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「メタルの基本」がこの100枚でわかる! (星海社 e-SHINSHO) | 伊藤政則, 増田勇一, 荒金良介, 奥村裕司, 川嶋未来(SIGH), 後藤寛子, 鈴木喜之, 高橋祐希, 武田砂鉄, 行川和彦, 西廣智一, 長谷川幸信, 山﨑智之, 梅沢直幸(『ヘドバン』編集長)

 タイトルは普通だけど、豪華執筆陣で著者表記がすごいことになっている新書。

 ヘドバンは、これまでメタルの基本的なムックを何冊か出版している。この新書も同じようなコンセプトで、ヘドバン本誌同様若い人たちにメタルを啓蒙しようという流れの一環に違いない。

 さて、今回はたまたま気まぐれでKindle版でこの本を購入した。紙の本にこだわっている僕としては珍しいことだ。

 しかし、Kindle版を読み始めておやっと思った。各アルバムの紹介文に、曲名ではなくトラック番号が書かれているのだ。それ自体は、メタル雑誌Burrn!などにも見られることで珍しくないのだが、本書はそのトラック番号がリンクになっているのだ。なんと、このトラック番号がAmazon Musicへのリンクになっており、本文を読みながらトラック番号をタップすると、実際にその曲を聞きながら解説を読めるという仕掛けである。

 長年、音楽雑誌や書籍を読んできたが、さすがにこういう試みに出くわしたのは初めてである。いや、しかし実は画期的なことかも知れない。昔は、アルバムの紹介本を読んだら、その本部から一番自分の感性似合いそうなものに目星をつけ、翌日CDショップでそのアルバムを買ってくるというのが普通の流れであった。その結果、そのアルバムがあたりだったり、いまいちピンと来なかったり、その繰り返しで自分の好みの音楽を探求していった。

 それが、今は本文に触れるだけで文章の言わんとしているサウンドがすぐに体験できるのだ。技術的にはもう何年も前から実現可能で、特に目新しいということではないが、これは今までになかった音楽体験だ。

 どちらかと言えば、メタル雑誌を始め、音楽関連の書籍は電子書籍化が出遅れている。実際、Burrn!などは未だに紙媒体しかない。まあ、古めかしいヘヴィメタルファンの考えらしいと言えばらしいのだが、そろそろ何か改革があってもいいのではないか。メタルファンはいつでも保守的だ。

 そんな中に、こういう「聞ける」書籍が登場したのは心強い。実際のところ、ヘドバンのような本を若い人が読んでいるのかは疑わしいところもあるが、新しくこのジャンルに入門しようという向きにはこの上なく親切な作りと言えるのではないだろうか。

 実際は、Amazon Music Unlimitedに契約していないと聞けない曲もあり、そこまで敷居が低いというわけでもないのだが、それでもこういう試みを導入したことは評価したい。本当なら、Spotify辺りへのリンクにすれば無料で聞けたのに、と思わなくもないが、その辺のストリーミングサービス選択のちぐはぐさも保守的な音楽書籍業界らしいところかもしれない。

 肝心の本誌内容だが、初っ端にAC/DCの『Back in Black』、次にACCEPTの『Metal Heart』と、本当に基本に忠実なラインナップだ。そう、ABC順でメタルアルバムを100枚紹介しているのである。

 ABC順には意味があるだろう。下手に恣意的な順位をつけないことで、読者はどのアルバムも並列的にメタルを代表する基本のアルバムという意味合いで捉えることができる。こうして半世紀の歴史を持つヘヴィメタルの歴史を、偏見なく吸収することができる若いメタルファンは幸福ではないか。

 願わくば新しいメタルファンが増えることを祈って。


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