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周回するダイヤモンドとその後のメーテル

 リオ・バナナナッツの繰り出した魔法陣が、フィールドで光を放つ。周囲の植物は、短く刈り揃えられているにもかかわらず、そのエネルギーにより揺れている。
 彼女が拳に力を入れると、円陣は跳ねるようにして中空に浮いた。まるで生きているみたいだ。次第に収斂して球体に近づいてゆく。そのたびに輝きが強くなっているのを感じる。これはやばい。

 俺は脳のリミッターを外した。デジタルアルパカ社製の合金サイバネは強度も高いが出力も高い。うまく制御できない腑抜けは、自分の脳に細工をしなければならない。つまり俺のことだ。だが、たとえ四肢が砕けようとも、今回だけはやられるわけにはいかない。

「どした。あんたに真剣なんは似合わん」

 囁く声が聞こえる。こいつはリオの相棒、ノムラだ。俺の足元にしゃがみこんで、こうやって揺さぶりをかけてくるのだ。

「ゆうべ、スナックでお姉ちゃん相手にずいぶんはしゃいだろ。鼻の下のばしてるんが、あんたらしいと思うわ」

 そうだ。前回はこれでやられた。だが俺もバカじゃない。昨夜はダーク霧島のソーダ割と二杯と、エネルギーデバイス甲類を一本だけにおさえたのだ。前後不覚にはならなかった。つまり、ノムラははったりをかましているってことだ。無視するに限る。

 リオ・バナナナッツが球体を放った。そのエネルギー集合体がおよそ時速160kmで直進してくる。だが精神を安定させた俺はコースをすでに見切っている。直進するだけならどうということはない。これだけ魔力を放出したあとなら、リオはすぐには動けまい。デジタルアルパカ社製の合金サイバネがその真価を発揮するときが来た。

 まてよ。様子がおかしい。
 軌道が、曲がっている。

 微かに聞こえてくるこれはノムラの囁きではない。リオの詠唱だ。
 まさか……出力の高い放出系の魔法に、さらに操作系を重ねているとでもいうのか。

 事実、球体はコースを変えている。俺の身体から逃げる方向へ。リオから見れば左下。アウトコース低め。ノムラのミットが伸びる。これは、外角へ外れるボール球だ。すでに俺のスイングは止められない速度に達している。やられた。だが諦めめない。リミッターを解除しておいたのは正解だった。肩と肘のヒンジを展開する。ついでに手首もだ。グリップが遠くなり、バットの遠心力が増す。これならば……とどく。

 本来ならワンバウンドになるような激しいボール球を、俺のアオダモ製バットの真芯が捉えた。

 振り抜いたまま、俺はザンシンを決める。走り出す理由はなかった。
 ライト方向へ飛んだボールは放物線すら描かない。ライナーのままスタジアムのエリアを超え、輝く星々のひとつになった。

 マウンドでリオ・バナナナッツがうなだれている。その姿を見るのは実に16試合ぶりだ。ノムラは呆然としているが、そのうちボヤキが始まるだろう。そのまえにダイヤモンドを一周しておくとしよう。

 ホームを踏んだら、その足でスナック・メーテルに駆け込もう。
 ワクワクが止まらない。

おわり


これはなんですか?

むつぎはじめさん主催のサイエンス・ファンタジー ワンシーンカットアップ大賞の参加作です。サイエンスもファンタジーも得意分野ではないのでつい胡乱に逃げました。本当にすみませんでした。でも楽しかったのでありだと思います。

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