見出し画像

日ハム「ノンテンダー」案件:これまで経過と少しの所感

日本ハム球団から3選手が「ノンテンダー」となった件について、これからの論考と議論の参考資料にすることを目的に、これまでの経過と一次資料・関係者の証言と発言のまとめます。あとちょっとだけ所感を。

日本ハム球団「ノンテンダー」発表

2021年11月16日、日本ハム球団は当時同球団に所属していた西川・大田・秋吉の3選手について、「ノンテンダー」とし、保留手続きを行わないことを発表した。

海外フリーエージェント(FA)資格を取得している西川遥輝選手、国内FA資格を取得している秋吉亮投手、大田泰示選手とFA資格について協議した結果、2022年度の契約を提示せず、野球協約第66条の保留手続きを行わないこととなりましたので、お知らせいたします。

稲葉篤紀GMコメント
3選手と来季以降のプレー環境について協議した結果、選手が取得した権利を尊重し、ノンテンダーとすることを選択しました。選手にとって制約のない状態で、海外を含めた移籍先を選択できることが重要と考えた結果です。昨年も、ノンテンダーの村田透投手と再契約した例があるように、ファイターズとの再契約の可能性を閉ざすものではありません。

FA資格取得選手との交渉について
北海道日本ハムファイターズウェブサイト 2021/11/16

「ファイターズとの再契約の可能性を閉ざすものではない」としたものの、結果として3選手ともに同球団と再契約はせず、他球団と契約した。再契約に至らなかったことについて、同球団の稲葉GMは下記のようにコメントした。

「もちろん、ノンテンダーというのはそういう意味なので、再契約も含めてという考え方ではいたんですけども、最終的にそういう形にならなかったというところです」

日本ハム・稲葉GMが秋吉の独立リーグ入りに苦しい胸の内明かす「たぶん悔しい思いをしていると思う」
東京スポーツ 2022/1/31

プロ野球選手会の反応

選手会は同年12月6日開いた、同会大会において日ハム球団の「ノンテンダー」に対する懸念を表明した。

この大会で最も焦点となったのは、このオフに立て続けに起こっている契約更改に関するトラブルと、その根本的原因となる現在のプロ野球選手の保留制度についての協議です。
大会にあたっては、事態を看過できないとする事務局長森忠仁から、異例の「事務局長所感」が発表され、事務局が抗議文を送付したばかりの、ロッテが契約更改を一律25%ダウンからスタートすると説明したケース、FA権を持つ日本ハムの3選手がノンテンダーの名のもとで自由契約とされたケース、巨人で多数の支配下選手が育成契約に切り替わったケースなどに懸念を示しました。

定期大会・通常総会が行われました
日本プロ野球選手会オフィシャルサイト 2021/12/7

また2022年1月17日に行われた選手会とNPBの事務折衝においても本件を取り上げた模様で、対外的に懸念を表明したのはこれが初めてである。

このシーズンオフには日本ハムがフリーエージェント(FA)権を持つ選手を自由契約とし、巨人が多くの支配下登録選手と育成選手として契約し直した。選手会は契約交渉での選手の立場が弱いことがこうした対応を生んでいるとして、制度の改善を目指す意向。

広島・会沢新選手会長、NPBとの事務折衝に初出席「いい方向に行けるようにしていければ」
サンケイスポーツ 2022/1/17

そして1か月半以上経過した2022年3月7日に突如として日ハム球団に抗議文を提出した。下記が抗議を行ったことを伝える記事からリリースを引用したものである。

 そもそも日本のプロ野球界においては、自球団のみとの契約交渉に著しく長い期間拘束される保留制度により、多くの選手は他球団と交渉すらできずに、自由契約となり、プロ野球界を去ります。またFA資格を有したとしても既に高年齢になっていることあるいは補償制度が存在することなどFA権行使に関する極めて大きな障害があるため、選手の他球団への移籍はほとんど起きません。支配下登録人数にも上限があります。
 したがって、選手の移籍市場は極めて限定されており、唐突に自由契約を告げられた選手が移籍先を見つけるためには、限られた登録枠に入るため、大幅な年俸減を受け入れるなど、選手としての価値を著しく下げざるを得ません。事実、本件球団から自由契約になった2選手は、公開されている推定年俸によれば、プロ野球協約で定められた減額制限を超えて減額された参稼報酬でしか契約することができず、もう1選手については、NPBの球団と契約することすらできませんでした。
 上記の事実が示すとおり、本件球団の行為は、保留制度の影響により、本件球団が発表したような『選手が取得した権利を尊重』するものでもなければ、『選手にとって制約のない状態で、海外を含めた移籍先を選択できる』状況にもなく、単に選手の価値を一方的に下げるものです。そこで、当会は、本件球団が今後、選手の価値を一方的に下げるような態様で選手を取り扱うことを控えると共に、このような行為をノンテンダーなどと称し、選手やファン、社会一般に誤解を与えることがないよう、厳重に抗議しました。

日本プロ野球選手会が日本ハムに抗議文 3選手の“ノンテンダーFA”で
デイリースポーツ 2022/3/7

 『3選手とプレー環境について協議した結果』などと発表していましたが、当会がヒアリングを行ったところ、本件球団から事前の予告もなく一方的に契約をしない旨を伝えられたに過ぎず、プレー環境について選手の意向を聴いたり、これについての”協議”をしたような事実はありませんでした。また、本件球団からの再契約の条件提示など、再契約の意思やその可能性も伝えられたこともありませんでした。このような事実と異なる経緯を発表したことも、選手当人や本件球団に現在所属する選手との信頼関係を損ねるだけでなく、ファンや社会一般を裏切る行為であることから、当会は、本件球団に対し厳重に抗議しました。

プロ野球選手会が日本ハムに抗議文「ノンテンダー」と称し事実と異なる発表と主張
スポーツ報知 2022/3/7

チームの編成も終わっているこの時期に抗議を行った理由として、選手会はTwitterで理由を説明した。

日ハム球団の反応

選手会からの抗議文に対し、日ハム球団は川村球団社長名でコメントを発表した。

「一部で報道されている通り、本日、日本プロ野球選手会から文書を受け取りました。文書内では、今回のFA選手への対応を含めた当球団の対応についていろいろ指摘されていますが、誤解や誤認も複数あるように思われ、当球団としてはまず選手会に必要な確認と説明を行いたいと考えております。また、当球団はこれまでも決められたルールを遵守してきておりますが、選手会と球団とはそもそも立場の相違があり、同じ物事であっても、その見え方はどうしても違ってくる面があります。そのため、書面でやりとりするよりも、丁寧に話し合うことが大切だと考えており、上述の必要な確認、説明も兼ねて、選手会に対し本件について一度話し合いの場を設けましょうと提案する予定です。過去に選手会との対話を閉ざしたことがないにもかかわらず、今回、選手会から何の事前の話し合いの申し入れもなく、突如としてこのような文書が当球団宛に送られてきたことは誠に残念ではありますが、当球団としては誤解や誤認が生じないよう引き続き努めてまいります」

日本ハム「ノンテンダー」選手会抗議文にコメント「誤解や誤認複数ある。一度話し合いの場を」
日刊スポーツ 2022/3/7

選手会と日ハム球団の協議


2022年3月18日、選手会と日ハム球団が協議を行った。協議後に日ハム球団は下記の発表を行った。

今週、日本プロ野球選手会と話し合いの場を設け、昨年11月16日に当球団が公表したフリーエージェント資格取得3選手に関する取り扱いについて、当球団の考え及び経緯を説明し、選手会からの文書で指摘されるような『選手の価値を一方的に下げる』意図など当球団には一切なかったこと、当球団は決められたルールを遵守していることを説明いたしました。その上で、選手会からの要望を真摯(しんし)に受け止め、選手やファンに誤解を与えることがないよう『ノンテンダー』という用語は今後使用しないことを伝えました。当球団は、今回の件を誠実に受け止め、誤解や誤認が生じないよう引き続き努めていく所存です

日本ハム「ノンテンダー」という用語は今後使用せず 選手会と認識を確認
日刊スポーツ 2022/3/18

論点

選手会のリリースから判断すると、下記の2点が論点であると考えられる。

① 「ノンテンダー」は「選手の価値を一方的に下げるような態様で選手を取り扱う」行為であるのか?
② 通告に当たって球団は誠実に対応したか?

①について:日ハム球団の対応は野球協約66条に則って再契約を行わない対応を行ったものであり、手続き上は何らの誹りを受けるべきものであるとは考えられない。抗議の論理としては、かねてから選手会が主張している保留制度の見直しが背景にあるものと想像される。保留制度の是非は一球団と協議すべきものではなく、日ハム球団のみに物申すことは失当ではないだろうか。

一方②について、球団が選手と「協議」したとするのは誤りであるとする選手会側の主張であるが、大田・秋吉両選手もメディアに対して通告は唐突であったとの証言を行っている。また再契約の条件提示もなされていないとしている。これに対し球団側は「誤解や誤認も複数ある」としており、どのような説明を行うのか注目される。

大田泰示
「びっくりしたのが正直なところでした。プロ野球選手である以上、こういうことはついて回るものだと思うんですけど、前触れもなく、いきなり契約をしませんと言われたのは初めてだったので衝撃を受けましたし、かなり動揺しましたね。」

DeNA大田泰示「簡単にわりきれるものではなかった」
web Sportiva 2022/2/27

秋吉亮
昨年11月16日、日本ハム・稲葉篤紀GMから来季の契約を提示せず、自由契約とする旨を伝えられた。10分弱の会談を終えた時には「前日に『スーツで来てください』と言われた時点で、薄々勘付いていました。だから『うわ、やっぱりきたか』というくらい」と動揺はそこまで大きくなかった。

NPBオファーなく「ショックでした」 秋吉が明かすノンテンダーから独立L入りまでの胸中
Full Count 2022/2/5

さいごに(どうでもいいこと)

選手会はシーズンが始まる直前の3月上旬という時期に唐突に抗議を行ったが、秋吉はNPB球団との再契約もならないなど、抗議を行うことによっても直接の当時者である当該選手が救済されていない。抗議そのものが遅きに失している。また日ハム球団の行為を問題視するのであれば、水面下での接触やショーシャルメディアを使った世論喚起などもできたはずであろうがそれも行っていなかったようである。
一方の日ハム球団も、自由契約のプレスリリースにおいての稲葉GMのコメントしか公式に発信しなかったこと、抗議文に対するコメントの最後の一文においていささか喧嘩腰で反応したことなど、対応に疑問が残る。
双方ともに広報のまずさが目立つ。広報の仕方一つで手に入れられるものも失うものもあることを確認すべきではないか。

(2022年3月18日追記)
3月18日協議後の日ハムのリリースでは、球団側が改めるとしたのは「ノンテンダー」という用語を用いない、という一点のみである。選手会が問題とした選手の価値を一方的に下げるような扱いや誠実な対応には何ら応えていない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?