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NPB:観客数制限の球団経営への影響を推計する

7月10日から観客が入るようになった2020年のNPB。観客数が制限され、応援も声を出せないなどの制約はありますが、やはり観客がいた方が盛り上がりますね。本来であれば、8月以降は20,000人まで観客を迎える計画でしたが、感染拡大が収まらないために、8月いっぱいは観客数を5,000人までに制限して試合が行われます。この状態はいつまで続くのでしょう。。。

状況が改善しなければ、球団経営への影響はより大きくなっていきます。どれくらいの影響が想定されるでしょうか?

1か月でどれだけの観客が訪れたのか

8月10日までの観客数を、NPB公表の数字で集計したものがこちらです:

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「充足率」は5,000人の制限に対して、実際に球場に足を運んだ観客の割合です。DeNAやヤクルトは99%を超えています。レギュラーシーズンとしては異常値と言っていいほどの高水準です。

※ソフトバンクに関しては、7月10日は1,500人・7月11日は2,500人の観客を、ファンクラブ会員を抽選で無料招待との発表でした。しかし蓋を開けてみると実際の観客数はそれぞれ、1,839人と3,419人。来場できない人がでると見込んで、多めに当選を出した結果のようです。上表ではこの2日間については除外指定、平均観客数・充足率を計算しているため、差異が生じています。

この表は2019年全試合の定員充足率と、2020年8月10日までの比較です。

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※2019年の充足率は私が計算したもので、正確性の保証はできかねます

多くの球団で昨年よりも高い充足率になっていますが、これはロイヤリティの高い観客がチケットを入手したことによるものと想像します。

日ハムに関しては昨年の充足率とほぼ同じような結果です。また楽天は大きく数字を落としています。この辺の理由がどこにあるんでしょう。。。
一部日程では政府の指針である5,000人を下回る数のチケットしか販売しなかったという可能性もあります。

観客数制限が続くと、年間観客数はどうなる?

さて、観客数5,000人の制限は8月いっぱい続くことになっています。9月以降については、感染状況を考慮して8月末ごろにNPBが決定する見通しです。

この状態が続くと、2020年シーズンの観客数はどのくらいの数字になるでしょうか?ネガティブ・ポジティブのシナリオで推計してみましょう。

シナリオ
(1)ネガティブ:最終戦まで5,000人制限を継続する場合
(2)ポジティブ:8月いっぱいは5,000人制限・9月以降は20,000人制限
条件
それぞれの場合において、8月10日までの定員充足率が継続するものとする

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(1)にせよ(2)にせよ、2019年比の下落率をみると、経営者の方はパソコンの画面をそっ閉じして現実逃避したくなるような数字です。

球団の業績への影響は?

観客数の減少により、1年間の球団の業績にはどのような影響が生じるでしょうか?広島・オリックス・ソフトバンクについて、推計してみましょう。

推計前提
① チケット収入が、観客数の減少割合と同じ割合で減少するものとする
② チケット以外の収入は、16%減少する(野村證券「2020~2021 年度の企業業績見通し」のサービス業の減収予測より)
③ 下記の年度の売上高・売上構成比が、コロナウイルス感染拡大の影響がなければ2020年も同一の結果となるものとする
・ 広島は、2019年度の売上高・売上構成比に対して
・ オリックスは、2018年度の売上高・売上構成比に対して
・ ソフトバンクは、2019年度の売上高に対して。2019年度の売上構成比は不明なため、2001年度の構成比がそのままあてはまるものと仮定

上記の推計前提をもとに、先ほどと同じ下記のシナリオで推計します。
(1)最終戦まで5,000人制限を継続する場合
(2)8月いっぱいは5,000人制限・9月以降は20,000人制限
※グラフの内訳は、上から「チケット収入」「グッズ収入」「その他」

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売上の3分の1以上を占めるチケット収入が大きく減少することにより、どちらのシナリオでも総売上高が40%程度落ち込むことになるという推計です。

チケット以外の収入は、16%減少という数字を使っていますが、グッズや飲食物は、球場に来場した観客が購入する割合が相当程度あると考えられるため、実際にはもっと落ち込むかもしれません。
各球団とも従来場内でのみ販売していた飲食物をデリバリ販売したり、場内でのボード掲出権を売るなど工夫をしていますね。収入の柱であるチケット収入の大きな剥落をどれだけ補えるでしょうか・・・

観客数制限のその先に…

売上が大幅に下落する一方で、支出はどうでしょうか?選手の年俸を削減する話はまだ出ていませんし、球団が職員のレイオフを行ったという話も聞きません。年間試合数が23試合減少するため、試合の実施経費は減るでしょう。また移動が少ない日程が組まれているため、移動の経費も減るでしょう。一方で、選手らの定期的なPCR検査や、観客の検温など、感染防止対策を実施することによる経費が増大することから、支出の変動はあまりないものと想像します。

収入は大きく減る一方で、支出は落ちない。
そうなると球団経営者としては、今年度の経費増大を、鉛筆一本単位で死ぬ気で抑えつつ、かつ来年度以降の支出を抑制することを考えるでしょう。手元資金がないんだから。
来季の選手年俸についても、上昇を抑制もしくは減額することも当然の選択肢に入ります。交渉が折り合わず、あなたの贔屓の選手が、贔屓球団から去るかもしれません。ドラフトで採用する選手の数を減らすかもしれません。
また大幅な赤字により、親会社が球団の経営を支えきれなくなるかもしれません。例えば鉄道会社はこれまで、安定のインフラ企業と認識されていたわけですが、コロナ禍では逆に業績を大幅に悪化させています。鉄道会社でない親会社も、経済環境の急速な悪化にさらされています。今すぐにどうこうということはないかもしれませんが、遠くない将来に親会社の赤字の穴埋めのために球団を手放すことがないとも言えません。

最悪のシナリオばかり想定していますが、野球ファンとしては、そのようなことにならないことを願うばかりです。
この最悪のシナリオを少しでも回避する方法は、チケット収入を少しでも増やすことかと思います。これには感染拡大を鈍化させるしかありません。拡大防止のための習慣・行動を心がけようと改めて思う次第であります。
また、グッズを買ったり、ファンクラブ会員を継続したり、少しでも球団にお金を落としてあげたいなと。10万円の給付金も手元に入りましたしね。

あ、私は贔屓の選手のレプリカユニフォームを買いました。
あのユニフォームを着て球場に行ける日が早く来ますように。

Footnote:引用元などは下記のとおりです

・野村証券「2020~2021 年度の企業業績見通し」は下記のリンクより
https://www.nomuraholdings.com/jp/news/nr/nsc/20200609/20200609.pdf
・上記の業績予測で使用した元データの詳細は、下記のエントリに記しています。

・ソフトバンクの7/10・11の観客数について

・今季の選手年俸に関して


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