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もっと聴きたい・話したい、書いておきたい はじまり

奥出雲に「たたら」をたずねて

 ホテルを出て車に乗り込みナビで「たたら」を検索,候補の中から「たたら角炉伝承館」と「奥出雲たたらと刀剣館」に絞り,歴史がありそうな伝承館をナビに入力,出発した。向かう途中面白そうな建物と怪獣を発見し、寄ってみたが休館日だった。
 ナビが目的地周辺を知らせた。目的の建物が右側にあるのかそれとも左か、わからないまま通り過ぎてしまった。Uターンしてゆるい坂道を登って行くといくつかの建物と広場があった。

入口の看板


溶けた鉄の取り出し口
角炉

 建物内は暗く,入り口には「まむし注意」の張り紙が……。しばらく建物の周りを見学していると駐車広場に軽自動車が1台,中から3人の男女が降りてきて建物に入る。と中が明るくなった。続いて我々も中に入る。男性が一人,女性のうち一人はリクルートスーツだ。ここは自分で照明を点け,帰るときに消していくのだと説明を受ける。
 ここは明治期の鉄炉だった。説明を聞くうち,「奥出雲たたらと刀剣館」のほうが古いことを知る。ここから30分ほどのところにあるそうだが,入館時間ギリギリである。私は教育委員会のものだから,電話を入れておきますと言われ角炉を後にした。
 「奥出雲たたらと刀剣館」に到着,事務の女性が案内係は先程車で出ていったが,戻ってくるというので待つことにした。閉館まで、残り30分である。

+まずビデオ

 案内係の男性が戻ってくると最初にビデオを見てほしいという。先程の教育委員会の後輩と見た。先輩からの電話で呼び戻されたのだろうが、嫌な顔は見せていない。

花崗岩の山を崩し砂鉄を採った後、棚田ができる

 ビデオに登場した外国人の男性のコメントでは、欧米では鉱山の用が無くなると経済的観点からそのままにして次の鉱山を開発する。
 ここ奥出雲では採掘した跡地が棚田になっているという。牛から乳を絞り、馬で木材・炭を運び、彼らのフンから堆肥をつくり、土地を豊かにした。山を区分けし、順番に木を切っては炭づくりに利用した。伐採後は植林。永い時間がかかっただろう。山奥ゆえある意味それしかやれることがなかった。


川で砂鉄を採取

 館外で説明を受けていると軽自動車が到着、先程の3人もやってきた。ちょうど新人研修中なので寄ったという。若い彼女にはこんな客も来るだろうから先輩の対応をよく見ておくといいよと私。
 すでに閉館時間が過ぎている。残業だ。

テレビで観る「たたら造り」の映像は地上部分のみ。水分を嫌う製鉄は地下部分の構造がすごい。炭の配列を変え、何層になっている。実物大。
製鉄に欠かせないフイゴ。初期のフイゴは二人で交互に踏み、風を送る。二人のタイミングが合わず、イライラすることが地団駄を踏むの語源となった。
後期には一人でフイゴを踏むスタイルに。踏む人を「番子」と言い「代わり番こ」の語源。

 館内の案内が終わったとき、時刻は閉館時間を1時間は超えていた。
山奥で制約が多い暮らし、辛抱強く工夫することが循環型社会をつくった。
 昨今話題のSDGs、スローガンが一時的な流行に終わらないことを願う。昔の人は必死に暮らした結果として農業における循環、林業における循環、それらの小さな循環が製鉄から現在の棚田に至る地域の産業、土地利用という大きな変化を生んだ。
 神話の国の人は話し好き、話したいことが沢山あるようだった。

 帰り道、薄暗い路面にサッカーボールほどの丸いものが、ブレーキを踏む、カッカッカッとABSが効く。薄茶色の物体はタヌキのようだ。ゆっくりと体を伸ばし、山の方へ歩いて行った。ドライブレコーダーの記録を確かめたかったが、レンタカーの返却に追われ失念してしまった。

こんなワシに……。