企業価値向上とは具体的に何か~ESG経営を強くするコーポレートガバナンスの実践

本記事は「ESG経営を強くするコーポレートガバナンスの実践」松田千恵子 を読んだアウトプット記事です。

コーポレートガバナンスの概要

ガバメント(上意下達)とガバナンス(関係者が協議して自律的な合意形成を行うシステム、統治というより自治、協治)は、対立しやすい概念

企業を船に例えると、船の持ち主である株主が、舵取りを任された船長=経営者 を規律づけるもの。
経営者と株主の関係性が、第一義的なコーポレートガバナンス。→指名・報酬・監査 が大事な要素
株主とそれ以外の関係者は立場が違う。社員も取引先も、法人である会社と何らかの契約を結んでいる。
株主にとって、企業の経営戦略=自分のお金の投資運用方法なので、株主は船長に「任せるけどちゃんと見ている」
しかし日常業務の詳細まで報告する必要はない。
重要なのは

企業実績~会計報告など
内部基盤~内部統制報告書など
将来戦略~一番知りたいこと 中期経営計画、統合報告書など?

ガバナンスのタイプ(機関設計)は三択

1.監査役会設置会社型
2.指名委員会等設置会社型
3.監査等委員会設置会社型

機関投資家の動きが変わってきた

コーポレートガバナンス・コードが求めているのは「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」→これを投資家の言葉で言い換えると「中長期的な将来キャッシュフロー生成能力」

将来的な市場、競合の状況、競争優位性の所在に加えて、環境・社会への影響の情報を求めるのが最近の機関投資家。企業に対話を求めるためにガバナンスコードは最強の武器。

経営者は、右脳的な企業価値と、左脳的な企業価値を統合して、すべてのステークホルダーに向けて可視化すべき。
常に2つを紐づけて発信することに意を用いなければならない。
ゴールを明らかにし、そこに至る道のりの枠組みを語り世界観を示す。その推進のために必要な意思決定、責任を担う。

FTSEは、日本の企業について、植林活動や寄付活動など、企業の経営戦略と直接関係のないフィランソロピーなどの開示はあっても、業務に直結するような環境保全・社会への配慮につながる開示は全体的に少ない、とコメントしている。また、報告書が投資家向けというより、社内教育や消費者向けのコミュニケーションツールとしての位置づけが強い、とも。

「CSRとキャッシュフローを結びつけるのはいかがなものか」と考える担当者がいるが、全くのナンセンスで、環境を目的に活動したいなら環境保護団体になればよく、企業はあくまで企業として利益を追求しながら活動するもの。

日本は、安定した時代が長く続いたがゆえに、「自社の将来像を的確に構築し、開示する」「資本効率を意識した経営をする」ことから逃れてきた。

前者については、中期経営計画が重要なツールであるが、実態としては形式的なツールになってしまっており、総花的な取り組みの書き記し・美辞麗句の連発・官僚の作文になっている。本来は経営戦略を記すことが目的。日本の株主は、かなり優しい。

また、統合報告書も同様に重要なツールだが、アニュアルレポートとCSRレポートを足して二で割ったものが統合報告書だと思っている企業が多い。CSR=非財務情報ではない。企業の将来像を定性的に語らねばならない。企業の未来から離れた社会貢献だけを語ってもダメ。「全社的な取り組み」「経営者からの発信」が必要。

後者については、資本コストが何かよく理解されないまま、企業価値の向上について謳う企業が多いという状況。

企業価値の向上(左脳的な意味での)とは

それは資本効率を向上させることである。資本コストとは投資家にとって、最低限期待している収益率のことである。

加重平均資本コスト:WACC=実払額でなく機会費用である。企業が設けるうえでのハードル・レートである。過去の実績でなく将来の予測である。

※投下資本=有利子負債(借金)+株主資本であり、加重平均とは負債コストと株主資本コストの加重平均コスト
※WACC=ROA(総資産利益率)-ROIC(投下資本利益率) 
※ROEは株主資本に対するリターン、ROICは投下資本=有利子負債+株主資本に対するリターン
※株主資本コストの計算にはCAPM(資本資産評価モデル)がある。まずは株主市場全体に投資した際に、安全資産と呼ばれるその国の国債に投資するのに比べてどのくらいリターンが多いのかを計測し、次に、株主市場全体の動きに比べてどのくらいリターンが多いのかを計測し、次に株主市場全体の動きに比べて、対象とする個別企業の株主はどのような動きをするのかを計測<β値=株主市場全体と比較してその会社の株価がどれくらい動いたかの比率>して、その対象株主に期待されるリターンを推定する。

つまり、企業価値を上げるには3つ方法がある。

1.資本投下はせずに事業から得られる収益を増やす→事業戦略→営業キャッシュフローの増大→将来生み出されるキャッシュフローを増やせばよい→売り上げを増やし費用を減らす

2.資本コスト<収益にする→投資戦略→投資キャッシュフローの適正化→投下される資本(元手)を減らす→投資の実行または撤退→管理会計上のバランスシートをきちんと見る

3.資本コストを引き下げる→財務戦略→財務キャッシュフローの柔軟な調達→その資本にかかる機会費用を下げる→有利子負債と株主資本のミックスを変える、または、情報開示を充実させて資本コストに関する考え方を変えるようなアプローチとする。投資家に対して十分に情報を提供すれば、それだけ「リスクを過大に見積もることで機会費用が高くなる懸念を防げる可能性」がある

コードの改訂においては、事業ポートフォリオマネジメントへの言及がある。資本効率を企業全体で見るだけではなく、企業が持つ事業の構成にまで踏み込む必要があると示唆されている。



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