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ながぐつのブーとツー

「ねるまえのはなし」という電子書籍に収録予定の短編です。こどもを寝かしつけるときの、読み聞かせに使ってもらえるような本を目指しています。


 ミミちゃんが大切にしている黄色い長靴。

 名前をブーとツーといいます。

 ミミちゃんは、雨の日が大好きでした。
 だって、大好きなブーとツーとお出かけできるんですもの。

 その日も朝から雨が降っていたので、ミミちゃんはブーとツーを履きました。そして、お母さんに黄色のレインコートを着せてもらって、幼稚園バスに乗りました。
 ブーとツーと一緒に幼稚園バスに乗ると、ちょっと不思議。いつもの道が、まるで遊園地のゴーカートみたいに、わくわくするんです。

 幼稚園は山の上にあります。
 バスは、森のよこを通り、橋を渡って、登り坂を進んでいきます。
 ミミちゃんは、冒険している気分になって、景色を眺めました。

 幼稚園に着くと、ブーとツーは下駄箱に入ります。
 お友達の長靴も、みんな色とりどりです。
 ブーとツーの右には赤い色、左には水色の長靴がおさまりました。

 お昼ご飯を食べ終わってしばらくしたころ、ミミちゃんのお母さんがクルマでやってきました。
 ミミちゃんには、まだ小さいチーくんという弟がいます。そのチーくんが、熱を出してしまったのです。
 お母さんは、チーくんを町の病院に連れて行くことにしたので、おうちが留守になってしまいます。だから、ミミちゃんをお迎えに来たのです。
 ミミちゃんはチーくんが心配になりました。大慌てでお母さんのクルマに乗りました。

 クルマが走り出して、しばらくしてから、ミミちゃんは気づきました。
 あまりに慌てたものだから、上靴のままだったのです。

 ブーとツーを幼稚園に忘れてきてしまったのです。


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 ブーとツーは幼稚園の下駄箱でミミちゃんを待っていました。
 でも、ミミちゃんは迎えにきてくれません。
 下駄箱にいた仲間たちも、ひとり、またひとりと帰っていきます。

 やがて、ブーとツーだけになってしまいました。

 もう、雨は止んで、外は夕焼けです。

「きっと、ミミちゃんは用事があって帰ったんだ」
「そうだね。きっとそうだ」
「けど、僕たちを忘れて行っちゃったなんて、ミミちゃん困るだろうな」
「そうだね。きっと困るね」
「よし、僕はいいことを思いついたぞ」
「それなら、僕もいいこと思いついたぞ」
「自分たちで、ミミちゃんのお家に帰ろう!」

 そうして、ブーとツーはふたりで幼稚園の下駄箱を飛び出しました。

 ふたりは、かっぽかっぽかっぽかっぽ、歩いていきます。

「このあたりは、幼稚園バスでなんども通ってるから、大丈夫」

 ふたりは、かっぽかっぽかっぽかっぽ、進んでいきます。

「ほら、あの花畑のそばを通るんだ」

 ふたりは、かっぽかっぽかっぽかっぽ、山道を降りていきます。

 すると、右にカーブした遠い先に、橋が見えました。

「ほら、あの橋だ。朝はあれを渡って来た」
「でも、ずいぶん遠いね」
「そうだね。遠回りだね」
「ねぇ、近道をしよう。まっすぐこの坂を下りていけば、きっと近いよ」
「いいね。そうしよう」

 ふたりは、かっぽかっぽかっぽかっぽ、急な坂を下りていきました。

「川だ」
「そりゃ、橋があったんだから、川ぐらいあるさ」
「浅いところを見つけて、渡ろう」

 ふたりは浅瀬を見つけると、ばっしゃばっしゃばっしゃばっしゃ、川を渡りました。

「よし、これで近道できたぞ」

 しかし、坂を登っても、道が見つかりません。ずっとずっと森が続いています。

「あれ?」
「ひょっとして迷子になっちゃった?」

 ふたりは、道に迷ってしまいました。

 ふたりは、とぼとぼとぼとぼ、深い森の中を行きました。

「怖いねぇ」
「なんだか、薄暗いねぇ」

 ふたりは、とぼとぼとぼとぼ、森の中を行きました。すると。

「やぁ、なんだ。そこにいるのはブーとツーじゃないか」

 草の葉っぱの上から、声がしました。そこにいるのはカタツムリでした。

「やあ、カタツムリさん。こんにちは」
「こんにちは。今日はミミちゃんは一緒じゃないのかい?」

「うん。僕たち、ミミちゃんのお家に帰るところなんだ」
 ブーが言いました。

「だけど、道がわからなくなってしまって」
 ツーが言いました。

「そうなんだ。このまま坂をまっすぐ下りて行くと、けもの道があるからね。ミミちゃんの家は、そっちの方向だよ」
 親切なカタツムリさんは道を教えてくれました。

「ありがとう。カタツムリさん」
「ありがとう。カタツムリさん」


 ふたりは、かっぽかっぽかっぽかっぽ、坂道を下りていきました。

 そうすると、けもの道が見つかりました。

「これがカタツムリさんが言ってた、けもの道だね」
「でもどっちへ行ったらいいのかな?」

 ふたりは、困って立ち止まっていました。すると。

「やぁ、なんだ。そこにいるのはブーとツーじゃないか」

 草の根元から、声がしました。そこにいるのはカエルでした。

「やあ、カエルさん。こんにちは」

「こんにちは。今日はミミちゃんは一緒じゃないのかい?」

「うん。僕たち、ミミちゃんのお家に帰るところなんだ」
 ブーが言いました。

「だけど、道がわからなくなってしまって」
 ツーが言いました。

「そうなんだ。このけもの道を右へ行ってごらん。しばらく進むと池があるからね。ミミちゃんの家は、そっちの方向だよ」
 親切なカエルさんは道を教えてくれました。

「ありがとう。カエルさん」
「ありがとう。カエルさん」


 ふたりは、かっぽかっぽかっぽかっぽ、けもの道を進んでいきました。

 そうすると、池がありました。

「これがカエルさんが言ってた池だね」
「まだミミちゃんのお家は見えないね」

 ふたりは、困って立ち止まっていました。すると。

「やぁ、なんだ。そこにいるのはブーとツーじゃないか」

 池の淵から、声がしました。そこにいるのはサワガニでした。

「やあ、サワガニさん。こんにちは」

「こんにちは。今日はミミちゃんは一緒じゃないのかい?」

「うん。僕たち、ミミちゃんのお家に帰るところなんだ」
 ブーが言いました。

「だけど、道がわからなくなってしまって」
 ツーが言いました。

「そうなんだ。池の向こうに野原が見えるでしょ。まんなかの大きな木に向かって進んでごらん。ミミちゃんの家は、そっちの方向だよ」
 親切なサワガニさんは道を教えてくれました。

「ありがとう。サワガニさん」
「ありがとう。サワガニさん」

 ふたりは、かっぽかっぽかっぽかっぽ、野原を進んでいきました。

 野原のまんなかに大きな木がありました。

「これがサワガニさんが言ってた大きな木だね」
「まだミミちゃんのお家は見えないね」

 ふたりは、困って立ち止まっていました。すると。

「やぁ、なんだ。そこにいるのはブーとツーじゃないか」

 木のてっぺんから、声がしました。そこにいるのはツバメでした。

「やあ、ツバメさん。こんにちは」

「こんにちは。今日はミミちゃんは一緒じゃないのかい?」

「うん。僕たち、ミミちゃんのお家に帰るところなんだ」
 ブーが言いました。

「だけど、道がわからなくなってしまって」
 ツーが言いました。

「そうなんだ。野原の出口を教えてあげる。僕が飛んだ方向に進むといい。ミミちゃんの家は、そっちの方向だよ」
 親切なツバメさんはふたりの上をくるっと回って、野原の出口のほうへ飛んでゆきました。

「ありがとう。ツバメさん」
「ありがとう。ツバメさん」

 ふたりは、かっぽかっぽかっぽかっぽ、野原を進んでいきました。

 野原の出口まで着いたとき、お日様はだいぶ傾いて、薄暗くなってきました。

「あ、あの屋根、ミミちゃんのお家の屋根だ!」
「本当だ! あれは、ミミちゃんのお家の屋根だ!」

 ふたりは嬉しくなって、かぽかぽかぽかぽ、かぽかぽかぽかぽ走りました。

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 ミミちゃんのお家では、もうすぐ晩ご飯の時間です。

 弟のチーくんはお医者さんに診てもらったので、熱はすっかり下がって元気になりました。

 でもミミちゃんはなんだか元気がありません。
 大好きなブーとツーを、幼稚園に忘れて来てしまったからです。

「きっとブーとツーは、誰もいない幼稚園で寂しく待っているんだろうな」

 そう思うと、ミミちゃんは悲しくて悲しくて泣きそうでした。
 お母さんが用意してくれた温かいスープも、飲めそうにありません。

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 ブーとツーは、ようやくミミちゃんのお家にたどり着きました。

「やっと、ミミちゃんのお家に着いたね」
「うん、やっと、僕たちのお家に帰って来たね」

 ふたりは嬉しくなって、ぽっこぽっこぽっこぽっこ、飛び跳ねました。

「でもどうやってお家に入ろうか」

 ふたりは、困ってしまいました。すると。

「やぁ、なんだ。そこにいるのはブーとツーじゃないか」

 お家の屋根から、声がしました。そこにいるのはフクロウでした。

「やぁ、フクロウさん。こんにちは」

「ほほほ。もう、こんばんわじゃよ。ふたりだけでどうしたんだい。ミミちゃんはお家の中にいるよ」

「僕たち、幼稚園から帰って来たんだ」
 ブーが言いました。
「でも、中に入れなくて」
 ツーが言いました。

「ほほほ。そうかそうか。では、わたしがミミちゃんを呼んであげよう」

 そう言うと親切なフクロウは羽を広げ、ふたりの前に降りました。そして小石を掴むとふたたび舞い上がり、窓に向かってその小石を投げました。

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 こちん

 テーブルに料理が並んだころ、窓から小さな音がしました。

 こちん

「ねぇ、お父さん、窓から音がしない?」

 ミミちゃんは尋ねましたが、お父さんは気づいていないようでした。

 こちん

「ほら、やっぱり音がする。わたしちょっと見てくるね」

 そう言ってミミちゃんは席を立ち、窓のカーテンを開けました。すると。

 そこにいたのは、ブーとツーでした。

「ブーとツー!」

 ミミちゃんは驚きました。

「お母さん! ブーとツーが帰って来た!」

 ミミちゃんは裸足のまま玄関を飛び出し、ブーとツーを抱きしめました。

「自分たちで帰って来たんだね。すごいね。よく帰って来てくれたね。忘れたりしてごめんね。でも、帰って来てくれて本当に嬉しい!」

 大好きなミミちゃんに抱きしめてもらって、ブーとツーはとっても嬉しくなりました。


 ブーとツーはその夜、ミミちゃんのお家の下駄箱で眠りました。
 たくさんの仲間たちに囲まれて、それはそれは幸せな夜でした。


おわり


この作品をkonekoのおもちゃ箱へ提供いたします。たくさんの子どもたちへ届きますように。


そのほか、こんな冒険作品も書いております。


かなったさん、素敵な取り組みを紹介してくださり、ありがとうございます!


電子書籍の表紙制作費などに充てさせていただきます(・∀・)