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日本のコーヒーシーンを支え・豊かにする人びと ―Ⅰ―

絵本編集者 栗山 淳(栗山淳編集室 代表)に話を伺う

はじめに

  近年、若い人びとが開業するカフェ、珈琲自家焙煎店が増えている。空き店舗や古民家を自分たちでリフォームして開業、コーヒースタンドとも呼ぶべきテイクアウトに特化した店、3輪自転車に用具一式を積んで街角でコーヒーを提供するなど工夫を凝らしている。各店舗では白あるいは古材を基調に、直線的なデザインですっきりと仕上げている。

カフェ

 コンビニエンス・ストアの雑誌スタンドや書店の飲食関連の本棚にはコーヒーをテーマにした新刊書が並ぶ  注)。

 1996年、スターバックスの上陸からだろうか、海外から進出してきたカフェに客の行列ができている。ある海外系カフェの創業者は来日した際、日本の喫茶文化に魅了されて参考にしたという。若い人はそのようなカフェの経緯を知った上で列をつくっているのだろうか。また、アメリカ西海岸にある有名店の代表は日本の喫茶店店主と出会い、古くからあるその店舗を引き継いだ。彼は日本の喫茶文化に敬意を払っていると語っている。

 「バリスタ」がハンドドリップ?  
ことばの変化に違和感を覚えてしまう。

 最近お会いした、永年珈琲業界に携わってきた先輩方は、総じて控えめで多くを語らず、表に出ようとしない。彼らの貴重な経験を残しておきたい。

 当初、「コーヒー業界を支える人びと」をテーマに据えていたが、「日本のコーヒーシーンを支え・豊かにする人びと」に変更すれば、対象者は業界外にも拡大できると考えた。

コーヒーノキと再会

 2023年 4月、出先での空き時間にいつものように「自家焙煎珈琲店」を検索、近くの店に向かった。そこはある自家焙煎チェーンの本店で、店先にはコーヒーノキの苗が並べられていた。

 私は、これまで 3回コーヒーノキを育てようと試みたが、ことごとく失敗に終わっていた。苗について店員に尋ねると 1年齢とのこと。今度こそとの思いを強くし、4鉢ほど連れ帰った。

 帰宅後、大きめのポットに植替え、ベランダに並べた。太陽光で作動する自動潅水装置も準備した。夏が過ぎ、秋になり室内に移したが、冬支度のために温室を用意し、熱源も考えねばならない。熱風が直接当たらない方法が望ましいだろう、などと考えていた時、「農業 WEEK」なる展示会の開催を知り出かけることにした。

ベランでコーコーノキを育てる

コーヒーノキのオーナー制度
 展示会に向かった目的は温室に関する資料、情報収集だったが、出展ブースのなかには果物の新鮮さを保つ特殊なラップフィルム、網目が浮き出たメロンなどの果物がデザインされた名刺、輸入禁止となった「ナシ花粉」を採取する道具などが展示され、担当者の熱の入った話は興味深い。

 岡山にあるコーヒー農園の展示では、ずばりコーヒーノキがあった。期間が 2年間のオーナー制度で 1口 (本 ) 10万円、とても手が出せない。北海道でバナナを育てることに成功した田中節三氏がその技術「凍結解凍覚醒法」をコーヒーノキに応用したとのことであった。

コーヒーがテーマの絵本が出版されていた

 農山漁村文化協会 (以下:農文協 )のブースで対応してくれた若い営業マンに「コーヒー関連の本はある?」と尋ねると「ありません」との返答。この会話を耳にした先輩と思われる女性が「コーヒーの絵本」があるはずと探し出してくれた。それが、絵本『コーヒー』との出会いだった。

絵本「コーヒー」

 自宅に戻る途中の喫茶店でページをめくってみる。前述のようにコーヒーに関する書籍、雑誌は多数出版されているが、一般書で扱われることの少ないコーヒーノキの育て方が具体的に記載されている。種を撒く前に一晩水につけておくこと、培養土は熱湯で消毒しておくこと、など具体的に書かれているではないか。

知識不足の私が種を植えたポットからは、肝心のコーヒーの種の発芽より先に、白く細いキノコが出現していた。子供向けの本にここまで載っているとは……。

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こんなワシに……。