変わらずせかせかと仕事していたけれど、いい日になったな、そう思った。
私もそんな風に優しく言えていたらいいなぁ。気をつけよう、そう思った。
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