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育成選手を制限選手にすることは可能か

コラスに次いで、アンディ・ロドリゲス亡命か

ソフトバンクの育成選手でキューバ出身のアンディ・ロドリゲスが亡命した可能性がESPNの記者Daniel de Malas氏によって報じられた。

本当に亡命したか否かは2021年6月6日時点では明らかではないものの、五輪予選のために訪れた米フロリダ州において失踪したことは事実の模様である。ソフトバンク球団は状況を確認している。

ソフトバンク所属のキューバ出身選手では、2020年1月に当時支配下選手であったオスカー・コラスがMLBとの契約を目的に亡命した事例がある。コラスは亡命によってソフトバンク球団との選手契約が履行できなくなったため、ソフトバンク球団は同選手を制限選手とすることを申請し、2020年2月19日にNPBより制限選手として公示された。

制限選手とは

「制限選手」とは野球協約において、選手側の事情によって選手契約を履行できない状態となった選手を、他球団への移籍や移籍のための交渉が一切できないようにする制度である。(野球協約60条(2)・68条(2))

野球協約 第60条 (処分選手と記載名簿)
(2)制限選手と制限選手名簿(レストリクテッド・リスト)
選手がその個人的事由によって野球活動を休止する場合、球団はその選手を制限選手とする理由を記入した申請書をコミッショナーに提出する。コミッショナーが、その選手を制限選手とすることが正当であると判断する場合、その球団の申請は受理され、コミッショナーによりこの協約の第78条第1項の復帰条件を付し制限選手として公示され、制限選手名簿に記載される。
野球協約 第68条 (保留の効力)
(2) 全保留選手は、外国のいかなるプロフェッショナル野球組織の球団をも含め、他の球団と選手契約に関する交渉を行い、又は他の球団のために試合あるいは合同練習等、全ての野球活動をすることは禁止される。なお、保留球団の同意のある場合、その選手の費用負担によりその球団の合同練習に参加することができる。
(4)制限選手、資格停止選手又は失格選手は、この協約の第78条第1項に基づき復帰するまでは、ウエイバーにかけ、又は選手契約を無条件で解除することができない。

コラスは制限選手とされたことにより、2020年2月19日以降、MLB球団と一切の契約交渉を行うことが不可能となった。(2021年12月にNPBから自由契約選手として公示された結果、2021年3月にホワイトソックスとの契約が報じられたが、亡命からMLB球団との契約までに1年以上のブランクを経ることになった。)

このように制限選手とは、選手側の都合により契約を一方的に破棄した場合に、選手が他球団に移籍することを制限するものである。実質的に、契約破棄の罰則として機能するものと解することができる。

アンディ・ロドリゲスを制限選手とすることは可能か

アンディ・ロドリゲスが現時点では亡命したか否かは明らかでないものの、球団も連絡がつかない状態であり、ソフトバンク球団との選手契約を履行できない状態となっている可能性が高い。このため球団は、コラスのケースと同様に、アンディ・ロドリゲスを制限選手とする選択が思い浮かぶ。

しかし、支配下選手であったコラスと、育成選手であるアンディ・ロドリゲスのケースでは、様相が異なる。

野球協約は、育成選手の制度を下記のように規定している。

野球協約 第208条 (構造改革の特例)
(1) 育成選手制度及び研修生制度を新たに設ける。これらの選手については、この協約の各本条の規定を適用せず、別に定める「日本プロ野球育成選手に関する規約」、「日本プロ野球研修生に関する規約」による。

野球協約208条は育成選手は野球協約の規定を適用しないと定めており、「日本プロ野球育成選手関する規約」(育成選手規約)にも、制限選手に関する規定は一切ない。育成選手規約には野球協約を準用するというような規定も存在しない。このため、制限選手の制度を定めた野球協約の条項は適用されないと解することができる。

一方で、「日本プロ野球育成選手統一契約書」(育成選手統一契約)は、23条で球団・選手双方に対し野球協約およびそれに付随する規程に従うことを認諾させるとしている。この文言だけを取り上げると、野球協約の制限選手に関する規程を適用することは可能と解することができる。

育成選手統一契約書 第23条 (規約および協約と裁決)
甲と乙は、本契約および関係する野球協約およびこれに付随する諸規程ならびに育成選手規約等を承認し、かつこれに従うことを承諾し、さらに野球協約により選任されたコミッショナー指令と裁決に服することを認諾する。

野球協約は、育成選手は野球協約の規定の対象外とする一方で、育成選手統一契約は野球協約に従うことを求めている。規定が相互に矛盾しており、育成選手を制限選手とできるか否かは、規定の文言を字義通り読んでも明らかではない。

しかし、育成選手統一契約第25条で、契約保留選手の公示手続きと登載名簿が支配下選手と区別されていることから、公示が関係する制限選手の規定も育成選手には適用されないという見解がある。

日本プロ野球育成選手統一契約書
第 25 条(契約の更新)

甲が乙と次年度の育成選手契約の締結を希望するときは、本契約を更新することができる。
② 甲は、次年度も育成選手(支配下選手移行予定者を含む)としての契約する意思のあるときは、育成選手保留者名簿に登載し、10月末日までに育成選手規約の定めるところによって開示するものとする。
③ 前項の名簿に登載されなかった者については、自由契約選手となり、開示の翌日(11 月 1 日)からいずれの球団とも支配下選手または育成選手として契約できるものとする。

結語

現在野球機構部外者が参照可能な規定を準用して解釈すると、育成選手を制限選手とすることはできないと理解することが有力な解釈であると考えられる。

一方で野球協約と育成選手統一契約で相互に矛盾する規定が存在していることから、育成選手を制限選手など処分選手に指定することを当初から想定していなかったことも考えられる。育成規約に定めのない事項として、実行委員会において、対処が別途決められる可能性もあると考える。

育成規約 第13条 (補充)
育成選手に関し、本規約に定めのない事項について、野球協約の趣旨に従い実行委員会の定めるところによる。



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