2022年の12曲 [前編]
はじめに
2022年が残り1ヶ月で終わる、もうそんな時期になってしまいました。季節外れのワールドカップ、Spotifyの年間まとめ、若干ちらつき始めた雪、グリークハウスの前の巨大なクリスマスツリー。例年とは違った形で年の瀬を感じています。それにしても今年は、私が生まれてから、他のどの年よりも充実した一年になったと思っています。
個人的な出来事としては、5月から1年間の留学のためにアメリカへ渡ったことが何よりも大きいです。今まで薄らぼんやりと「やってみたいなー」と思っていたことが目の前に具現化した、とでも言うのでしょうか。慣れない環境での生活、文化、食事等々。今まで海外に旅行に行ったとしても、それは「異文化の体験」でしかなかったのですが、流石に一年の滞在ともなるとその異文化は日常になってきます。知らない酒を覚えたり、ノリで髪に2度ブリーチをかけてみたり、中身は変わっていないと思いつつも、少しずつ変わってきているのかもしれません。
さて、ここからの内容は、2022年を振り返って作成したプレイリストについてです。後々私と友人のユーカリさんが主催するポッドキャスト(これも今年始めました)『音楽からはじまる』で話していくのだろうと思いますが、ひとまず自分の書き言葉でまとめる場が欲しかったので書いています。
しかし、そもそもなぜプレイリストなんて作るのか。その選定基準は何なのか。誰向けの、何を目的にしたプレイリストなのだろうか(この問いは先日ユーカリさんに見せてもらった彼の卒論の内容に起因します)。
とどのつまり、私がプレイリストを作る目的は「自己満足」です。ただ、敢えてそれらしい理由をつけるのであれば、それは「感情のアーカイブ」とでも呼ぶのだと思います。
今、ここで考えていることは、どうせ後で忘れます。それがいかに大事だと思っていても、です。しかし、何らかの形で目に見えるものに、後世に検証可能な形で残すことは、意味があります。それは先史時代の洞窟絵画でもいいし、高架下に描かれた落書きでもいい。何かしらの記録が残る、あるいは記録を残す、ということはそれだけで意味のある行為だと私は思っています。
というわけで、私は今の私の記録を残します。一応今回は、「2022年の12曲」と題してみました。10曲の方がキリが良かったのですが、選びきれなかったので2曲増えました。
そして選定基準は、以下です。
2022年にリリースされた曲であること。
繰り返し聴いたこと。
自分の琴線に触れる部分があったこと。(特に自分の体験に結びついていたりすると強い)
1と2は、客観的事実によって分かるのですが、3が一番アバウトで一番重要です。しかし今回のこのnoteの試みは、むしろこのアバウトな3を言語化しようとするものでもあります。
2022年『Spotifyまとめ』
今年の5月あたりにApple MusicからSpotifyに乗り換えたので、完全に1年をまとめた形ではありませんが、こんな感じです。
2022年の12曲(リスト)
1. ミラーチューン/ずっと真夜中でいいのに。
まさにこれは、自分の体験に結びついています。
今年の4月17日、ずっと真夜中でいいのに。のさいたまスーパーアリーナで行われた単独公演『ZUTOMAYO FACTORY「鷹は飢えても踊り忘れず」[day2 “ob_start”] 』に行ってきました。
元々ずとまよの楽曲は好きでしたが、ライブに行ったのはこの時が初めて。チケットを取ったきっかけは完全に「ノリ」でした。残り一ヶ月で日本を離れてしまう状況下、行けるうちに少しでも行きたいと思ったライブには全て行きたい!というマインドが働き、公演の1週間前にギリギリ残っていたチケットをゲットしたのでした。
公演自体は本当に素晴らしく、私自身も踊り狂ったのですが、ライブ終盤で演奏された(当時の)最新曲、『ミラーチューン』の多幸感は特に印象的でした。ACAねさんが放つ大サビ終わりの「ミラーチュン!」で心臓を撃ち抜かれた人は私だけではないはずです。音源には入っていませんが、そのライブアレンジはSpotifyの5周年プロジェクト "Go Stream" 内で観れます。
2. BADモード/宇多田ヒカル
多分今年最初にどハマりしたアルバム。そもそも自分の中では2016年リリースのアルバム『Fantome』辺りから知り始めて、代表曲くらいは知っているレベルのハマり方でした。しかし、コロナ期間にエヴァンゲリオンを全て観て、2021年満を辞して新劇場版の最終作である『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』が公開されてからというもの、自分の中での重要性がぐんぐんと上がっていくアーティストになりました。特にやはり、劇場で聴いた『One Last Kiss』、『Beautiful World - Da Capo Version』は自分の中でも大きな音楽体験だったはずです。大きな物語の完結に立ち会えたという充実感と、そこに優しく寄り添う歌声。昨年はシンジくんの顔が写ったEPを繰り返し聴いたことを覚えています。
さて、『BADモード』について。
宇多田ヒカルが出演していたNHKの音楽番組『ライブ・エール』内でのインタビューで話していたことが自分の中では印象的でした。
これは私の個人的な話ですが、ここ2~3年で随分と人に頼れるようになってきたと思ってるんです。高校にいるうちは、学業で人の優劣が決まる、言わば個人間の競争の中にどうしようもなく巻き込まれてしまっていて、その中では何はともあれ自分の力で解決するしかない、と言う環境でした(もちろんその中で人に助けを求めたり、助け合ったりしている人もいたと思うけど、当時の私にはその余裕はなかった)。それでも大学に入って、そうしたしがらみから取り敢えず解放されてみた結果、何というか、肩の力が良い感じに抜けたんです。
「ああ、ちょっとこれは自分1人じゃキツそうだな、あの人に頼ってみるか」
とか、
「本当に今回は助けられたな、今度は自分が何か出来ればいいな」
みたいな感じ。
アメリカに来てからはより顕著で、当然慣れない生活環境や言語環境において、そもそも人に頼らなければやっていけないんです。人に頼まなきゃウォルマートにすら行けない。優等生の作文みたいになるのは嫌だけれど、そうやって純粋なる善意を受け取り続けていると、いつか自分も純粋なる善意で応えてあげたい、と思うようになりました。
それって多分、
ってことだと思うんです。
3. たまらない予感/奇妙礼太郎
奇妙礼太郎を知ったのは、2016年のバナナマンライブ『腹黒の生意気』で彼の歌うザ・フォーク・クルセダーズのカバー『悲しくてやりきれない』が使われたことがきっかけだったはず。
今年の夏、フジロックのYouTube配信で奇妙礼太郎を観ていました。ありきたりな表現になってしまうけれど、こんなにも、救われる声があるのか、と久しぶりに聴いて実感しました。歌詞が声になって、その音の波が力を持ってより高い次元の何かへ昇華されているような。
この人が「What a Wonderful World!!」と歌って仕舞えば、もう世界は素晴らしいものになる。そんな感じです。
時々、「歌うために生まれてきた」みたいなキャッチフレーズがシンガーに対して用いられることがありますが、奇妙礼太郎はそんな1人だと思っています。誠に勝手ですが。
4. crushed.zip/Superorganism
「Superorganismが2ndアルバムをリリースする!」
というニュースが舞い込んできた瞬間の高揚感、そこから焦らされるように先行リリース曲を聴きながら過ごした日々。それくらい私にとってSuperorganismは大きな存在でした。
そもそも1stアルバムがリリースされて存在を知り(確か星野源ANNがきっかけだったはず)、Inter FMでオロノがやっていたラジオ『Oh Wow, Very Cool!』を毎週聴いていたのが2019年から2020年頭の高校3年生の頃。
受験戦争に疲れてどこか遠くに行きたい、なんてぼんやりと思っていた私には、オロノから溢れ出る自由さや経験の豊富さ、当人の英語力等も含めて羨ましく思っていたのを覚えています。
ある意味では、私の留学に対するモチベーションはSuperorganismから始まった、とも言えます。オロノがきっかけで『三原勇希×田中宗一郎 POP LIFE: The Podcast』を知り、海外の映画音楽含めたポップカルチャーをより深く知りたいと思えたことは、自分の内面にかなりの影響を及ぼしています。
そんなSuperorganismの新作『World Wide Pop』から私が特に好きな一曲が『crushed.zip』。個人的な解釈だけれど、この曲はなんだか人間関係について歌っている気がしていて、"I'm feeling so crushed" ってワードがどうも常に人間関係に面倒くささとか、煮え切らない気持ちを感じている私の心にフィットした感じ。ここの言語化にはもう少し時間がかかりそう。
5. Matilda/Harry Styles
1Dも、ハリーの1stも2ndもそこまで一生懸命聴いてきたリスナーでは無いのですが(2ndの『Watermelon Sugar』と『Adore You』は大好き)、今作はアルバム全体として何回も繰り返し聴きました。
最初のうちはアルバム冒頭の『Music For a Sushi Restaurant』とか、TikTokでもInstagramリールでも飽きるほど聴いた『As It Was』辺りが好きだったのですが、聴き込んでいくうちに良い曲だな、良い歌詞だな、と思ったのが7曲目の『Matilda』。
また、リリース後にライター・翻訳家の池城美菜子さんがnoteに掲載された「ハリー・スタイルズ 『ハリーズ・ハウス』全曲解説」は非常にこのアルバムを理解する上での助けになりました。
それ曰く、この曲で参照されているマチルダとは、イギリスの児童文学作家ロアルド・ダールの作品『マチルダ』からきている、とのこと。ダールって誰だろう、ってふと調べてみると『チャーリーとチョコレート工場』の原作を書いている人でした。また読みたい本リストが膨らみます。
アルバム全体を通じてハリーは酒だったりドラッグの話をしていたりで、少し不健康な感じはしているのだけれど、この曲は大切な人を本気でケアしよう、助けようとする気持ちが伝わってきてとても好きです。
6. Reputation/Post Malone
夏にポスト・マローンのコンサートが車で1時間の場所でやっていたのに、行かなかったのは結構後悔しています。そもそも私が今いるネブラスカには有名アーティストがほとんどと言っていいほど来ないので・・・(同じく夏に予定されていてチケットも取っていたマルーン5のコンサートは公演数ヶ月前にキャンセルが発表され、同日に日本ドームツアーのお知らせが届きました。北米を見限ったのか・・・?)。
ポスト・マローンの新作アルバム『Twelve Carat Toothache』は今年結構聴いていたと思います。前作の『Hollywood's Bleeding』もそうだけど、ラッパーというよりもうシンガーとして歌が上手いので、その聴き馴染みの良さとかシングル曲のキャッチーさとかが繰り返し聴かせる要因でした。
ただ、今年ポスト・マローンを見て「こいつ、すげえな!」って思ったのは今回あげた『Reputation』をテレビ番組で披露している姿をYouTubeで見た時のこと。
ピアノだけの伴奏、タバコの煙を吐き出しながら掠れた声で歌う姿。あまりにも強すぎる。少し数年前よりふっくらとした体つきを見ても、これまでに経てきたキャリアの成功の裏の過酷さ、痛みのようなものが透けて見える。君まだ20代だよね?
どうかこれからも長生きして良い作品を生み出してくれますように。
これは余談だけれど、今年友人経由で知ったアーティストにLEXがいて、彼のPOP YOURS 2022での『大金持ちのあなたと貧乏な私』でも、なんだか似たようなものを感じました。彼まだ20歳。5年後とかの貫禄、すごいことになってそう。
結構な文量になってしまったので、続きは後編へ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?