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プロ野球オールスター:出場辞退と欠場

2021年のオールスター試合では、田中将大・浅村栄人・近藤健介の3名が欠場することが、NPBによって試合当日に発表された。(NPB発表文

オールスターへの出場を辞退すると、オールスター明けの試合から10試合に出場できなくなることはよく知られているが、この3選手の場合はどうなるだろうか。

野球協約のオールスター辞退に関する規定

オールスター試合への出場を辞退した場合、オールスター明けの試合から10試合自動抹消する、という内容は野球協約の86条に規定されている。

野球協約 第86条 (出場選手の自動抹消)
オールスター試合に選抜された選手が、オールスター試合出場を辞退したとき、その選手の出場選手登録は自動的に抹消され、所属球団のオールスター試合終了直後の年度連盟選手権試合が10試合を終了する翌日まで、再び出場選手登録を申請することはできない。オールスター試合前から出場登録を抹消されていた場合も同様の扱いとする。
ただし、①脳震盪特例措置による登録抹消期間が、オールスター試合期間と重なり、オールスター出場を辞退した場合は対象としない。②また、故障により、年度連盟選手権試合の出場登録をオールスター直前の試合まで抹消され、オールスター出場を辞退した場合、その抹消期間中の試合数を上記10試合から差し引くものとする。

なお、但し書きの部分は2019年の改訂から追加されたものであり、10試合の自動抹消というペナルティを課す条件は以前より緩和されている。

3選手への適用は

協約86条を素直に読むと、2021年のオールスターに出場しなかった3名は、オールスター明けの試合から10試合は出場選手登録ができず、出場できない。

しかし、田中将大・浅村栄斗の2名は新型コロナワクチンの接種後の副作用と思われる体調不良によるものであると報道されている。

協約86条に関して、「オールスター特例2021」という特例規定が2021年限定で制定され、コロナウイルス感染症の影響により出場辞退をした場合には、自動抹消の対象外としている。

野球協約 第86条(出場選手の自動抹消)
オールスター試合に選抜された選手が新型コロナウイルス感染症の影響により出場を辞退した場合は対象としない。
外国人選手が自国オリンピック代表に選出され出場を辞退した場合は対象としない。

「新型コロナウイルス感染症の影響」は当該選手が感染もしくは濃厚接触者となったのみに限らず、ワクチン接種に伴う副反応による体調不良にも適用されることとなっている。

このため、田中将大・浅村栄斗の2名は自動抹消されないものと考えられる。

近藤健介については「胃腸炎」と公表されており、特例2021の適用はなく、自動抹消されると考えられる。

〝辞退〟ではなく〝欠場〟

しかし、田中将大・浅村栄斗・近藤健介の3名は2021年オールスター2試合において、ベンチ入り選手として名簿に登載されており、出場しなかったという扱いとなっている。

第1試合 ロースター ・ 投打成績
第2試合 ロースター ・ 投打成績

この扱いを表すように、NPBのリリースには〝辞退〟ではなく、〝欠場〟と明記されている。

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過去の例においては、〝辞退〟とされ、協約86条の適用が明記されている。

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これらの扱いから、田中将大・浅村栄斗・近藤健介は〝欠場〟したのであり、協約86条のいう〝辞退〟ではない扱いとなっていると考えられる。

〝辞退〟と〝欠場〟の違い

〝欠場〟した場合には、何らのペナルティもないのであろうか。

オールスター開催要項の「選手起用」は、選出された選手は2試合を通じて必ず出場させる必要があるとしているが、出場させなかった場合へのペナルティは設けられていない。

ファン投票により選出された選手は、投手を除き2試合とも9回終了までに必ず出場させなければならない。また、ファン投票で選出された投手およびファン投票以外で選出された選手は、2試合を通し必ず出場させなければならない

「出場させる」主体はオールスターのチームの監督である。出場選手登録された選手自身には起用に関して何らの義務付けもされておらず、出場しなかったことによるペナルティも定められていない。出場させなかった監督に対するペナルティも同様に定められていない。

従って、欠場した3選手には何らのペナルティも課されないものと考えられる。

蛇足であるが、同要項は選出された選手が出場を〝辞退〟した場合には代替となる選手を選考することを認めているが、試合当日以降の補充は認めていない。

選抜された選手のうち、怪我などにより出場不可能となり、試合出場に支障が生ずると認められた場合は、コミッショナーの承認を得て出場資格者の中から補充選考することができる。ただし、オールスターゲーム開始日以降の補充は認めない。

当日の〝欠場〟では補充選手の登録が不可能という点が〝辞退〟との違いであるが、当日の発表で補充選手を調達することは極めて困難であろうから、当然の差異と考えられる。

自動抹消回避のための〝欠場〟も可能?

辞退と欠場に対するペナルティの有無の差は、協約86条の自動抹消を回避するために悪用することもテクニカルには可能である。

例えば、オールスターに選出された選手が軽度の怪我などによりオールスター戦への出場を回避したい場合に、選出を回避したい理由を伏せて、試合当日までの〝辞退〟を表明せず、試合当日に〝欠場〟とすれば、協約86条の自動抹消を回避することができる。

〝辞退〟を避けたい選手の所属チームの監督がオールスターでも監督を務めていれば、10試合の自動抹消という罰則を回避するために〝欠場〟を選択することは容易であろうと推測される。〝欠場〟を選択することによるペナルティも一切存在しないこともその誘因になると考えられる。

なお今回のように〝欠場〟した例は、2007年のオールスタ―で発生している。千葉ロッテの早川大輔は、出場選手として登録されながら、実際には試合に出場することはなかった。(2007ガリバーオールスター
早川大輔は同年のオールスター直前の7月18日の試合において負傷したため、〝欠場〟したとされる(Wikipediaの記述による。ソース記事募集中)。早川大輔が〝辞退〟していれば公式戦再開後10試合に出場できないが、〝欠場〟であったため公式戦再開後6試合目にあたる同年7月29日の試合に出場している。

協約86条の存在意義

10試合の自動抹消というペナルティは、オールスター試合への出場辞退を安易に出場を辞退することを防止するものであると考えられる。10試合の自動抹消となれば、辞退する選手の出場選手登録日数に影響するだけではなく、所属する球団のチーム運営にも影響があり、安易に辞退させないように選手を管理するインセンティブを球団に与えている。

オールスター試合は野球機構という法人にとって数少ない収入源であるため、商品価値を棄損しかねない選手の不出場を防止するための規定であろう。しかし、いわば祭事であるオールスターへの辞退に対し、10試合の自動抹消ペナルティとしては過大とも思われる。診断書を提出した場合にはペナルティを課さないなど、一層の緩和を望みたい。

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